新潟山形県沖地震の揺れの解析 その2 [ddt³さんの部屋]
4.基線補正の検証と周波数特性
図-13に、基線補正後の加速度波形のEW,NS,UDを示します。これと原波形の図-1を比較しても、どこが変化したのか、ほとんどわからないと思います。
もしぱっと見で違いがわかったら、明らかに補正の(データ加工の)やり過ぎです。違いが見えないと思いますので、周波数領域で比較します(図-14)。
図-14では、補正前の加速度の振幅スペクトルを黄色いラインで示していますが、補正後の青ラインと重なってほとんど見えません。基線補正が地震波の特性に大きな影響を及ぼしていない事がわ
海溝型の地震の主要周波数は1~10 Hzと言われています。この地震の周波数特性ですが、まず第1ピークが5~10 Hzにあり、高周波の地震です。また第1ピークとあまり違わない大きさの第2ピークが10~11 Hzの範囲にあり、直下型の地震にかなり似ています。この前の北海道胆振東部地震(直下型)でも、同じようなスペクトル分布が得られました。今回の新潟山形県沖地震と、海溝型の典型である東北地方太平洋沖地震(3.11)を、パワースペクトル(振幅2乗値)で比較したのが、図-15です。
3.11はM9.0という超巨大地震ですので10 Hz以上のパワーもすごいですが、無視できないパワーを持つ周波帯が、1 Hz以下まで満遍なく広がっているのが特徴です。そういう意味では3.11は、低周波な地震です。総出力は概ねパワースペクトルの面積に比例すると考えられるので、3.11のパワーは圧倒的です。ちなみに牡鹿は3.11の震央から最も近い地点で121 kmです(^^;)。
新潟山形県沖地震は、直下型に近いなぁ~という印象です。ただし3.11の深さはこの規模の地震では非常に浅いと考えられる24 kmですから、直下型の性質も持ってるようです。
5.変位軌道
図-12の変位結果から、変位軌道を描いたのが図-16です。こんな風に揺れました?・・・ってわかるわけないか(^^)。
5.距離減衰
震源(震央距離)と加速度振幅の2乗値(1乗値)の両対数は、良好な線形相関を持つと言われています。その相関を表す回帰直線が、距離減衰式です。ここでは震源距離dと振幅2乗値pを用います。振幅2乗値は意味として、波動のパワーに対応するので。図-17です。図中の黒点線が、距離減衰式を表します。少々データ処理は行いましたが、どちらの直線も相関係数のR2値は0.6以上あります。回帰直線は、
log10 p=-1.6546・log10 d+1.2586,d ≦ 100 km.
log10 p=-5.1687・log10 d+8.2348,100 k m≦ d.
回帰直線が2つに折れるのは、直下型の特徴だと自分は思っています。一方、海溝型の典型である東北地方太平洋沖地震では、
という風に、一つの回帰直線で表せるケースが多いです。
距離減衰からみても、今回の地震は直下型に近いのではなかろうか?というのが、自分の意見です。実際に冒頭のgoogle earthからも明らかなように、陸地から非常に近く非常に浅い所で起こった、海底地震です
6.まとめ
なんか四川省の直下型地震と規模も深さも変わらないくせに、どうして日本の方が被害が小さいんだ?などと、中国がうらやんでるみたいな記事も見たのですが、自分の意見では偶然ですよ。本当の直下型でなかった、というだけの偶然。
加速度振幅の2乗値の対数と計測震度の間には、じつは非常に良好な相関があるのです。どちらも地震のパワーを表す代表値だからです。
加速度の振幅2乗値と計測震度には、R2=0.9294の相関があります。計測震度の計算法は、上手くできてるなぁ~と自分は思います。
図-19の回帰直線は、sを計測震度として、
s=0.8569・log10 p+5.5601
(5)
です。
もし新潟市が震央だったらと仮定してみます。要するに震源の直上です。その時の震源距離は、深さ10 kmです。これは(4)で、log10 d=log10 10=1という事です。よってlog10 p=-0.396。(5)よりs=5.22。震源距離14 kmの温海の実測震度は5.2ですから、この値は妥当そうですが、回帰直線はあくまで統計量です。
図-17を見ればわかるように、実測データは距離減衰式のまわりでばらついています。なので青ラインで示したように、実測データを包絡させた方が安全なのです。青ラインは(3)で表される回帰直線を上へ1だけシフトさせたものです。でも対数目盛ですからね。上へ1という事は10倍の差です。振幅2乗値で10倍ならば、振幅値では3.2倍の差になります。温海の最大加速度振幅は653 galですから、653×3.2=2065 gal~2.1 gにもなります。この値は日本に残っている強震観測記録の最大値の約2倍です。
このように距離減衰式は、対数目盛マジックにおんぶにだっこの方法なのです(^^;)。さらに図-19にも±1程度のばらつきがあります。これも青ライン側へシフトさせて考えるのが安全です。そうすると最悪の事態では、log10 p=-0.396+1=0.604,s=0.8586×0.604+5.5601+1=7.079~7.1。でもまだ甘いかも知れない。
2014年10月23日に起きた新潟県中越地震は、M6.8,深さ13 kmで今回の地震に似ています。ただしこれは完全な直下型。最大計測震度は7を記録しました。震源の直上にいなかった幸運に感謝すべきだと、自分は思います。もしいたら、こうなっていてもおかしくなかったと思う。
図-20 北海道胆振東部地震の斜面崩壊,厚真町
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E8%83%86%E6%8C%AF%E6%9D%B1%E9%83%A8%E5%9C%B0%E9%9C%87#/media/ファイル:Ground_surface_in_northern_Atsuma_Town_after_2018_earthquake.jpg
こういう斜面崩壊が何10 kmの長さで、延々と起こった。
1995年1月の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の少し前、1989年10月にサンフランシスコ地震(ロマ・プリータ地震、M7.1,深さ18.5 kmの直下型)が起き、倒壊する高速道路から落下する車両という衝撃の動画が報道されたものでした。
この時、日本の耐震業界の大御所は言いました。
「日本の耐震技術はアメリカより進んでるので、わが国でこんな事は起こらない」
・・・と。
図-21 兵庫県南部地震 名神高速道路(大阪灘区)
一般国民を安心させるための方便だったのかも知れませんが、特殊民である我々は、
「あ~言っちゃったよ、この先生」
と思ったものでした。ほどなくして兵庫県南部地震(M7.3,深さ16 kmの直下型)が起こり、高速道路の丸ピアが次々と根こそぎ倒れたのは記憶に新しいです(私には)。
その後、ものすごい速さで復旧仕様が出され、耐震基準はほぼ年単位で改訂されて行きました。その時の中心メンバーの一人は、先の大先生でした。
直下型の現場にはいたくないですね。
女性の写真を「裸」にするアプリ、批判受け削除 AFPBB [ひとこと言わねば]
人工知能(AI)を利用して女性の写真を裸にできるアプリが、悪用の恐れがあるとしてソーシャルメディア上で多くの批判を浴び、… https://t.co/grJvqRmh8O
— AFPBB News (@afpbbcom) 2019年6月28日
男女平等の世の中だから、男性の写真を裸にできるアプリも出すべきだケロね。
このアプリを使うと・・・
新潟山形県沖地震の揺れの解析 その1 [ddt³さんの部屋]
新潟山形県沖地震の揺れの解析 その1
先日の中国四川省の直下型地震で、M6.0,深さ「10 km」はやばい!なんてコメントしたら、18日に来ちゃいましたね。それもM6.8,深さ「10 km」が・・・。それでお見舞いというわけではないのですが、地震波を解析してみました。
1.震源情報
気象庁発表によれば、発生時刻は2019年6月18日22時22分、震央は北緯38.6°,東経139.5°、M6.8、深さ10 kmです。ここでは防災科学研究所の強震観測網K-Netのデータで、震源に最も近い温海の観測ステーションの記録を使います。震央距離は8 kmです。ところで新潟は・・・震央距離約87 kmの計測震度4となっておりました。
2.地震加速度波形
温海観測ステーションのEW(東西),NS(南北),UD(上下)の地震加速度波形を図-1にあげます。サンプリング周波数は100 Hz(0.01秒)、観測時間は148秒です。
東西方向の最大加速度は約600 gal、南北方向は600 gal超え、上下方向でも200 galです。1 gal=1 cm/s2ですから、水平方向には概ね0.6 g/cos45°、上下方向には0.2 gとなります。つまり水平方向に自分の体重の約8割がたの力で引っ張られ、同時に子供一人を肩に載せたくらいの衝撃力を、0.01秒間に食らった事になります。インタビューで誰かが言ってましたが、とても立ってはいられませんね。
3.基線補正
加速度記録(cm/s2)があれば、1回積分して速度(cm/s)、2回積分して変位(cm)です。数値積分にはふつう台形公式が使われます。台形公式は振動と周期関数のたぐい対しては精度が良好な事、加速度記録はデジタルデータなので折れ線近似以上の情報は得られないから、というのがその理由です。しかしそのまま積分を実行すると、積分結果は見事に発散するのが普通です。そこで基線補正といわれるデータ補正を行います。ただし補正のやり方には諸説あって、ここでは一番単純な方法を採用します。
まずNS加速度をそのまま積分した結果が、図-2です。
積分結果は、速度の最大が375 cm/s,変位の最大が27551 cm。最終速度は時速13.5 km/h,移動距離は275.5 mになります。明らかに嘘ですよね?(^^;)。
グラフを見直すと、速度はほとんど直線で等加速度運動状態です。対応して変位はほとんど放物線です。地震で等加速度運動はあり得ないでしょう。だって図-1の地震の主要動は概ね16~30秒の範囲で、それ以降は明らかに終息に向かってます。にも関わらず速度と変位がずっと増え続けるというのは、納得できません。宇宙空間じゃあるまいし・・・。
加速度測定値に一定値の誤差があると考えられます。これを零点シフトと言って、現実の計測では必ず起こります。零点シフトの値を推定します。
零点シフトは地震波がない時の測定値の状態を調べれば良いはずです。図-1のNS加速度を見ると、計測開始の最初の16秒間ほどは地震波が来てないので、そこの平均値をとり時系列全体から引けば良いと考えられます。しかし地震波の正確な始まりの時刻はどこでしょう?。もちろん厳密にはわかりません。また16秒くらいでやっても問題なさそうにも思えます。しかし数値積分はちょっとしたゴミのために図-2のような結果を招きます。出来る限りの事をするために、ここでは以下のようにします。
K-Netの加速度計仕様によれば、分解能は0.001 galです。0.001 gal以内の変動は、+0.001 galとも0 galとも-0.001 galとも記録される可能性があります。よって有意な変動は0.002 galよりも大きなものと考えられます。図-3は0.01秒ごとの加速度変動を計算し、0.002 galよりも大きければフラグ1を立て、以下であればフラグ0を立てて時系列順に並べたものです。
有意変動は計測時間中に万遍なく分布していますが、非有意変動がほぼ連続的に密集分布している時間帯が、計測開始からしばらく続きます。その範囲と図-1のNS波形を見比べると、この部分は地震波がまだ来てない時間帯と判断できます。そこでその時間帯の最後の時刻t0=15.94秒を波形開始時刻と決めます。0~t0にあるデータの平均値は、ajを加速度データとすると台形公式で、
(1)
で求められます。a1=a(0),aN0=a(t0)です。A0の値を加速度時系列全体から引き、積分をやり直した結果が図-4です。これを[基線補正-1]とします。
地震波が来ていないと考えたt=t0までは確かに妥当です。速度,変位ともほとんど0をたもってます。しかし地震波が始まると、また等加速度状態に見えます。という事は波形開始後は、それ以前と別の零点シフトになったのでしょうか?。零点シフトが零点ドリフト(漂流)に移行する事も、じつはごく普通に起こります。
加速度計は電気回路ですが、入力が小さい時と大きい時で回路の特性に微妙な変化が生じるのが現実です。それでも最終速度は15 cm/s,移動距離は9 m程度と大幅に改善されてます。人の歩行速度は1 m/sほどなので、[基線補正-1]は確かに効果があったと考えられます。ちなみにA0=-2.435 gal~-0.0025 gのゴミですが、速度と変位には大きな影響があります。この程度の加速度が本当に効いてるとすれば、無感地震程度で日本列島は移動しまくりです。
図-4の速度波形を参考に波形開始後の零点シフトも開始前と同様に考えると、測定後半に速度の傾きとしてそれが明確に現れてるように見えます。図-4からは100秒以降で速度は十分直線的かな?と見えるのですが、NS波形の時系列全体を示すと、図-5です。
100秒以降にも小さな有意振動が見えるんですよね。そこで非有意変動が時系列の終端でほぼ連続的に分布するようになるまで、有意の基準を上げてやります。
図-6で時系列終端にある非有意データの密集時間帯の最初の時刻t1を、いちおう地震波形の終わりとみなし、それ以降の平均A1(計算法はA0と同じ)を、加速度時系列のt0以降のデータから引きます。A0ではなくA1を引きます。これを[基線補正-2]とします。
再計算結果には、まだ少し等加速度状態が見えます。つまり0≦t0とt0≦t≦t1とt1≦tでは、本当に零点シフトが違うという事です。本当に零点ドリフトが起きてます。この中で、いちおう確実と思えるのは0≦t0の零点シフトだけです。それでも終端速度は2 cm/s,移動距離は2 mになりました。A1=-2.558 galで、A0=-2.435 galとほとんど変わりません。それでもこれだけの違いがあります。
こういう事態になると、もっと強い仮定を持ち込むべきだという意見も出てきます。今までやってきた事は、全てデータ処理に先立つ事前情報(仮定)に基づいています。地震が終息に向かえば速度と変位が増加し続けるわけないとか、計測器は時間的にほぼ一定な零点シフト誤差を必ず持つとかは、みなそうです。根本的な話として、加速度のデジタルデータの測定値を折れ線でつなぐのもそうです。これは、自然は少なくとも連続であろうという仮定です。より強い仮定の代表は、次の二つです。
1) 地震の終端で速度は0になる。つまり地震が終われば地盤は動かない。
2) 地震の終端で変位は0になる。つまり地震が終われば地盤は原位置に戻る。
一見問題なさそうな(というか当たり前の)仮定に思えますが、地震の終端を計測データの終わりにとるしかないという問題があります。計測データの終わりで地震が止んだ、なんていう保証はないんですよ。図-5をみると、なんか150秒以降も地震は続いてるようにも見えますが、1)を適用してみると図-7が得られます。この方法は、時刻t0以降のデータ平均をt0以降のデータから引いた[基線補正-2]と同じです
図-7の結果については「嘘っくせぇ~!」です(^^;)。何が気に食わないっていって、まず速度が(わずかですが)等加速度状態で0に収束するところです。自然現象がそんなに綺麗に挙動するわけねぇ~だろ~!。対応して変位は、時系列の終端でちょうど頂点に達する放物線になります。
「嘘だこれは!」「人工的過ぎる!」。ただし[基線補正-1)]で納得できる結果が得られるケースも、けっこうあるのは事実です。
さらに仮定2)まで適用すると、もっと人工的な結果になる事が多いです。仮定2)には明確な反証があります。例えば東北地方太平洋沖地震(いわゆる東日本大震災3.11)では、地盤が最大5.85 m動いた(動いたまま)と国土地理院がGPS観測に基づいて、はっきり認めています。
そろそろデータ処理の結果としてどの辺りをめざすのか、決めるべき時です。まず計測データの終端で地震が止んだとは限りません。従って時系列終端で速度と変位が0になるとは限らない。しかし収束傾向は見えて欲しいし、終端速度と変位はあまり大きな値にもなって欲しくない。こんなところでしょう。というか、その辺りが精一杯では?(^^;)。
いずれにしろ、図-6の等加速度状態を除く算段を考える必要があります。この等加速度状態は、t0≦t≦t1とt1≦tでの零点シフトのわずかな差から、t0≦tで平均的に起きた等加速度状態だと考えられます。それを言ったら、t0≦t≦t1とt1≦tの零点シフトというものだってそれぞれの区間の平均値でしょう。正確な零点シフトの時間依存性(厳密な零点ドリフト)なんてわかりっこありません。
でもいま実用的に問題になってるのは、t0≦t全体の零点ドリフトの平均値としての零点シフトです。そこで気づくのが、図-4のt0以降の変位が、ある2次関数に載りそうだという事です。変位の近似2次関数の2次の係数の2倍は、その等加速度状態の加速度です。図-4の変位のt0以降を取り出し、近似2次関数を計算してみると、以下になります。
相関係数はR2=0.9999972。ほぼ確実な近似です。この異常な相関性の良さが、零点ドリフトなどの系統誤差の存在を示唆します。
(2)のtの2乗の項の係数の2倍が、零点ドリフトも考慮したt0≦t全体における平均的な零点シフトA1'=-2×0.0562446=-0.1124892 galだと思われます。この値を先の[基線補正-1]の加速度時系列のt0以降のデータから引き、[基線補正-2']とします。
予想通り、ほぼ等速運動状態になりました。ちなみにA1=-2.558 gal、A0+A1'=-2.548 gal。両者の差は、わずかに0.01 gal=0.1 mm/s2。たったこれだけのゴミで、図-6と図-9の劇的な違いが生まれます。
さて図-9の等速運動状態の物理的解釈です。これはもちろん、(2)のtの1次の項に対応した等速度です。
もしt0≦tで今度は直線近似を行えば、再び異常な相関性を示すでしょう。これを系統誤差と考えると速度の誤差なので、加速度波形開始からの加速度誤差の累積です。という事は時系列の後半はほとんど等速度で間違いないと思われるので、誤差の累積は波形開始の最初の部分で起きているはずです。特に疑われれるのは加速度波形の主要動部分です。主要動から後の時間では、等速度誤差に影響する誤差の累積はほとんどないと考えられます。
時系列の終端t2から逆向きに変位データをtまでたどり、t~t2間の回帰直線を計算し変位データとの相関をとり、その変化をtのグラフとして表したのが図-10です。予想通り、異常な相関係数の高さです。最低値は0.9986になりました。終端t2付近の相関係数の低下部は、変位変動がデータ数の少なさを上回った部分で、あまり意味がありません。十分データが増えると直線性が回復し0.9998~0.9999の間で増減します。データの始まり方の増加は、波形の主要動の影響が大きく単なる偶然でしょう。ここで注目するのは、直線性が回復したとみなせる、図-10のt=t3の時点です。さっきの話が妥当であれば、この時点の傾き(速度)v0はかなり信頼できる等速度誤差の値とみなせます。t3=119.58秒,v=0.780254 cm/s。
カタツムリよりも遅いかもしれません(^^)。でもt3=119.58秒のタイミングは、図-6の結果であるt1=120.11秒とほとんど同じです。
図-11は、さっきとは逆にデータの始端からt0~t間の回帰直線を計算し、その傾きとv0との差をtのグラフとして表したものです。ここで注目するのは、データ始端側で相関係数が最大になる時と、回帰直線の傾きがv0に最も近くなるタイミングt4です。さっきの話が妥当であれば、その時点までの加速度誤差の累積で等速度誤差が生じたと考える事は可能です。図-11では理想的に両者がほぼ一致してますが、相関最大時の方を優先します。t4=30.33秒となります。この結果と図-1のNS波形を確証バイアス付きの目で比較してやると、t0=15.94秒~t4=30.33秒の範囲、概ねt=16~30秒の範囲が地震の主要動に見えてきたりします(^^;)。
t4~t2の回帰直線の傾きはv=0.780254 cm/sになります。[基線補正-3]として、
終端速度と終端変位は、-0.111 cm/sと2.404 cm。この結果の評価ですが、震央距離にして8 km、深さにして僅か10 kmという至近距離でM6.0なんていう大規模地震が起こったんですから、本当に新潟県と山形県の沿岸部は2 cmくらい「ずれて止まった」のかも知れません。しかしデータ終端で地震が止まったという保証はないので、まだ変位中かも知れません。そういう思いで変位グラフの末尾を見ると、少しですが減少傾向(収束傾向)が見てとります。また終端速度と終端変位の値は、決して大きなものではありません。この状況は求めていたものです。自分には、かなり自然な結果に見えます。
同様な方法で基線補正を行ったEWとUDの結果も、図-12に示します。
第25回 ランダウの記号と漸近展開 [微分積分]
第25回 ランダウの記号と漸近展開
§1 無限小、無限大
aを実数、または、±∞とする。
関数f(x)、g(x)が点aにおいて無限小のとき、
であるという。
f(x)とが同位の無限小であるとき、f(x)はg(x)のα位の無限小といい、αを位数という。
例1
だから、sinxとxは同位の無限小で、1−cosxはx²無限小でxの2位の無限小である。
また
だから1−cosxはxより低位の無限小である。
関数f(x)、g(x)が点aにおいて無限大のとき、
であるという。
問1 x→0のとき、次の無限小を小さい順にならべよ。
【解】
だから、xとsin xは同位の無限小。
これは∞/∞の極限だから、ロピタルの定理より
よって、x²log|x|はxより高位の無限小である。
(解答終)
§2 ランダウの記号
x→aのときにf(x)、g(x)の比f(x)/g(x)が有界にとどまるならば、すなわち、ある定数Mがあって、点aの近傍の任意の点x(≠a)について
ならば、このことを
で表す。
また、
のとき、
で表す。
このΟやοをランダウのビッグオー、ランダウノスモールオーと呼ぶ。(実は、Οとοはギリシア文字であるオミクロンの大文字、小文字!!)
例2
だから、
である。
だから、
である。
というか、これは定義。
例4
だから、
f(x)、g(x)、φ(x)、Ψ(x)は点aの近傍で定義された関数で、x→aのときψ(x)=o(g(x))であり、
であるとする。
このとき、ψ(x)はo(g(x))であるすべての関数を代表していると考えられるので、o(g(x))をあたかも関数のように
と表すことがある。
同様に、
のとき、
と表す。
さらに、f(x)、g(x)、h(x)が点aの近傍で定義された関数で、x→aのときφ(x)=o(g(x))、ψ(x)=o(h(x))であり、
であるとき、
また、
であるとき、
と表す。
§3 ランダウの記号の性質
定理 (ランダウ記号の演算)
m、nを正数とする。x→0のとき、次のことが成り立つ。
【略証】
(略証終)
§4 漸近展開
定理 (漸近展開)
[証明]
マクローリン(テーラー)の定理より、関数fは、任意の点x∈Iで、
であるθが存在する。
よって、
ここで、
とおく。
よって、
である。
したがって、
(証明終)
以下に代表的な関数の漸近展開を示す。
ここで、
である。
第24回 テーラー展開 [微分積分]
第24回 テーラー展開
定理 (テーラーの定理)
f(x)がa、bを含む区間Iでn回微分可能ならば、aとbの間の適当なcを選べば
が成り立つ。
【証明】
とし、F(a)=f(b)となるように定数Kを定める。
すると、F(a)=F(b)=f(b)となり、F(x)はロールの定理の条件を満たす。
F(x)を微分すると、
したがって、ロールの定理より
を満たすcがaとbの間に存在し、b≠cだから
である。
ゆえに、
(証明終)
n=1とすると、平均値の定理が得られる。
また、
b=x、とおき、(1)を書き換えると、
ここで、はラグランジュの剰余項である。
関数f(x)が級ならば、すべてのnについて(2)が成り立つ。よって、
となる点では、
となる。この級数をf(x)のx=aまわりのテーラー級数という。
特に、a=0としたときのテーラー級数
をマクローリン級数という。
問1 次の関数をマクローリン展開せよ。
【解】
(1) のn次導関数は
だから、
(2) のn次導関数は
だから、
(3) とおくと、
だから、
(解答終)
であることに注意。
ここで、さり気なく、のマクローリン級数の収束の証明をせずに、次の公式を提示する。
無限級数、べき級数のところで、無限級数の収束判定法を紹介するので、それまで保留ということで。
問2 次の関数をマクローリン展開せよ。
【解】
(1) f(x)=sin xのn次導関数は
だから、
したがって、
(2) f(x)=cos xのn次導関数は
だから、
よって、
(解答終)
(注意)
in x、cos xのマクローリン展開については
とするものもあるので注意。
問2の(1)、(2)の剰余項に注目すると、それぞれ、
なので、マクローリン級数は収束し、
お前らに質問(6月27日 微分) [お前らに質問]
お前らに質問(6月27日 微分)
f(x)はx=0で微分可能か?
結論から言えば、x=0で微分可能で、f'(0)=0。
微分可能であることは、右のグラフを見てもらえればよくわかるだろう。
だから、
である。
では、微分の定義に則して、f(x)がx=0で微分可能であることを示してもらいましょうか。
まぁ、要するに、
を求めてもらいましょうか、という問題だにゃ。
この極限は0/0の不定形だから、ロピタルの定理より
などとやったら、ぬっ殺す!!ので、この点はくれぐれも留意すること。
言いつけを背いた奴は、こうだからにゃ。
さらに余力のある奴は、次のことを証明するにゃ。
追加問題
f(x)は偶関数で、x=0で微分可能である。このとき、f'(0)=0であることを示せ。
問題の関数
は、x≠0のとき、
となっていので偶関数、かつ、x=0で微分可能だから、x=0における微分係数f'(0)=0になっているにゃ。
言っておきますが、
偶関数だからf(x)=f(−x)である。両辺を微分すると、
両辺にx=0を代入すると、
は、追加問題の解答にならないにゃ。
なぜ、これがダメなのか、わかるかい?
ところで、
f(x)が微分可能な関数ならば、⑨から
という関係が得られるので、f(x)が偶関数ならば、その導関数f'(x)は奇関数になる。
また、f(x)が奇関数のとき、
だから、この両辺を微分すると、
となり、その導関数f'(x)は偶関数になる。
お前らに質問(6月26日) 算数(?)かも [お前らに質問]
お前らに質問(6月26日) 算数(?)かも
x¹⁰を
という形にしたいにゃ。
さてさて、お前らならば、これをどうやって求めるにゃ、
正攻法は、
右辺を展開、整理し、の係数を右辺と左辺で比較し、係数を定めるという方法なのでしょうが、
この方法だと展開・整理するのが大変だし、おまけに11元の連立1次方程式を解くという、何とも辛く、気が遠くなるような作業が待ちかねているにゃ。
展開するのが嫌なヒトは、x=0、±1、±2、・・・といった値を入れて、11元の連立方程式を解く。
まぁ、a₀=a₁₀=1というのは、すぐに出るから、実際は、9元連立1次方程式だね。
なお、答は、こうなるらしい。
さっ、頑張って、この問題を解いてもらいましょうか。
連立方程式を解かずに、紙と鉛筆を使ってシステマティックに解く方法があることはあるらしいけれど・・・。
数値計算の本なんかには、この方法が書いてあるかもしれないにゃ。
ところで、YouTubeには、オリジナルがないので、
最悪の音質で良ければ、
これに関連する数学の記事は、「第15回 高次導関数」の問3と例1などですが・・・。
そして、明日の「第23回 テーラー展開」。
お前らに質問(6月25日の答) [お前らに質問]
お前らに質問(6月25日の答)
問題 f(x)=x³のx=a(a≧0)における微分係数f'(a)を次の(1)〜(4)で近似した場合の誤差を調べよ。
ただし、h>0とする。
【解答(?)】
また、f'(a)=3a²だから、
(1)式を使って計算した誤差は
(2)式を使って計算した誤差は
(3)、(4)式を使って計算した誤差は
よって、(2)式を使ってf'(a)を計算したものが誤差が最も小さく、(2)式の方が(3)と(4)式よりも2倍精度がいいにゃ。
(解答終)
というわけで、3次関数の場合、(3)または(4)式を使ってf'(a)=3a²を近似したときの誤差が、(2)式の誤差の2倍になるというのは偶然でないってわけ。
また、(2)式は(1)式よりも誤差が小さいけれど、
a>0、h>0とすると、
(1)式の誤差は2ah+h²、(3)と(4)式の誤差は2h²だから、
0<h<3aのときのみ、誤差が小さくなる。
たとえば、
a=0.01、h=0.1とすると、
だから、
(1)式の場合
(3)式の場合
と、(3)式を使ったものの方が誤差が大きくなっている。
(3)を使ってf'(a)の近似値を求めるとき、一般に、(3)の方が(1)よりも精度よく計算できますが、aやh、さらに、関数f(x)の形によっては、(1)式の方が精度が良い場合があるので注意。
(3)、(4)式が使われるのは、差分法を用いた微分方程式の数値解法などの分野で使われるので、普通、この近似式を目にすることはないと思いますが、ただ、物理や工学の実験データなどの解析で、壁面などでのデータの勾配が欲しいときに使わわれることがあるかもしれない(右図参照)。
右の図のような場合、点Aにおける勾配を求めるには、(4)式を使うしかないにゃ。(AとBを直線で結び、その勾配を求めると、実際の勾配よりも大きすぎる!!)
まぁ、最小2乗法などを使って、多項式の近似曲線を求め、それから、点Aにおける勾配を求めるという方法も考えられるけれど、右の図の場合、3点しかないから、多項式による近似式の次数は最大で2次式にしかならないケロよ。
しかも、(4)式は、2次関数の接線の傾き、勾配は正確に求められる。
だとしたら、(4)式を使うべきなんじゃないかい(^^)。
数学の場合と違って、物理や工学の実験の場合、数式は与えられていない、しかも、観測できる点の数は限られており、観測されたデータには必ず測定に伴う誤差が含まれている。
a≧0という制限を取りはらい、さらに、h≠0とすると、
(1)式で近似した場合の誤差は、
(2)式の場合の誤差は
となるので、
すわわち、
のとき、(1)式で近似したf'(a)の誤差は(2)式のそれより小さくなる。
試しに、a=−0.01、h=0.1とすると
f'(0.01)=3×0.01²=0.0003であるが、
となり、(1)式で近似した方が精度よく計算できるにゃ。
どちらの近似値も論外で信用に足りないけれど、こういう逆転現象が起きることもある。
お前らに質問(6月25日) [お前らに質問]
お前らに質問(6月25日)
問題 f(x)は点aで微分可能とする。このとき、次の極限を求めよ。
【解答】
(解答終)
というわけで、hが十分小さいとき、
とf'(a)を近似してみよう。
f(x)=xのとき、(1)〜(4)のいずれの式を使っても、f'(a)=aになる。
では、f(x)=x²の場合はどうかというと、
になる。
したがって、(3)と(4)式は、f(x)=x²の点x=aにおける微分係数f'(a)=2aと正確に計算することができる。
では、ここで、お前らに質問!!
一般に、(3)と(4)のどちらの近似式がf(x)のx=aにおける微分係数f''(a)を精度よく計算できるでしょうか。
また、それは、なぜでしょうか。
f(x)=x³とし、(3)と(4)を使い、f'(a)の近似値を計算し、f'(a)=3a²と近似値との誤差を調べるとわかるかもしれない。
試しに、a=1、h=0.1として計算すると、
となり、(3)式を使ったほうが正確に計算できそうですが・・・。
また、f(x)=x⁴、a=1、h=0.1とすると、
したがって、(3)、(4)式による誤差は
となり、(4)式によるf'(1)の誤差は(3)式によるf'(1)の近似値の誤差の約2倍。
これは、偶然でしょうかね。
ところで、
となるので(間違っているかもしれないので、お前ら、確かめるにゃ)、
と近似することができるはずである。
f(x)=x³、a=1、h=0.1とすると、
f(x)=x⁴、a=1、h=0.1とすると、
似たような式(偏った差分)なのだけれど、f(x)=x³だと(4)式を使って計算したx=1における微分係数と同じ値なのに、f(x)=x⁴のx=1における微分係数を(5)式で計算すると、途端に誤差が大きくなり、精度が悪くなるにゃ。
難しいケロね。
下のグラフは、(5)式を用いてf(x)=x⁴のx=1における微分係数f'(1)を計算した近似値の誤差とhの関係を横軸、縦軸ともに対数目盛を使って表している。
このグラフを見ると、hが10分の1になると、誤差が約100分の1になっていることがわかる。
つまり、(5)式の近似式の誤差はh²に比例しているというわけ。このことを記号Ο(h²)で表す。
この関係は、(3)、(4)でも同じで、近似式の誤差Ο(h²)はなんだケロよ。
どうでもいいことだけれど、Ο(h²)のΟは、ギリシア文字のオミクロンの大文字で、アルファベットの大文字のOではないにゃ。
ではあるが、日本ではランダウのビックオーと呼ばれたりするにゃ。
f(x)=x⁴を例にしたが、これは一般の2回微分可能な関数f(x)について成り立つ関係で
なんだケロよ。
順序が逆転してしまったが、
である。
f(x)=x²のとき、
だから、(1)、(2)の近似式の誤差は、hに比例し、それゆえに、O(h)になることがわかってもらえるのではないか。
「f(x)=x³の場合はどうか」だって。
hは非常に小さい数だから、|h²|≪|h|となり、上の式のh²は無視することができて、
となるので、やっぱ、O(h)だにゃ。
スピカは1つの星じゃないので、
アニメ「2つのスピカ」で使われていたのは「Venus Say ・・・」で、歌詞が少し違う「鯨」という曲があるにゃ、
第23回 関数の近似式 [微分積分]
第23回 関数の近似式
§1 1次の近似式
関数f(x)が点aで微分可能ならば、(a,f(a))における接線は
であり、点xがaの近くであれば、f(x)の値は
と近似することができる。
したがって、x−a=hとおくと、x=a+hだから、|h|が十分小さいとき
が成り立ち、(1)の右辺を1次の近似式という。
f(x)が2回微分可能ならば、拡張された平均値の定理(第16回の定理6)より、
となるので、f(a+h)を(1)式で近似した誤差は次のように評価することができる。
特に、(1)において、a=0、h=xとおけば、次の近似式を得る。
この近似式(2)の誤差は
であるが、|x|が十分に小さいので、おおよそ
の程度である。
だから、②式より
特に、α=−1、α=1/2とすると、
問1 次の近似を求めよ。
【解】
(解答終)
問2 の近似値を求めよ。また、その近似値はどの程度の誤差を含むか評価せよ。
【解】
32²=1024だから、
また、
とおくと、
よって、誤差は
の程度で、小数点4桁目を切り上げて、0.003。
したがって、
(解答終)
だから、近似値は、誤差0.003の範囲に収まっていることがわかる。
問3 kの絶対値が十分小さいとき、(x−1)(x−2)(x−3)=kは、それぞれ、1、2、3に近い実数解をもつ。このことを既知として3つの実数解の近似値をhの1次式として表わせ。
とする。
1に近い解をα=1+hとすると、
|h|≪1なので、hの2次以上の項を無視すると、
2に近い解をβ=2+hとすると、同様に
3に近い解をγ=3+hとすると、
したがって、
(解答終)
【別解】
とおくと、
1の近い解を1+hとすると、
1+hはf(x)=0の解なのでf(1+h)=0。
よって、
2に近い解を2+hとすると、
2+hはf(x)=0の解なのでf(2+h)=0。
よって、
3の近い解を3+hとすると、
3+hはf(x)=0の解なのでf(3+h)=0。
よって、
したがって、
(解答終)
h=1/10のとき、上の方程式の解(の近似値)は1.0544、1.8990、3.0467なので、上で求めた解の近似解とよく一致していることがわかる。
関数f(x)がx=aで2回微分が可能であるとし、点P(a,f(a))で共通の接線を有し、さらに2次微分係数f''(a)が等しい放物線を
とおくと
x=aでf(a)=g(a)、f'(a)=g'(a)、f''(a)=g''(a)であるから
したがって
点Pの近くでは、g(x)はf(x)に近接しているから、x≒aでは
とみなすことが可能で、x=a+hとおけば
という2次の近似式が得られる。
また、(4)式は、
拡張された平均値の定理より
|h|が十分に小さいとき
なので、
と導くこともできる。
(4)式から(1)の誤差がほぼ程度であることが分かる。
また、(4)式においてa=0、x=hととおけば、次の2次の近似式を得る。
だから、
α=−1、α=1/2のとき
という2次の近似式を得ることができる。
問4 xが3に近いとき、次の式の近似式を求めよ。
【解】
とおくと、
ゆえに、
したがって、1次の近似式は
2次の近似式は
(解答終)
となるので、
とおくと、
xが3に近いとき、tは0に近いので
α=−1/2とおき、(6)を用いると、
よって、
と計算することもできる。
f(x)がn回微分可能であるとき、
f(a+h)をn次式で近似する場合、第15回の問3の結果を用いると、
a=0のとき、h=xとおくと、
下の図は、y=sinxを1次、3次、5次式で近似したものだが、一般に近似式の次数を高くすれば高くするほど、近似式とよく一致するようになる。