少しだけ行列式と外積のお話 [線形代数の基礎]
少しだけ行列式と外積のお話
高校の数学で、現在、行列は学ばないので、行列や行列式に馴染みのない、あるいは、馴染めないヒトが増えているように思う。
そこで、少しだけ、行列式の話をする。
2次の正方行列
の場合、行列式は
で定義される。
この行列式を使うと、連立方程式
の解は、|A|=ad−bc≠0のとき、
と、行列式を用いて求めることができる。
そして、
連立3元一次方程式
の解は、
となる。
(4)、(5)などをクラーメルの公式という。
そして、このクラーメルの公式は、より一般の連立n元一次方程式にも拡張ができ、行列式の具体的な計算法を知らずとも、その解を形式的に示すことができる。
と同時に、このクラーメルの公式から、未知数の係数が作る行列式
であるとき、連立方程式の解が1つに定まらないことがわかる。
何か、凄いと思わない(^^)
連立千元一次方程式であろうが、一万元の連立方程式であろうが、このクラーメルの公式を使えば、たちどころに求めることができるはずなんですが、実際、このクラーメルの公式がコンピュータを用いた連立方程式の解法で使われることはない。
クラーメルの公式は計算量が膨大になるので、いくら単純な繰り返し計算を高速に計算できるコンピュータとはいえ、計算時間がトンデモなくかかってしまうんでね。
とはいえ、連立方程式の解を求める上で、行列式がいかに便利なものであるかは、理解してもらえたのではないか。
以上は、代数的なお話。次に、幾何学的な観点から行列式を見てみることにする。
とし、下の図に示されるような、この2つのベクトルが作る平行四辺形OABCの面積Sを求めることにする。
このとき、面積Sは
となる。(θ=0、πのとき、は平行となり、平行四辺形にならないので除外)
との内積の定義式
と三角関数の関係式
を使うと、(7)は
となる。
また、
であるので、
となる。
ここで、
に注目すると、の作る平行四辺形OACBの面積は、
となっている。
つまり、行列の行列式の絶対値はの作る平行四辺形OACBの面積になっているってわけ。
また、基本ベクトル
の行列Aによる像は
である。
したがって、行列式の絶対値は、xy平面の基本ベクトルの作る長さ1の正方形の一次変換Aによる像の面積になっていると考えることもできる。
さらに、このことから、行列式は、原像と一次変換Aによるその象の面積の拡大率をあらわすと考えることもできる。
なぜ、重積分の変換公式で
と、ヤコビアンJ
が藪から棒に出てくるかといえば、ヤコビアンは面積の拡大縮小率だからだ。
さてさて、3次元ベクトルとの外積は、
だにゃ。
特に、のとき、
となる。
そして、はとという2つの平面ベクトルの作る平行四辺形の(符号付き)面積になっていることに気づいてもらえるのではないか。
[線形代数ってなにさ?_10] [線形代数の基礎]
[線形代数ってなにさ?_10]
懸案事項が一つありました。ベクトル空間Vに対する次元数dim(V)の一意性です。[線形代数ってなにさ?_2]の次元の[定義-3]と基底の[定義-4]は、基底の集め方を指定していません。という事は、基底ごとにその最大本数は違っても良い事になります。それでベクトル空間全体で、独立に集め得るベクトルの本数は集め方によらないと仮定して、事を進めてきました。それが次元数dim(V)の記号に、変数としてVしか入ってこない理由です。
ベクトル空間に対する次元数の一意性がないと、例えば[線形代数ってなにさ?_5]の[定理-4]などは成立しなくなります。[定理-4]は単射な(正則な)線形変換は、正則⇔単射⇔全射である事を言ってますが、次元数の一意性が成立しないと基底{v1,v2,・・・,vn}を線形変換Aで{Av1,Av2,・・・,Avn}へ移した時、[定理-3]から{Av1,Av2,・・・,Avn}は独立ではありますが基底とは限らないので、Aが全射とは限らない事になります。この部分は線形変換の標準分解を得るために要になる定理で、線形変換の標準分解を得ておかないと、根空間への直和分解定理の証明も面倒になります。
11.2つの並行世界
題はちょっとカッコつけました(^^;)。
根空間への直和分解定理も証明するくらいの段になると、少なくともその相当前に行列式も行列演算も連立方程式の整備もとうの昔に済んでるのが、普通の線形代数のやり方です(すっ飛ばしましたが(^^;))。ここでの方針は、ベクトル空間の次元数の一意性を行列計算に落とし込んでやっつけてしまおう、というものです。そのために基底表現を操作する一般のベクトル空間上の線形変換と、数ベクトル空間上の線形変換(行列)との対応を、完全に付けます。
一般のベクトル空間上の基底表現と数ベクトル空間とのインターフェイスは、座標表現を復活させる表現ベクトルでした。ベクトル空間V上の線形変換f:V→Vについて、[線形代数ってなにさ?_3]から、
でした。(wj)はVの基底,Aはfの表現行列,(λj)はx=Σλjwjの表現ベクトル,(ηj)はf(x)=ΣηjAt(wj)の表現ベクトルです。(λj)全体とx全体の間には、完全な全単射があります。単射なのは基底表現の一意性。全射なのは、(wj)が基底なので任意のxには(wj)による基底表現があり、基底表現あればその係数として表現ベクトル(λj)が存在するからです。(ηj)全体とf(x)全体の間も同様です。
ところで数ベクトル空間もベクトル空間です。これをKnと表したとき、先の全単射φは、
と書けます。φはKnからVへの写像で、具体的にはxの表現ベクトル(λj)とxが対応する、という意味です。
(3)のxをVの基底ベクトルのどれかwjとします。(λj)は基底(wj)に関するwjの表現ベクトルになりますから当然、(λj)=ejになります。ejは数ベクトル空間Knのj番目の自然基底ベクトル。すなわち第j成分だけが1の単位ベクトルです。φ(ej)=wjに注意して、これを縦に並べた姿を想像すると、
同様にf(x)全体と(ηj)全体の対応も全単射になるので、それを、
(6)も自然に線形写像ψ:V→Knを定義します。ψの表現行列も単位行列になります。f,φ,ψはそれぞれ線形なので、それらの合成も当然線形です。そこで線形変換、
を考えます。(7)を図にすると、図-1です。図-1を基底ベースで見てやると図-2。さらに表現ベクトルを参加させると、(2)も使って図-3です。
では表現ベクトルで表した線形変換f:V→Vの翻訳、すなわちJ:Kn→Knの表現行列はどうなるでしょう?。(1)を念頭に図-2をたどると(7)に対応して、
だとわかります。fと同じAです!。φとψは全単射なので、ベクトル空間と表現ベクトル空間の全てのベクトルで図-3は成立し、二つの空間は完全パラレルに機能します(^^)。つまり表現ベクトルの空間で起こった事は元のベクトル空間でも起こるし、逆もそうです!。
表現ベクトルで考えるメリットは、それが数ベクトル空間なので行列で具体的に計算できる点です。これが表現ベクトルによる座標表現復活の真の意味です。そして普通にやってる行列計算の真の姿とは、じつは図-3なのだと考える事も可能です。そういう訳でたいていは、線形代数の講義のかなりしょっぱなで、わけもなく「行列と行列式をやらされ」て「連立一次方程式の整備を聴かされる」破目になります。それらは、線形代数における必須の計算手段だからです!(^^;)。
12.次元の一意性
ベクトル空間とその表現ベクトル空間は、完全パラレルなのがわかりました。次元の一意性も、数ベクトル空間の中で片づければOKです。しかしまだ不信感を持ってる人がいると思うんですよ。形式的な基底の線形和が、具体的な行列の成分計算に化ける機構がわからない、と。秘密は(6)最後の関係にあります。
(8)左辺は行列とベクトルの成分計算ですが、右辺はそれを形式的な基底の線形和として表せる事を示しています。じっさいに成分計算をやってみれば、正しいのがわかります。この関係で、形式的な基底の線形和と行列の成分計算は一体化されます。で、そのとき使うのは行列記法の計算規則だけなんですよ。行列記法って良く出来てるわ(^^)。
次元の一意性とは、基底ごとに本数が違わない事でした。数ベクトル空間においてこの証明は、かなり楽になります。まず数ベクトル空間Knには、明解な基底があります。Knの自然基底{e1,e2,・・・,en}です。
自然基底が独立なのはすぐ示せます。
を考えると、数ベクトル空間では上記を具体的に計算できます。行列記法で書き直せば、
ですので、{e1,e2,・・・,en}は独立。{e1,e2,・・・,en}に独立なベクトルがない事も明らかです。任意のx=(χ1,χ2,・・・,χn)tに対して、
と出来るので。{e1,e2,・・・,en}はn本のベクトル集合です。従って次元の一意性を示すには、n本以外の基底が存在しない事を示せば良い事になります。
{a1,a2,・・・,am}をKnのある基底とします。基底ならば任意のベクトルを表せるので、ejに対しても(aj)による基底表現が存在します。
Aはajを縦ベクトルとして並べた行列(n×m行列),kjはejの(aj)による基底表現の表現ベクトル。上記を全てのejについて作り横に並べれば、
すなわち、
となります。Kは表現ベクトルkjを並べたm×m行列です。
{a1,a2,・・・,am}は基底なので基底表現の一意性から、Kは存在し一意に定まる必要があります。ここで既に修了しているはず(^^;)の行列式と行列演算と連立方程式の理論をフル活用すると、Kが存在し一意なのは、A-1が存在する時のみになります。A-1が存在する最低条件は、n×m行列であるAが正方行列である事。
n=mです。mは{a1,a2,・・・,am}の本数でした。nは{e1,e2,・・・,en}の本数です。よってKnの任意の基底の本数はnで、次元の一意性が成立します。
今の話からKnの勝手な数ベクトルをn本持ってきた時、それが独立か従属かの判定は、勝手に持ってきた{a1,a2,・・・,an}から行列Aを作り、detAが0か否かで判定できる事になります。すなわちネコ先生の方法は正攻法です。
最後にここまでの種本をあげておきます。
「シリーズ新しい応用の数学16,線形代数 行列とその標準形,伊里正夫・韓大舜,教育出版,1977年」の1章~4章。
「ブルバキ数学原論,集合論1,東京図書,1977年」の第2章集合論§3対応,§6同値関係。
[線形代数ってなにさ?_9] [線形代数の基礎]
[線形代数ってなにさ?_9]
10.ベクトル空間の根空間への直和分解定理
これから線形代数前半の最終目標である、ベクトル空間の根空間への直和分解定理を、今までやってきた事の総力をあげて証明します。前回予告したように、標準的証明で使用されるユークリッドの互助法は使いません。
ところがそうすると、総力をあげてと言いながら本質的に[線形代数ってなにさ?_4]でやった直和補空間の性質[定理-1]と、[線形代数ってなにさ?_5]でやった線形変換の標準分解の[系-1]関連の性質のみで証明できてしまうのです(^^)。
以後、V上の線形変換Aの像空間をいちいちImage(A)と書くのは面倒なので、簡単にAVと書きます。
補題を一個証明します。根空間への直和分解定理は、次の補題からストレートに出てきます。
[補題-1]
AとBをベクトル空間V上の線形変換で、AとBは可換とする。V0=ker(AB),V1=ker(A),V2=ker(B)とした時、V1とV2が独立なら、
[証明]
まずABに対するV1とV2の挙動を調べます。AとBが可換なので、
は題意から明らか。よってV1⊂V0。
も題意から明らか。よってV2⊂V0。従って、
V1とV2の和空間が直和になるのは、V1とV2が独立だから。
[定理-1]より、{0}空間も含めれば任意の部分空間には直和補空間が存在します。そこでV0での、
の直和補空間を、V3で表します。
V3={0}である事を示す。
Bに対するV1の挙動を調べます。(1)は、
という事でもあるので、題意からBV1⊂V1=ker(A)です。
線形変換BのV1への制限B|V1の核を調べてみましょう。線形変換Bの定義域をV1へ制限するという事は、Bの核V2=ker(B)をわざわざ定義域から除外するという事だから、
です。何故ならV1とV2が独立だから。従ってV1上でBは正則。しかもBV1⊂V1なので、
となり、BはV1上で正則線形変換です。このようなものは[系-1]から全単射でした。よって、
次に、Bに対するV3の挙動を調べます。定義からV3もV3⊂V0なので、
が成り立ち、BV3⊂V1=ker(A)です。B|V3を考えればV3の定義から、
なので、BはV3上でも正則です。従って、
となります。V1とV3の和空間が直和になるのは、V3の定義からV1とV3が独立だから。Bによる変換結果が直和なのは、[定理-3]より正則線形写像は独立なベクトルを独立に移すから。
(5)に(4)を考慮すると、
です。従ってV1の中でのV1の直和補空間BV3は、V1の部分基底で張られる必要がありますが、BV3がV1に対する直和補空間である事から、それは不可。にも関わらずV1と独立になり得る部分空間は、BV3={0}空間以外ありません。よって、
を導けます。
同様に(2)はAとBが可換なので、
という事でもあるので、AV2⊂V2でかつ正則,AV3⊂V2でかつ正則も導けて、
となります。従って、
このとき(3)は、
[証明終]
次がケーリー・ハミルトンの定理です。前回予告したように、これは証明しません。
[定理-13]
ベクトル空間V上の線形変換Aの特性多項式φA(λ)、
のλを形式的にAで置き換えた線形変換の多項式、
は(Eは恒等変換または単位行列)、
である。ここでVの次元をnとすれば、h1+h2+・・・+hm=n。ただしi≠jについてλi≠λj。
[証明]
こいつは密輸入品だから、天下りに認める(^^;)。
[証明終]
そして次が、根空間への直和分解定理です。
[定理-14]
n次元ベクトル空間V上の線形変換Aの特性多項式φA(λ)のλを形式的にAで置き換えた線形変換の多項式が、
で、各因数から定義される根空間を、
とすれば(i≠jについてλi≠λj)、全空間Vは、
と直和分解される。
[証明]
[定理-13]からφA(A)=0である。よってker(φA(A))=V。
(7)の各因数を
とし、
と2つに分けて考えてみれば、p1p2・・・pm-1と(A-λmE)hmは、同じ線形変換Aの多項式なので明らかに可換。またp1p2・・・pm-1と(A-λmE)hmは、多項式として互いに素なので(i≠jについてλi≠λjだから)、前回の[定理-9]より、その核は独立。よってp1p2・・・pm-1と(A-λmE)hmは、[補題-1]のA,Bの条件を満たすので、
ここに、
Wm-1に対して同様に、p1p2・・・pm-1=(p1p2・・・pm-2)pm-1=(p1p2・・・pm-2)(A-λm-1E)h(m-1)と分けて考えれば、
ここに、
以上の操作を帰納的に繰り返せば、
になる事がわかる。ベクトルの和は可換なので、
で良い。
[証明終]
次の系は、h1+h2+・・・+hm=n=[Vの次元]なので、各根空間の次元はその次数目一杯でなけりゃh1+h2+・・・+hm=nにはならないよ、という事からほぼ明らかなのですが、まぁ~数学ですからね(^^;)。
[系-5]
根空間の次元は、その高さに等しい。
[証明]
各根空間の高さ(多項式としての次数)をhjとすれば、
である。nは全空間の次元。
異なる固有値に属する根空間は独立で、根空間で全空間は直和分解されるから、各根空間の次元の和は全空間Vの次元nに等しい。sを1以上の整数として、もし根空間Vjの次元がその高さhjよりs低ければ少なくとも、
になる。よってk≠jのどれかについてVkの次元は、その高さhkを越える必要がある。しかし前回の[定理-12]から、根空間の次元はその高さ以下なので、これは不可。よって根空間の次元はその高さに等しい必要がある。
[証明終]
こうして根空間の次数としての高さは、根空間の次元としての高さになります。
で、次の定理を対角化可能定理と言うのですが、まぁ~「言ってみただけ」の定理ではあります。具体的な計算方法を示さないからです。この定理の価値は、そういうものが存在し得るという、存在定理としての価値です(^^;)。
[定理-15]
線形変換Aが対角化可能な条件は、Aの全ての根空間で、それに含まれる固有空間の高さが、その固有空間を含む根空間の高さに一致する事。
[証明]
[線形代数ってなにさ?_7]と[線形代数ってなにさ?_8]の状況説明(^^;)。
[証明終]
でもって、また状況説明です
[定理-14]によって根ベクトル基底の存在がわかりました。根ベクトル基底に移ります。変換行列は固有ベクトル基底の時と同じく、線形変換の表現行列Aの根ベクトル(数ベクトル)を縦ベクトルとして並べてやった行列Sです。ただし同じ固有値に属する根ベクトル基底は連続して並べるとします。まぁ~、普通の人はそうしますけどね(^^)。
xを根空間Vjに属する根ベクトルとすると、定義から(A-λjE)hjx=0です。xのAによる変換結果Axはどうなるか?というと、
なので、Ax∈ker((A-λjE)hj)=Vjとなり、任意の根ベクトルはそれが属する根空間から出て来れません。この事は根ベクトル基底の変換結果は、同じ固有値に属する根ベクトル基底だけで表される事を意味します。
以上を念頭に、根ベクトル基底に移った時の表現行列の姿を想像すると、
根ベクトル基底で線形変換Aを表すと、Aの作用を調べるには各根空間ごとに、より小型の表現行列をローカルに順番に調べて行けば良い事になります。いわば変数分離された状態です。馬鹿で不器用な人間に、これほどあり難い事はありません(^^;)。
この姿を、さらに対角形に近づけられないか?と考えられたのが、ジョルダンの標準形です。ジョルダンの標準形を使えば、
最後に。もしここまでついてこれたなら、「あなたは、線形代数を半分制覇したも同じです!」(自分の意見では(^^;))。
ワンポイントゼミ 行列の微分方程式への応用 [線形代数の基礎]
ワンポイントゼミ 行列の微分方程式への応用
§1 連立微分方程式への応用
次の連立微分方程式があるとする。
行列を用いてこれを表すと、
2次の正則行列Pをとり
とおき、この両辺をxで微分すると、
これらを(1)に代入すると、
となる。
したがって、行列が相異なる実数の固有値λ₁、λ₂を持つならば、適当な行列Pを用いて
と対角化が可能となり、(2)は次のようになる。
この微分方程式を解くと、
したがって、連立微分方程式の解は
となる。
固有値λ₁、λ₂に対する固有ベクトルをとすると、Pは
したがって、
問1 次の連立微分方程式を解け。
【解】
とすると、この行列の固有方程式は
固有値λ=1のとき
よって、その固有ベクトル(の1つ)は
λ=3のとき
よって、
したがって、(6)より
(解答終)
【別解】
①−②
①+②
③と④より、
ここで、
とおくと、
(解答終)
1階の連立2元微分方程式を例に取り説明したが、これは1階の連立n元連立方程式
にもそのまま拡張が可能で、係数行列
の相異なる固有値をとし、それに対応する固有ベクトルを、
としたとき、
連立微分方程式の解は
になる。
§2 2階同次線形微分方程式(定数係数)への応用
次の2階の同次線形微分方程式があるとする。
これは
とおくと、上の微分方程式は
となるので、
と、1階の連立微分方程式に書き換えることができる。
行列を用いて、これを書き換えると
したがって、行列の固有値、固有ベクトルを求めることによって、この微分方程式を解くことができる。
問2 次の微分方程式を解け。
【解】
したがって、
とおくと、微分方程式は
と書き換えることができる。
とおくと、この固有方程式は
λ=1のとき
よって、固有ベクトル(の1つ)は
λ=2のとき
よって、この固有ベクトルは
したがって、
ゆえに、
(解答終)
【別解】
微分方程式の特性方程式
よって、
(解答終)
ワンポイントゼミ 2次曲線の標準化 [線形代数の基礎]
ワンポイントゼミ 2次曲線の標準化
§1 O-xy座標系を回転させたO-x'y'座標系
O-xy座標系を原点を中心に反時計回りにθ回転させたO-x'y'座標系があるとする。
O-xy座標系の基本ベクトルはを原点Oを中心にθ回転させるとその像は
である。
そして、このがO-x'y'座標系の基本ベクトルである。
この平面上の点PのO-xy座標系における座標を(x,y)、O-x'y'座標系における座標を(x',y')とすると、
(1)式より
となる。
したがって、
また、(3)から
という関係を得られる。
(3)は、O-x'y'座標系からO-xy座標系への座標変換の式であり、(4)はO-xy座標系からO-x'y'座標系への座標変換の式である。
ところで、(x,y)を原点周りにθ回転させたときの1次変換の式は
(3)と(5)、あるいは(4)と(5)は、非常に似ているので、それだけに要注意である。
§2 2次曲線の標準化
2次曲線
を、座標変換によって
の形に変形することを2次曲線の標準化という。
さてさて、(6)式は行列を用いると、次のように書き換えることができる。
O-xy座標系を原点を中心にθ回転させた座標系をO-XY座標系とする。
とおくと、
よって、(8)式は
となる。
そして、行列の対角化によって
とできるならば(補足)、
と、2次曲線の標準化を行うことができる。
つまり、これは、行列のAの相異なる固有値α、β、そして、それに対応する固有ベクトルを求めれる、Aの固有値問題になる。
問 2次曲線x²+xy+y²=1を標準化せよ。
とおくと、Aの固有方程式は
k=3/2のときは、
したがって、固有ベクトルは
である。
k=1/2のとき、
よって、このときの固有ベクトルは
固有ベクトルを規格化し、
を基底とする座標系O=x'y'を設定すると、O-xy座標系の座標との間には、
という関係がある。
――O-x'y'座標系は、O-xy座標系を原点Oを中心に反時計方向にθ=45°させたものになっている――
これをx²+xy+y²=1に代入すると、
よって、x²+xy+y²=1
である。
(解答終)
α=3/2、β=1/2とした時の形にちゃんとなっているだろう。
(補足)
[線形代数ってなにさ?_8] [線形代数の基礎]
[線形代数ってなにさ?_8]
8.線形代数は密輸入品にあふれている
自分の意見では線形代数とは、ベクトルの独立・従属の性質に基づいて、線形写像をカッチョ良く扱う理論です。でも線形代数も代数学の一分野なので、それだけではいかんともし難く、代数系からの密輸入品にあふれています(^^;)。
代数系からの最大の「抜け荷」は、なんといっても行列式です。
線形代数の暗黙の作法としては、ベクトルと行列で出来ないものはやらないし、テンソルは使わないだと思うのですが、行列式ってじつはテンソルなんですよ!。
n個のベクトル空間の直積集合から、1次元のベクトル空間(スカラー)への多重線形写像のテンソル表現が行列式です。ところがさっきの作法から行列式がテンソルだとはもろには言えないもんだから、いきなり取って付けたように「訳もなく置換による行列式の定義」が出てきます。これは線形代数中で最大の「浮き物」です。
次にケーリー・ハミルトンの定理。
これは固有ベクトル基底の存在を示すために、なくてはならないものなのですが、テンソル空間の間の準同型定理に根拠があります。
従って線形代数の中でケーリー・ハミルトンの定理を証明するためには、テンソルである行列式が必要になります。でも線形代数の中で行列式は「訳もなく出てくるもの」ですから、線形代数の中でのケーリー・ハミルトンの定理の証明も、「こうしたら何故か証明できちゃった」という「出来ちゃった証明」になります。そういう風に考えるべきだという、見通しと根拠を示せないのです。
なので自分は、ケーリー・ハミルトンの定理は密輸入品だとはっきり認めて、天下りに承認するのが良いと思ってます。
小さな密輸入品です。多項式一般の性質です(^^)。
ここで多項式とは形式的に、
などと書けるもの全てです。αやAは、とにかく和と積が可能なら何でもOKです。ここでAの上の肩に付いてる添え字で最大のものを「次数」と言います。
この状況で言える代表的な定理は、上記をP(A)とした時、P(A)をQ(A)で割った商をR(A),余りをM(A)とすれば、M(A)の次数は、Q(A)の次数より低いです。多項式Pの次数をdeg(P)で表します。
という事ですが、deg(M)<deg(Q)でないと、MはPをQで割った余りではないですよね?(^^)。
もう一つ小さな密輸入品です。ユークリッドの互除法です。
ユークリッドの互除法は本来、2つの自然数の最大公約数を求めるアルゴリズムですが、この方法は「ベクトル空間の固有空間への直和分解定理」の標準的な証明において主役を果たします。「固有空間への分解定理」こそ、ここでの最終目標なのですが、ユークリッドの互除法を使うとその証明が、余りに線形代数らしくない気がします。なのでこの方法は使わず、ここでは別証明を与えます。
9.最小消去多項式
Vをベクトル空間,AをV上の線形変換とします。Aを行列と解釈すると、行列の和とスカラー倍には線形変換の和とスカラー倍が対応し、行列の積には線形変換の合成写像が対応しました。行列は、いくらスカラー倍しようと足そうが掛けようが行列は行列ですから、(1)のような線形変換の多項式もV上の線形変換になるのは明らかです。
P(A)をV上の線形変換の多項式とします。x∈Vかつx≠0としてP(A)x=0になる時、P(A)をベクトルxの消去多項式と呼びます。ベクトルxの消去多項式は一意には定まりません。何故なら例えばAP(A)も、AP(A)x=A(P(A)x)=A0=0で、xの消去多項式になるからです。そこでxの消去多項式の中で最低次数のものを、ベクトルxの最小消去多項式と呼びます。
エッ、何故そんなもの考える必要があるかって?。それは「異なる固有値に属する固有ベクトルは独立」を、すぐに証明できるようになるからです(^^)。
[定義-16]
Vをベクトル空間,x∈Vとして、xを消去するV上の線形変換Aの多項式で最低次数のものを、ベクトルxの最小消去多項式と呼び、φx(A)で表す。
[定理-8]
x∈Vの任意の消去多項式P(A)を、最小消去多項式φx(A)は割り切る。
[証明]
P(A)をφx(A)で割れば、次の形になる。
ここでR(A)とM(A)は線形変換Aの適当な多項式で、R(A)が商,M(A)は余りである。
deg(M(A))<deg(φx(A))。
上記の両辺にxをかければ、
であるが、P(A)はxの消去多項式でφx(A)はxの最小消去多項式なので、
が必要。ここでM(A)≠0なら、deg(M(A))<deg(φx(A))より、最小消去多項式φx(A)より次数の小さい消去多項式がある事になり、φx(A)が最小消去多項式である事に反する。従ってM(A)=0でなければならない。よってx∈Vの任意の消去多項式P(A)を、最小消去多項式φx(A)は割り切る。
[証明終]
[定理-9]
線形変換の多項式P(A)とQ(A)が多項式として互いに素なら、ker(P(A))とker(Q(A))は独立。
[証明]
多項式として互いに素とは、共通因数を持たない事。
ker(P(A))∩ker(Q(A))に0以外のx∈Vがあったとする。P(A)は、ベクトルxの消去多項式であるから、[定理-8]よりベクトルxの最小消去多項式φx(A)を因数として持つ。同様にQ(A)もベクトルxの最小消去多項式φx(A)を因数として持つ。従って多項式P(A)とQ(A)が多項式として互いに素でなくなるので、これは不可。よってker(P(A))∩ker(Q(A))={0}が必要。ker(P(A))とker(Q(A))は独立。
[証明終]
10.根空間
[線形代数ってなにさ?_7]で紹介した特性多項式が重根を持った場合に対処して、根空間を定義します。どういう対処になるのかは、この後です。なので2ペ-ジだけ、訳わからん定理と定義を許して下さい(^^;)。
[定義-17]
Vをベクトル空間,AをV上の線形変換として、
を、固有値λに属する根空間と言い、そこに含まれるベクトルを根ベクトルと呼ぶ。根空間は部分空間である(すぐ証明可能(^^))。h=deg((A-λE)h)は、根空間の高さと言う。
[定義-18]
高さ1の根空間、
を、固有値λに属する固有空間と言い、そこに含まれるベクトルを固有ベクトルと呼ぶ。固有空間は根空間なので部分空間。
ところで勝手なλを持ってきても根空間は{0}空間です。例えばA-λEが正則な場合です。そのようなものを自明な根空間という事にします。
[定理-10]
自明でない根空間の固有値がλなら、固有値λに属する固有ベクトルが、少なくとも一つ含まれる。
[証明]
例えば固有値λに属する高さ2の根空間ker((A-λE)2)を考えると、(A-λE)x=0を満たす固有ベクトルxは、(A-λE) 2x=(A-λE)(A-λE)x=(A-λE)0=0より、ker((A-λE)2)に含まれるので、けっきょくker((A-λE)h)にも含まれる。
(A-λE)x=0を満たすベクトルは0しかないとするとA-λEは正則なので(A-λE)2=(A-λE)(A-λE)でも0に移るベクトルは0しかなくなり、けっきょく(A-λE)hも正則でker((A-λE)h)={0}。
よってker((A-λE)h)が自明でないなら、(A-λE)x=0を満たすx≠0がなければならない。これは、固有値λに属する固有ベクトル。
[証明終]
[系-2]
自明でない根空間の固有値は、それに含まれる固有空間の固有値。
[定理-11]
異なる固有値に属する根空間は独立。
[証明]
λ1≠λ2としてP(A)=(A-λ1)h1とQ(A)=(A-λ2)h2を考えると、多項式P(A)とQ(A)は多項式として互いに素。従って[定理-9]より、λ1とλ2に属する根空間は独立。
[証明終]
[系-3]
異なる固有値に属する固有空間は独立。
[証明]
[定理-10]から固有空間は、同じ固有値に属する根空間に含まれるから。
[証明終]
[定理-12]
根空間の次元は、その高さh以下である。
[証明]
高さhの根空間は線形変換、
の核ker((A-λ)h)として定義されるので、xをそこに属する根ベクトルとすると、
が成り立つ。すなわちベクトル集合{Ahx,Ah-1x,・・・,x}は従属。何故なら少なくとも、Ahx係数は1だから。
{Ahx,Ah-1x,・・・,x}には(h+1)本のベクトルがあり、それらは従属なので、ベクトル空間に対する次元の一意性から、ker((A-λ)h) の次元はh以下でなければならない。
[証明終]
[定義-19]
根空間に含まれる固有空間の次元を、固有空間の高さと言う。
根空間の高さは、それを定義する線形変換の多項式の次数でしたが(後で根空間の次元に等しい事がわかります(^^))、固有空間の高さは正真正銘の次元です。
[系-4]
固有空間の高さは、それが含まれる根空間の高さh以下。
後は状況説明です。まず「固有空間の次元は1に決まってるじゃん!」って誤解があると思うんですよね?。そうじゃないんです。そういう例は意外に身近なところからも出てきます。単位行列Eを考えると、任意のx∈VでEx=xなので、単位行列では全空間Vが固有値1に属する固有空間です。Vの次元をnとすれば、その固有空間の高さはnという事です。
そこまで極端でない例としては、対称行列です。対称行列は固有ベクトル基底を持ちます。対称行列を固有ベクトル基底へ基底変換すると、一般に下図のような対角行列に変換されます。
図-1のように固有値λ=λjがh個出てくるとすると、[線形代数ってなにさ?_7]で述べた事を考慮すれば、同じ固有値λjに属する独立な固有ベクトルがh本ある事になります。また今回の[定理-10]より、固有空間はそれと同じ固有値に属する根空間に含まれるので、固有値λjに属する固有空間の高さはhであり、固有値λjに属する根空間の高さもhで、じつは固有値λjに属する根空間全体が、次元hの固有値λjに属する固有空間であったという事になります。このように固有空間の次元は決して1とは限りません(^^;)。
さぁ~、全てはスタンバイOKです!。ここまで来れば、線形代数前半の最終目標であった、ベクトル空間の根空間への直和分解定理を証明できます(^^)。
(執筆:ddt³さん)
[線形代数ってなにさ?_7] [線形代数の基礎]
[線形代数ってなにさ?_7]
7.固有ベクトル基底
基底変換するのは、最も便利な座標系に移りたいからでした。その中でもとりわけ汎用性があり、実用的にも最も有用なのが、固有ベクトル基底への変換です。
[定義-15]
Aをn次元ベクトル空間V上の線形変換として、Ax=λxを満たすスカラーλと0でないx∈Vを、線形変換Aの固有値、および固有値λに属する固有ベクトルと言う。
最初に線形変換Aを数ベクトルに作用する行列として状況説明します。行列式も行列演算も連立一次方程式の整備も全部すっ飛ばしてやってるので申し訳ないですが、固有値と固有ベクトルの計算は以下のようになります。Ax=λxを移項するとEを単位行列として、
になりますが、上記がx=0以外の解を持つ条件は、
です。行列式の計算法を読むとAがn×n行列の場合、det(A-λE)はλのn次多項式になるのがわかります。
上式の右辺を行列Aの特性多項式といい、φA(λ)で表す事が多いです。従って固有値λはn次方程式、
を解く事で得られます。一般にはλは複素数です。固有ベクトルは得られたλを(1)に代入して、実際に(1)を解けば得られます。原理的にはですが(非常に悪効率)。実用的には(数値計算では)効率を重視して反復解法を用います。
次の事実はけっこう簡単に証明できます。
・異なる固有値に属する固有ベクトルは独立である。
λはn次方程式(2)の解です。よってλにはn個の値λ=λ1,λ2,・・・,λnがある事になり、λ1~λnが全部異なれば、互いに独立な固有ベクトル{x1,x2,・・・,xn}を得ます。Vの次元はnだったので、これは基底です。
線形変換の定義に戻って、固有ベクトル基底{x1,x2,・・・,xn}に関する線形変換の挙動を調べてみます。行列Aに対応する線形変換をfとします。という事は{x1,x2,・・・,xn}は数ベクトルとは限りません。
ですよね?。diagは対角行列です。だって(1)に対応したf(x)=λxが成り立つ{x1,x2,・・・,xn}なんですから!。
・固有ベクトル基底に移ると表現行列は対角行列です(^^)。
そうすると線形変換fによる任意のベクトルxの変換は、
で済んじゃいますから、ほとんど計算する必要も考える必要もなくなります。これが固有ベクトル基底が好まれる理由です。
具体的に固有ベクトル基底に移る手順は以下です。前回の基底変換の表現ベクトルの変換を思い出します。
Sは基底変換行列。(γj)はfの行列表現が(対角でない)Aとなる現在の基底(vj)での表現ベクトル,変換後の基底(xj)での表現ベクトルが(ηj)です。いま(5)は、どれかの固有ベクトルxjの表現ベクトルだとします。(5)の右辺は基底(xj)での表現ベクトルなので、xjの表現は当然、
と第j成分だけが1の自然基底の単位ベクトルになります。左辺の添え字jは、j番目の固有ベクトルの表現という意味です。左辺はどのように決まるでしょう?。
から、
なので、移項して転置して(vj)の独立性を使えばいつものように、
が得られます。λjとrj=(γij)は、普通に数ベクトル空間に作用する行列Aの固有値と固有ベクトルである事がわかります。j=1~nのrjとejを全部集めて、(6)を横に並べた姿を想像すると、
ですよね?(^^)。つまり固有ベクトル基底への基底変換行列Sは、普通に計算した固有ベクトルを縦ベクトルとして横に並べて作った行列なのです。Sをそうやって作った基底変換行列だとすると、前回の相似変換により、
と変換できます!。
基底の選択により姿は変われども、表現行列を与えればとにかく線形変換は決まるので、けっきょくは表現行列が線形変換の全ての情報を握っていたという、考えてみれば当然の話でした(^^;)。
固有ベクトル基底に関する概念上の含みはこうです。前回とある基底に関する線形変換fの表現行列をAとした時、fの実体とは、Sを任意の正則行列としてS-1AS全体であると言いました。今回Aとして対角行列Dを選択するのが可能なのがわかりました。Dで表現されたfの作用は自明です。またDをfの特徴付けに選ぶ事も可能です。S-1DSとDは、任意の正則行列Sによって互いに移るからです。従ってDさえわかれば、線形変換fの全てを、原理上は知ったと言える事になります。
さぁ~もうやる事は決まりました!。
ネコ先生の記事を読んで(^^)、
任意の行列Aの固有値と固有ベクトルをバリバリ計算し、どんなAだってカッチョ良く扱うだけです!(^^)。
ところがその前に、しなければならない事があります。以上の話は全て、固有値λ=λ1,λ2,・・・,λnが全部異なれば、という制約付きでした(^^;)。特性多項式(2)は一般に、
と因数分解されるので、重根を持ちます。k1+k2+・・・+km=nですが、重根があった場合もはたして独立なn本の固有ベクトルは存在するのか?、という問題があります。結論から言うと、固有ベクトル基底が存在しないケースもありますが、ほぼ望み通りのものが手に入ります(^^)。
(執筆:ddt³さん)
ワンポイントゼミ 行列の対角化 [線形代数の基礎]
ワンポイントゼミ 行列の対角化
2次の正方行列の相異なる固有値をα、β、そして、α、βに対応する固有ベクトルをとする。
固有値と固有ベクトルの定義より、
これを1つの行列であらわすと、
となる。
は相異なるα、βに対応する固有ベクトルなので、互いに一次独立である。
したがって、
とおくと、行列Pの行列式|P|≠0であり、Pは逆行列P⁻¹をもつ。
よって、
つまり、
このように行列の固有ベクトルを用いて、対角行列を作ることを行列の対角化という。
2次の正方行列について述べたが、Aをn次の正方行列とし、その相異なるn個の固有値を、これに対応する固有ベクトルをとし、
とすると、
と、行列の対角化を行うことができる。
また、(1)より、
同様にして、
が成り立ち、
(5)式を用いて、を求めることができる。
を求めるだけならば、
同様に、
したがって、
とした方がスッキリしていますが・・・。
問題 とするとき、次の問に答えよ。
(1) Aの固有値、固有ベクトルを求めよ。
(2) を求めよ。
(3) 次の漸化式で与えられる数列の一般項を求めよ。
【解】
(1) Aの固有方程式は
k=1に対応する固有ベクトルは
k=5に対応する固有ベクトルは
(2) とおくと、
よって、
(3) この漸化式は行列を用いると、
と表すことができる。
したがって、
よって、
である。
(解答終)
行列を用いれば、(3)の連立漸化式の一般項も求められるという話。
対称行列の相異なる固有値に対する固有ベクトルは直交する [線形代数の基礎]
対称行列の相異なる固有値に対する固有ベクトルは直交する
問題 2次の正方行列
は相異なる固有値をα、β(α≠β)を持つ。
αに対する固有ベクトルを、βに対する固有ベクトルをとするとき、とは直交することを示せ。
【解】
とする。
問題の条件より、
したがって、
よって、とは直交する。
ここで、
(解答終)
なお、
また、左上添字のtは転置行列をあらわす。
ととするときをAの転置行列といい、が成り立つとき、対称行列という。
したがって、は対称行列。
そして、このことから、
対称行列Aが相異なる解α、βをもつとき、αに対する固有ベクトルとβに対する固有ベクトルは互いに直交する
ことが証明された。
【ネムネコによる泥臭い解答】
(1) b=0のとき
Aの固有方程式は
問題の条件より、Aの固有値は相異なる2実根を持つので、a≠cである。
k=aのとき
よって、固有ベクトルは
k=cのとの、
よって、固有ベクトルは
したがって、とは直交する。
(2) b≠0のとき
Aの固有方程式は
この相異なる2実根をα、βとする。
k=αのとき
したがって、このときの固有ベクトルは
同様に、k=βのとき、
よって、固有ベクトルは
したがって、
よって、とは直交する。
(解答終)
(※)
の固有方程式は
(1)の解をα、βとすると、解と係数の関係より
【ddt³さんの解答】
行列Aの特性多項式=0とおいたものは、
λ^2-(a+c)λ+ac-b^2=0 (1)
だから、2次方程式の解と係数の関係より、
α+β=a+c
αβ=ac-b^2
このαを固有ベクトルの定義に代入すると、固有ベクトルx=(x₁,x₂)について連立一次方程式、
(a-α)x1+b・x2=0
b・x1+(c-α)x2=0
が成り立たなければならない。ところがα,βは(1)を満たすので、上記2式は定数倍を除いて同じ条件になる。そこで上段をとれば、
x=(-b,a-α) (2)
とできる。固有ベクトルの長さは不定だから。
同様に(1)を満たすβでも、固有ベクトルy=(y₁,y₂)について
(a-β)x₁+b・x₂=0
b・x₁+(c-β)x₂=0
なので今回は下段を取り、
y=(-(c-β),b) (3)
をとれる。(2),(3)からxとyの内積を取れば、
x・y=b(c-β)+b(a-α)
=b((c-β)+(a-α)
=b((a+c)-(α+β))
ですが、解と係数の関係より、
α+β=a+c
従って、
x・y=(a+c)-(α+β)=(a+c)-(a+c)=0
となり、xとyは直交する。
(解答終)
[線形代数ってなにさ?_6] [線形代数の基礎]
[線形代数ってなにさ?_6]
6.基底変換は事の本質を突いている!
次元数の定義と基底の定義を再記します。
[定義-3]
ベクトル空間Vにおいて、独立に取れるベクトルの最大本数をVの次元と言い、dim(V)で表す。
[定義-4]
ベクトル空間Vの独立なベクトル集合B={e1,e2,e3,・・・,en}で、次元に等しい本数を持つものを全て基底と言う。
よって基底の取り方(座標軸の取り方)は、一通りではありません。同じベクトルを一意表現できる基底は、幾通りもある事になります。そして数ベクトル空間(位置ベクトル)を考えてみれば、基底の取り方は無数にあるのがわかります。斜向座標とか御存知ですよね?。
斜向座標ではありませんが、直交座標系に限っても、基底(座標軸)の取り方は無数にあります。例えば、x2-y2=-1を考えてみます。これは双曲線ですが、(x+y)(-x+y)=1と因数分解できるので、
と座標変換する事により、ξη=1という反比例曲線の標準形に持ち込めます。二次形式論の立場では、x2-y2=-1の方が標準形ですが(^^;)。(1)は、y=±xを座標軸として双曲線を表すという事です。何故なら、
と書けるので、(1)は45°傾いたxy軸でx2-y2=-1を考えるという意味になるからです。
では一般に、どのような座標系を取れば良いのでしょうか?。「取る」とは「あえて採用する」という意味です。理由は「それが最も便利だから!」ですよ。その座標系を採用すると、物事が最も綺麗に(明解に)表せるからに、決まってるじゃないですか。数学は人間の道具です。
でも、どのような座標系が良いかはケースバイケースです。従って数学のなすべき任務は、どのような座標系を取ったとしても「同じように使える理論を整備する事」だと思えませんか?。
Vをベクトル空間として、s:V→Vで基底{v1,v2,・・・,vn}を基底{a1,a2,・・・,an}に移すものを、(同一ベクトル空間内の)基底変換と呼びます。定義からs(vj)=aj。注意すべきは、基底変換が線形変換であるとはまだ一言も言ってない事です。しかし自然にそう出来ます。
各ajもVのベクトルなので、{v1,v2,・・・,vn}による基底表現が存在します。
sの定義から(1)は、次と同等です。
(2)の形は線形変換の定義そのものでした。従って基底変換sは線形な範囲で可能です。右辺の係数行列を例によってStで表し、基底変換行列と呼びます。sの具体的な形は(1)に決まってます。
これは意味からです。だって{a1,a2,・・・,an}を{v1,v2,・・・,vn}で表してる(変換してる)じゃないですか!(^^)。次にベクトルx∈Vの基底{a1,a2,・・・,an}による表現ベクトルを(μ1,μ2,・・・,μn)tとします。
これに(3)を代入し、
となりますが、(μ1,μ2,・・・,μn)Stの部分は、基底{v1,v2,・・・,vn}に関するxの表現ベクトルのはずです。つまり基底(vj)によるもともとの表現ベクトルを(λj)とすれば、
なので(4)と(5)を等置し、例によって移項すれば基底ベクトルの独立性から、
でなければなりません。ここで(3)と(6)を見比べると、ちょっと面白い状況になってる事に気づきませんか?。
そうなんです。基底変換と表現ベクトルの変換が逆向きなんですよ。これは「「1次変換と行列」に「対称移動」を追加」の中で、ネコ先生が「読むな!!」の部分で言っておられた状況の再現です。
以上で線形写像の基底変換に関する挙動を記述できます。
VnとVmをn次元とm次元ベクトル空間、f:Vn→Vmを線形とすれば、Vnの基底を(vj),Vmの基底を(wj)、それらに対する表現ベクトルを(λj),(ηj)として、
が「線形代数ってなにさ?_3」での結果でした。ここでAはfの表現行列です。Vnの中でやったように、Vmの中でも(t(wj))=(bj)となる基底変換を考え、その基底変換行列をTとします。さっきの結果から、
であり、
です。(ξj)は(bj)による新しい表現ベクトルです。(6)と(9)を(7)に代入すると、
となり、転置を取って移項すれば、
という事になります。両辺にT-1をかけたいですよね?(^^)。しかしTの逆行列はあるんでしょうか?。それがあるんです。どうしてかと言うと、Tは基底を基底に移す線形変換でした。前回の[系-1]からそのような線形変換は全単射でT-1がなければならないのでした!(^^)。よってT-1は存在します!。
Tはm×m行列,Aはm×n行列,Sはn×n行列です。T-1ASが、Vnで基底変換sをVmで基底変換tを行った時の、線形写像fの表現行列です。このタイプの行列変換:A→T-1ASの事を同値変換というそうです(用語の由来は知りません(^^;))。
Vn=VmでAが線形変換を表す時は、A→S-1ASです。相似変換と言います(由来は知りません)。さらに(vj)と(aj)が直交基底の時は(直交もなにも説明してませんが)S-1=Stになるので、A→StASで合同変換です(だから由来は知りませんってば(^^;))。
この話を「線形代数ってなにさ?_3」の中でやらなかったのは、T-1の存在証明が必要だったからです。行列式も行列演算も連立一次方程式の整備も全部すっ飛ばしてやってるので、T-1を一から計算で示すなんて、面倒臭すぎてやってられなかったからです(^^;)。という訳で、逆行列を具体的にどうやって作るのさ?って問題が残ります(^^;)。そこは、
ネコ先生の記事を読んで下さいね!(^^)。
(12)には概念上は重要な含みがあります。線形写像fと表現行列Aは完全に同じものではなかった、という事実です。fとAを同じとみなせるのは、VnとVmに固定した基底のペアを取った時だけです。なので正式には、「VnとVmの基底(vj),(wj)に関する線形写像fの表現行列A」という長ったらしい言い方になります。
一つのベクトル空間で基底変換を考えた時、基底変換行列は逆行列を持つので正則になります。逆に任意の正則行列を一つの基底に作用させた結果は、基底です。従って一つの基底に任意の正則行列を作用させて得られた基底の全体が、そのベクトル空間の基底全部です。よってSを任意の正則行列として、S-1ASの全体が線形変換fと同じもの(同一視できるもの)である事になります。それがfの事の本質です。