赤っ恥をかくネムネコ [ひとこと言わねば]
ブラゲロの質問(7月24日)への回答のオマケ
右図のように、(ピンとはられた)糸でつながれた質量m₁、m₂の物体を水平方向に力Fで引っ張るとする。この時の質量m₁、m₂の加速度aを求めよ。
ただし、F以外の(外)力は働いておらず、m₁とm₂を結ぶ糸の長さは変わらないものとする。
【解(?)】
m₁がm₂に及ぼす力をT₁₂、m₂がm₁に及ぼす力をT₂₁とすると、運動方程式は
作用・反作用の法則により
よって、①+②は
(解答終)
高校の物理ならば、上のように解くんでしょう。
すこし進んで大学1年レベルの物理では次のように解くと思うにゃ。
【別解(?)】
質量m₁、質量m₂の(重心の)位置を、それぞれ、x₁、x₂とすると、運動方程式は
問題の条件より糸は伸び縮みしないので、
よって、
また、作用・反作用の法則より、
よって、①と②の両辺を加えると、
(解答終)
ブラゲロの質問への回答には、
なのですが、ddt³さんが今回、紹介してくださった、解析力学的な考え方では、すこし事情が異なってきます。。
この条件は、質量m₁と質量m₂の2つの物体を結ぶ糸が伸びたりたるまない、つまり、質量m₁の物体と質量m₂の物体の距離Lが変わらない、不変であるという幾何学的な条件(拘束条件の1つ)を加えることによって導かれるものなんですよ。
と書いたけれど、作用・反作用の法則を使わないと、簡単に解けないかもしれない。
どうやら、ネムネコの勘違いだったようだにゃ(^^ゞ
オレは、物理屋さんじゃねぇから、間違うこともあるわな(^^ゞ
オレはネコなのでヒトじゃないけれど、たまに、思い切り間違えたほうが、茶目っ気と人間味があっていいと思うにゃ。
ブラゲロからの質問の回答(7月24日) [ひとこと言わねば]
ブラゲロから次の質問をもらったにゃ。
図-1で T1 + T2 = 0 と考えてよいのですか?
この質問のもとになった記事を書いたddt³さんの代わりに、ネムネコが答えることにするにゃ。
ニュートンの運動の法則の第3法則、作用・反作用の法則は、
「作用に対し反作用は常に逆向きで相等しい。あるいは、2物体の相互作用は常に等しく逆向きである」
です。
図1の場合、
張力T₁は質量m₂の物体が質量m₁に及ぼす力(相互作用)
張力T₂は質量m₁の物体が質量m₂に及ぶす力(相互作用)
ですから、作用・反作用の法則から
T₂=−T₁ (向きが逆なので、右辺のT₁にマイナスをつけないといけない)
∴ T₁+T₂ = 0
となります。
なのですが、ddt³さんが今回、紹介してくださった、解析力学的な考え方では、すこし事情が異なってきます。。
この条件は、質量m₁と質量m₂の2つの物体を結ぶ糸が伸びたりたるまない、つまり、質量m₁の物体と質量m₂の物体の距離Lが変わらない、不変であるという幾何学的な条件(拘束条件の1つ)を加えることによって導かれるものなんですよ。
それが、(6)式の
という条件です。
これは本来、位置ベクトルを使って、
と書くべきなんでしょうけれど、記号的に冗漫になるので、このあたりはご愛嬌ということで。
なお、はそれぞれ質量m₁の質点と質量m₂の質点の位置ベクトルです。
間違っていたらどうしよう・・・。
いつものように、「私は物理屋ではないから」という言葉で誤魔化すことにしょう(^^)
ここからは、余談。余計なおしゃべりだにゃ。
位置ベクトルですから、ベクトルの起点、原点Oなる点が必要になります。
「じゃぁ、その原点はどこか」という哲学的な問題がここで出てきます(^^)
原点は、アリストテレスのいうところの不動の動者である神さまでしょう。そして、この神さまの御座を原点にとった座標こそ、絶対的な座標系になるに違いない(^^ゞ
しかし、
とおくと、
となるので、質点2に対する質点1の相対的な位置、変位しか現れない。
それだけでなく、ネムネコを宇宙の中心O'にとっても、⑨の右辺は
となります。
ですから、首尾一貫していれば、どこを原点にとって座標系を設定してもいいということになります。
さらに、速度、加速度も、位置の変化しか意味を持たないので、どこを原点に採用し座標系を設定してもいいことになるんですよ(註)。
ということで、一番、計算が楽になるように座標系を設定すればいいってことになる。
このあたりの話に興味がお持ちならば、たとえば、ウィキペディアの「絶対時間と絶対空間」などの記事を読まれるとよろしいのでは。
(註)
時間Δtで、点P₁が点P₂に移動したとすると、速度(ベクトル)は
となるので、どこを原点に選んでも速度ベクトルは変わらない。
このことは、どこを原点にとって座標系を設定してもよいことをあらわすのと同時に、(力学的な)空間には特別な座標系が存在しないことを意味する。
今日のアニソン、劇場版「進撃の巨人」から『紅蓮の座標』 [今日のアニソン]
ラグランジュの解析力学] [ddt³さんの部屋]
ddt^3です。ネコ先生に促されて渋々(?)書きます。面倒くさいなぁ~も~(^^)。
以下では「重力と力学的世界(古典としての古典力学),山本義隆,1981年,現代数学社」を、山本ボン(本)と称します。
1.パラダイムチェンジは起こったか?。
ネコ先生はこう仰っています。
「右辺の項を左辺に移行しただけに見える(ダランベールの原理)、ニュートンの運動方程式のこの書き換えが、コロンブスの卵、つまり、大きなパラダイムチェンジであり、この書き換えがその後の力学理論にどのような影響を与え、力学理論の発展に寄与した・・・」
いいえネコ先生が意図していると思われる、一般相対性理論につながるようなパラダイムチェンジは全く起こらなかったのです。むしろ逆のパラダイムシフトが起こりました。オイラー,ダランベール,ラグランジュは18世紀のフランス啓蒙主義時代を生きた人達です。
そこではそれ以前に盛んに議論されていた、力(重力は)はなぜ伝達されるのか?とか、なぜ物体は運動するのか?などの問いを積極的に却下し、自然哲学は「何故ではなく、どのように力などが伝達され、物体は運動するかを問うべきだ」という、約1世紀前にガリレイが公表した考えを公に認める時代に入ります。
この思想は19世紀にマッハによって近代的に整備され再登場します。要するに重力などの力の発生原因は問わない!という事です。力はどのように物体に作用しどのように物体は運動するのかさえわかれば良いと。
そしてそのようなパラダイムシフトは可能であり、ダランベールの原理を再定式化して、それを可能にするような技術的ブレークスルーを与えたのがラグランジュの解析力学です。
2.当時の状況
当時問題になっていたのは、次のような状況です。山本ボンのpp.310にあります。ダランベールの言です。
「ある仕方で互いに配置された物体の系が与えられたとせよ。これらの物体のそれぞれにある一定の運動を刻み込むとせよ。それぞれの物体はその〔相互〕作用のためにその刻み込まれた運動にひきつづいて従うことはできないであろう。〔その場合に〕各物体がとらなければならない運動を見出すこと(が力学の問題である)。」
※ ()と〔〕内は、原著者と自分の追記(^^;)。
なんか良くわからなかったと思いますけれど、これはじつは、今では機械工学に出てきそうな状況です。例えば図-1です。
図-1の重力mgが「刻み込まれた運動」の原因です。つまり刻み込まれた運動とは自由落下です。質量m1とm2は、m1gとm2gの下向きの重力を受けます(図がうるさくなるので省略)。
ところが質量m1,m2は、円形の束縛軌道Cに拘束されています。m1とm2は円形のC上でしか動けないのです。当然Cはm1,m2を自由落下させないために(円形軌道にとどまらせるために)、抗力(Hj,Gj)を発生させます。抗力(Hj,Gj)によって、m1,m2の自由落下運動を進路妨害する訳です。これが「相互作用のためにその刻み込まれた運動にひきつづいて従う事が出来ない」の意味です。
しかもm1とm2は、伸びない糸で結ばれています。m1とm2の相対距離を不変に保つために、糸の張力Tjも変化しますから、これも「相互作用のためにその刻み込まれた運動にひきつづいて従う事が出来ない」もう一つの理由です。
図-1に示したx-y座標系においてこれら全ての力、重力m1g,m2g、拘束軌道Cの抗力(H1,G1),(H2,G2),糸の張力T1,T2を全部考慮して単純に運動方程式を書いたら、とんでもない目に合います(^^;)。
合いますが、これは問題なんでしょうか?。だってニュートンはこういう付加条件のいっさいない惑星の運行を17世紀に見事に解いてイギリスの国会議員になり造幣局長にまでなりました。こんなもんは考えなくても良いんじゃないの?。
駄目だったんです。なぜなら時代は19世紀の産業革命前夜だったから。図-1のようなものまで便利に解ける技術が求められていたんだと思います。図-1は恐らく、17世紀には解析不能とみなされてたと思います。だいたいプリンピキア発表当初にそれを理解できた人達は、世界で数人しかいなかったそうです。ここで世界とは、当時のイギリスとヨーロッパ大陸。
それがラグランジュの解析力学によって実用的に計算可能になった。なのでラグランジュの解析力学は技術的なブレークスルーなんですけれど、秘かな波及効果もあった(^^)・・・と思う。
・それは力学は宇宙(太陽系)だけのものじゃないという、みんなの秘かな思いが地上の力学で実現した。
ニュートンは確かにそういう事をプリンピキアの中で暗にほのめかしていました。またニュートン力学を理解できれば、当然そういう事になります。プリンピキア発表から約1世紀後、世界の数人は「みんな」になった。
そして原理的にそうである事と、ニュートン力学が完全に成り立つ地上世界を眼前に目の当たりにするのとでは、雲泥の自信の差が生まれる気がします。
・そうしてニュートン力学によって全宇宙を説明できるという思いとともに、19世紀は始まった。
3.運動方程式から不要な力を消去する
以下は山本ボンのpp.308~322を参考にしています。図-1のmjの運動方程式をやや一般化して次のように書きます。
ここでFjは質量mjに対する既知の外力。図-1で言えば重力mjgです。一方Fj(e)は、拘束による力Hj,Gj,Tjの合力Hj+Gj+Tjです。ajはmjの加速度。
Hj,Gj,Tjを含んだ普通の運動方程式を書くためには、Hj,Gj,Tjの大きさと方向を拘束軌道Cとの幾何学的関係を考慮して「その運動も」、けっきょく運動方程式に未知数として含める必要があります。よってHj,Gj,Tjは運動方程式を全部解き終わった後でないとわかりません。その時にはmjの運動もわかってるのでHj,Gj,Tjもわかるのは当然なんですが、その大変さは容易に想像がつきますよね?。図-1では実質的に9個の未知数に関する連立2階常微分方程式を解く必要に迫られます(^^;)。
上記のような状況を回避するためにダランベールは、こう考えます。(1)によれば、加速度ajを発生させるような力mjajをちょうどmjajと逆向きに加えてやれば、系は静止する事になる。正確には等速度運動ですが、そこは気にしません。実質的にどうでも良いので。
「こんなのあったりメェ~じゃん!」と思うかもしれませんが、当時はこの変形さえ議論の的になりました。それはネコ先生も言っていたように、力の定義がはっきりしていなかったからです。質量mに加速度aが生じた時、maという力が本当に働いている、または本当に働いている力をmaという形で測定できるという確信がなかったからです。それには「力はどのように物体に作用しどのように物体は運動するのかさえわかれば良い」というパラダイムシフトが必要でした。力の発生機構は問題にしない、という態度です。
(2)により動力学は仮想静止系の力の釣り合い問題に帰着できます。17世紀には動力学(ニュートン力学)に先行する歴史を持つ静力学が動力学とともに整備されますが、静力学における仮想仕事の原理は、この時点で既に概ね知られていました。ダランベールともなると、完璧に知ってたはずです。「古典力学,ゴールドスタイン,吉岡書店,1978年」のpp.17によれば(以下、ゴールド本(^^))、
・仮想変位とは、各時刻tにおいて拘束に矛盾しないように取った任意の微小変位の事である。
と定義されます。つまりmaを逆向きに加えた仮想静止系では時刻tを止めてしまえば、時間に依存するかも知れない拘束も静止するので、静力学における仮想変位、
・仮想変位とは、拘束に矛盾しないように取った任意の微小変位の事である。
と同等になります。図-1では、mjは拘束軌道Cの接線方向にしか動かないので、Cの接線方向に取った任意の微小変位δrjが仮想変位になります。ただしmjの位置ベクトルをrjとします。
静力学における仮想仕事の原理によれば、δrjとmjに作用する力との内積をとればOKです。
ここで・はベクトルの内積です。Fj(e)=Hj+Gj+Tjを考慮します。δrjはCの接線方向でした。GjはCの内法線方向です。従ってGj・δrj=0になります。接線方向のHjは、Cとmjとの間に働く摩擦力と解釈できますが、ここに古典力学の特殊事情が顔を出し、Hj=0となります。
当時の最も一般的な暗黙の物質観とは、次のようなものでした。当時、分子・原子はまだ発見されていませんでしたが、漠然と物体は微粒子から構成され、微粒子間には逆2乗則に則った力が働く(斥力含む)と想定されました。この起源はもちろんニュートンの惑星運行モデルです。またニュートンの物質モデルは、分子・原子の存在が不確かでも技術的に適用可能なものでもありました。
流体力学の基礎は18世紀には整備されています。流体運動の基礎方程式は、流体を細かい微小部分に分けると、微小部分はニュートンの運動方程式に従うとして得られます。そのとき微小部分がどういう力を働かせるかは作用・反作用の法則があるので、具体的には考える必要がありません。
ニュートンの惑星運行モデルは摩擦のない世界です。従って摩擦力とは、逆2乗則に従う基本力から導ける現象論的な二次的な力であり、原理の話をする時には無視して良い事になります。よってHj=0です。この辺りは、現代だって同じですよね?(^^;)。
Gj・δrj=0とHj=0を考慮すると(3)は、
になります。この状態がよく出てくる「滑らかな曲面上に拘束された運動」です。Tjを消去するために、全てのmjについて(4)の和を取ります。
Tjはm1とm2をつなぐ伸びない糸の張力でした。糸が弛む場合は最初からTj=0とわかるので、そっちはおいときます。糸は伸びないのでした。その条件は、
と書けます。Lは糸の長さ。仮想変位は微小という事に注意しr2,r1で(6)を全微分すれば、
が得られます。ところでベクトル(r2-r1)は図-1から張力Tjの方向に平行です。例えばT1=α(r2-r1)とおける事になります。ここにαは適当なスカラー。そして作用・反作用の法則から、T2=-α(r2-r1)になるので、(7)は、
と同等です。この事態をさして「幾何学的拘束条件による抗力は、それ自身で釣り合う」と言う時もあります。
言い忘れましたが、仮想仕事の云われはわかりますよね?。力×変位(仮想変位)=仕事(仮想仕事)だからです(^^)。
(8)を(5)に適用すれば明らかに、
です。不要な力は全て消去されました。これがダランベールの原理です。一般相対性理論なんかとは全く無関係な話です(^^;)。少なくともその動機は・・・。
山本ボンpp.318には次のようにあります。
「そしてこの原理は、くどいようだが、複数個の物体が外力の影響下で相互的にも束縛力によってある関係を保ちながら運動しているときに、その未知の束縛の力を用いずに既知の力だけで表現できるというところがミソであることに留意していただきたい(*)。」
さらに(*)に対応する脚注には、
「ちなみに、束縛力がもともとないときの運動方程式F=maの右辺を単に移項してF-ma=0と書いたものを「ダランベールの原理」と称しているのをよく--特に工学系のテキストなどに--見かけるが、これは全くのナンセンスである。」
・・・まぁ~、そうなんですけど(私は工学系(^^;))。
ちなみに図-1の伸びない糸が、バネ定数kで伸び縮みする糸であったら、Tjは束縛力や拘束力ではありません。T1=k(|r2-r1|-L)nという座標によって決まる既知の力です。ここにnは(r2-r1)方向の単位ベクトル。