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[鴉の呟き]その1 微分方程式 [微分方程式の解法]

[鴉の呟き]その1 微分方程式

 

 

 ddt^3(鴉)です。なんで鴉なのかは、わかんないですけど(^^;)

 

 19世紀、それは古典力学(ニュートン力学)全盛の時代でした。そこで問題にされた運動方程式は、

  

のタイプです。d2y/dt2は加速度aでma=Fという意味になります。特に力Fは位置のみの関数F(y)です。

 これが保存系(別名自励系)という奴で、F(y)は保存力と呼ばれます。(1)には一般的にエネルギー積分が存在します。両辺にdy/dtをかけ、tで積分すれば、

  

 ここにCは積分定数。U(y)は、

  

で定義され、保存力のポテンシャルと呼ばれます。ポテンシャルエネルギーまたは位置エネルギーです。

 

 (宇宙には)自然には(3)で表される基本力しかないと考えられていた時代です。なんとものどかな時代ですが、それでも解けなくて悩むに足る問題はありました。(1)(3)は惑星運行の研究から発見されたものですが、惑星運行には解析的に解けなくて有名な問題、三体問題があります。10個くらいの惑星を持つ太陽系全体で考えれば多体問題です。多体問題の(太陽系の)安定性を証明しようとした17世紀のニュートンは、けっきょくそれを諦め、安定性を神の御業に訴えます。

 この難問に最初の回答を与えたのは、18世紀のラプラスでした。彼は摂動法という神の御業ならぬ「力業」を駆使し、惑星軌道の長期変動の時間平均は0である事を示します。この時にラグランジュの解析力学が非常に役立ったのは疑えないと思いますが、この結果は第一近似(最も粗い近似)でした。

 19世紀にポアンカレは、摂動法による第二近似を行い同じ結果を得ますが、結局これも近似です。正確な結果を得るためには、無限に摂動法を適用し続けないといけません。もしくは、太陽とすべての惑星,微惑星(小惑星)まで考慮したスパコンによる「数値計算の力業」をぶつけるかです。後者は1980年代になって、やっと可能になりました。

 

 ポアンカレはもっとスマートな解決を望みます。摂動法やスパコンによる数値計算の力業ではなく、もっと幾何学的で(上手くいけば)見通しが良いだろうと思われる方法を提案します。それが位相空間による定性的判定です。

 

 例えば図-1は、

  

の位相空間での軌道を表します(トラジェクトリと言われます)。この曲線を出すには、さっきと同じように両辺にdy/dxをかけてxで積分し・・・(^^)

  

さらにyについて解いて・・・(^^;)

 

  

 

 

 各曲線についている数値:-84は、(5)のCの値です。エネルギー積分(5)は運動方程式(4)から定義されるものなので、初期条件はある時刻x0におけるdy(x0)/dxy(x0)になりますが、時間原点は任意にずらせる事を考慮すると、図-1の各曲線のどの点を初期条件に選んでも良い事になります。

 ある曲線C=C0を選び、あるyy0を選べば、(5)から、

  

でなければいけないので、dy(x0)/dxまで計算できます。すなわちC0は、初期速度dy0/dxのかわりになっています。要するに図-1には、(4)の全情報がつまっていることになります。

 

 とりあえず図-1の読み方は、以下です。

  dy/dx0の初期位置から出発すれば、yは単調減少。

  dy/dx0の初期位置から出発すれば、yは単調増加。

 これだけです。

 

 dy/dx0の初期位置から出発したとすると、yはどんどん減っていき-∞になる可能性はあります。その時の解は、xのどこかで不連続です。そうなっているかどうかを確認するには、図-1を見るだけです。

 

 

 各曲線にはyの最小値があり、そこから単調増加して行きます。yの最小値yminはもとまるでしょうか?。計算できます。yの最小値はdy/dx0の点なので、(5)の右辺にdy/dx0を代入すれば、その時のyの値が得られます(回帰点といわれます)。

  

 最後に図-1におけるdy/dxと、xの進行方向との関係です。dy/dxの正負は、xの進行が正の方向で測ったものです。という事は、図-1の点線矢印の方向がどうであれxは左から右に進みます。

 

 どうですか?。yの最小値がわかりxの進行方向もわかり、xの増加に伴うyの増減までわかります。xに関する詳しい情報はさすがに足りないものの、もうほとんど増減表を得たに等しいじゃないですか(^^)!。

 なので例えば、図-1の各曲線はx0yminに達するとでも仮定しておけば(時間原点は任意にずらせる)、図-1のC=-8のトラジェクトリから、x0で最小値ymin(24)1/32.884をとる放物線のようなものを想像したって、そんなに間違いではないはずです。

 

 ポアンカレはさらに進みます。19世紀にはリュービルの定理が知られていました。18世紀に解析力学の基礎は既に確立されており、リュービルの定理は解析力学の基本定理の一つです。

 リュービルの定理とは、図-1の黄色いハッチ部のように位相空間の中に一定の領域をとり、そこを通過する全ての曲線群に沿って領域中の全ての点を動かした時(実際の運動)、時間Δx後のハッチ部の体積はもとの体積と変わらない、というものです。ポアンカレはここで閃いたと憶測します(^^)

 さっきの領域の運動を流体の運動(流れ)と見立てた場合、保存系の位相空間での運動は、非圧縮性流体の流れと似たものになります。非圧縮性流体の流れは、ほとんど連続の式で駆動されるようなものなので、流線が交わったりしない限り、流れの様子は定性的にはどこでも同じです。「定性的」を一番広い意味にとった場合ですけれど(^^;)。粘性流体を除けば流体力学は18世紀には完成されており、ポアンカレなんかにとっては、それは既に常識だったと思われます。

 実際にC=-84について、例の逆関数を計算する反則技で(5)を数値積分すると、図-2になります。多少の違いはあれど、全部「放物線のようなもの」です。ただしC=0は含まれていません。C=0には、ある疑いがあるからです(後述します)。

 

 

 図-3は、自分が適当に描いたものです(^^;)

 それに対してもし位相空間のトラジェクトリに、図-3のような湧き出しや吸い込み点めいたものが現れた時、そこで解は不安定化し分岐を起こすのではないか?、とポアンカレは予想した気がします。それを確かめるには、摂動法やスパコンなんかの力業は要らないはずだと。

 この方法で多体問題の全ては解決しません。しませんが、非常に有用な情報が得られるのが後にわかってきます。そして「解かずとも解の概形はわかる」という非常に役に立つ、幾何学的で定性的な方法が提唱されました。だってじつは本当に欲しいのは解の概形ですよね?。だからこそ増減表を書くんですよね!(^^)。現在の力学系の理論は、実質的にここからスタートします。

 

 

図3

 

 

 以上の話題をこれ以上進めるのは困難なので(自分には)、もっと実用的方向に話をしぼります。dy/dx0周辺での解の挙動です。位相空間の点(dy/dxy)の事を状態点と言いますが、状態点がトラジェクトリをたどって(0y0)へ近づく時を考えます。(dy/dxy)(0y0)へ近づくという事は、「自然に不連続現象はない」を前提とすると、yy0への接近速度は近づけば近づくほど、どんどん遅くなって行きます。遅くなりすぎて、yy0へ達するには、無限の時間がかかるかも知れません。そうするとyy0は、y(x)の漸近線です。

 

この辺りの事も判定できれば、ポアンカレの方法にはもっと使い出が出てきます(^^)。例えば単振動のエネルギー積分は、

  

です。絵にすると図-4になります。

 

(執筆:ddt³さん)

 


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