[バーガーズ方程式_1] [ddt³さんの部屋]
[バーガーズ方程式_1]
集団就職の時代じゃなかったけれど(だから金の卵などと呼ばれたおぼえはない)、高校卒業後すぐにオイラは、神奈川にいたことがあったのだ。暑かったよ。おかげで2年で故郷である北の国へと帰ったケロ。いや「ケロ」じゃない。帰った「ニャ」でもない。「帰ったジャン」なのだ。そう、神奈川時代に忘れた事とおぼえた事がある。忘れたのは、東北以北の浜言葉のイントネーション。おぼえたのは湘南方言である「ジャン」。
ところで数学教師みたいで嫌なのだけれど、なんでもかんでも数値積分すりゃ良いってもんじゃないのだ。例えば線形の座標変換くらいで方程式が綺麗になるなら、まずそれを試すべきなのだ。数値積分は最終手段。数値積分は形式解がないかといちおう頑張った後で。形式解がみつかれば、それに越した事はないのだから。
だからみんな、数値積分と騒ぐ前に冷静になるジャン!(^^)。ジャン!を使うと会社の同僚は「この湘南かぶれめ!」と言ってくれるのだ。もっともモノホンの湘南ボーイは、こんなジャンの使い方はしないのだ(^^;)。
1.定数係数1階線形偏微分方程式
(1)
をまず考えてみるジャン。cは(t,x)と無関係な定数とします。これと対比させるのは、uの全微分です。
(2)
(2)で(t,x)の微小増分(dt,dx)は、2次元の(t,x)平面で任意の方向を向けます。つまり(t,x)から(t+dt,x+dx)と(dt,dx)方向へと進んだ時のuの増分duを、(2)は表します。duは(dt,dx)の方向に応じて決まるわけです。
で、(1)と(2)で偏微分の係数を比べてみると、
(3)
の方向に進めば、(1)よりuの変化はない、すなわちu=一定という事になります。kは任意の実数です。u=一定とは、3次元の(t,x,u)でu(t,x)のグラフを想像したとき、曲面u(t,x)の等高線という事です。(3)は等高線の微分方程式を与えます。明らかに、
(4)
ですよね?。ここでAは積分定数です。
(4)よりuの等高線は、Aをパラメータとして傾きcの平行な直線群をなします。Aを一つ指定すれば傾きcの直線が一つ定まり、それ上でuの値は一定です。という事は、Aからuの値への関数u=u(A)を定義できます。でもこれって解じゃないですか?(^^)。
(1)を解くとは、uの(t,x)に関する依存関係を知りたいという事です。いまAは自由に動く事ができて、(4)で表される直線群は、(t,x)平面全体をカバーします。点(t,x)はどれかのAに該当する直線に乗ってるので、その点でのuの値はu(A)です。これは解を知ってる事と同じジャン!。つまりu(A)の表現を(t,x)に変えれば良いだけです。(4)より、
(5)
です。ここでuは(微分可能な)任意の関数。じっさい(5)の形を(1)に代入してみると、
(6)
となります。1階偏微分方程式の一般論より、もとの偏微分方程式を満たし、かつ任意関数を1個含むものはその偏微分方程式の一般解です。(1)の一般解が得られました。
ざっくり言うと、以上が特性曲線法です。(4)を偏微分方程式(1)の特性曲線と言います。
2.座標変換を試みる
ところで(t,x)座標は、人間の勝手です。数学的には、とりあえず (1)を(t,x)で表すとわかりやすかった、くらいの意味しか(t,x)を選んだ理由にはないはずです。そこで例えば図-1に示した(ξ,η)系に移ったら、事態は劇的に単純化されるのではないか、と思えませんか?(^^)。
だってさっきu(t,x)は、一変数関数u(A)だとわかったんですよ。じっさい図-1のξ軸はx-ct=Aで表される曲線群に平行なので、
(7)
ですから、(t,x)を(ξ,η)に座標変換したら、(1)はηだけで表せるはずです。問題は(7)による偏微分の間の変換ですが、u=u(ξ(t,x),η(t,x))と考えれば、合成関数の微分公式より、
(8)
です。(8)を(1)に代入すれば、
(9)
になります。ξの微分が残ったので一瞬ぎょっとしますが、これで良いのです。1+c2≠0なのでそれでわると、けっきょく∂u/∂ξ=0という事です。「u(ξ,η)はξと無関係」です。これは望んだものじゃん。という訳で、
(10)
です。(10)を説明すると、uはξと無関係なのでCはξと無関係な積分定数、という事はξと無関係な任意のηの関数C(η)で、後は(7)を使いC(x-ct)。こうして全微分とか等高線うんぬんに煩わされることなく、(5)を得る事ができました。特性曲線って、とっても役立ちますよね?・・・じゃなかった、役立つジャン!(^^)。
2.一次元波動方程式
(11)
を考えます。考えますがさっきの事に味をしめて、(11)が座標変換で綺麗にならないか?と「獲らぬ狸の皮算用」を考えてもいいですよね?(^^;)。今度は2階偏微分方程式なので、∂2u/∂ξ/∂ηあたりを目標にするのが妥当でしょう。1階の偏微分の変換の一般形は(8)の中辺なので、もう一回頑張って2階偏微分の変換を出します。積の微分公式と(8)中辺を入れ子に使うだけです。
(12)
ちょっと長いですけど一回でもやってみれば、同じパターンの繰り返しジャンとわかります(^^)。(12)を(11)に代入すると、
(13)
・・・予想を大幅に上回った長い式ですが、目的を忘れてはいけません!。目的は(13)を簡単にする事でしたよね?。その目標は∂2u/∂ξ/∂η=0です。(13)の1段目の2項目以外が0になるように、ξとηを決めるのです。よって少なくとも、
(14)
なので、
(15)
と選べるのがわかります。(15)が成り立てば(13)の2段目は明らかに、
(16)
・・・ジャン!、という事になります(^^)。
ところで(15)って、(1)ですよね?。そして(15)さえ成り立てばOKなので、最も簡単なものを選べます。
(17)
で十分です。よって(13)は(17)より、
(18)
なのでc≠0とすれば、
(19)
になります。じつは(18)の左辺は、(t,x)から(ξ,η)への変換のヤコビアンになっています。(19)の解は(10)でやったのと同じ手順で、
(20)
なのは明らかです。ここでf1とf2はξとηの任意関数。(17)も偏微分方程式(11)の特性曲線と言われます(曲線じゃないけど(^^))。(19)より(ξ,η)も、一種の等高線に沿った座標とわかると思います。∂u/∂ξの等高線はη方向、∂u/∂ηの等高線はξ方向という訳です。
少なくとも2階線形偏微分方程式については(定数係数でなくてもOK)、系統的な特性曲線の与え方と、それを用いた「標準形」への落とし込み方がわかっています。
・物理数学-数理物理の方法と特殊関数,アルセニン,森北出版,1995年.
(※ 絶版かも知れない(^^;))
ちなみに(17)と(19)は、(16)に気づきさえすれば自明です。(16)と(11)は同じですよね。(16)中辺の偏微分作用素を与える座標系に移ればいいんだと。それは(8)最右辺を一回でも自力で計算してれば・・・。だから数値セキブ~ンと、そう簡単に騒ぐんじゃありません!(^^)。
3.(準?)バーガーズ方程式
さて、
(21)
です。cは適当な定数係数、νは動粘性係数としときます。
(21)の左辺を(1)左辺と同様に考えると、(21)ではξ(1,c)方向に進むと、uの増分が、
(22)
と増える事です。しかし(22)の意味は、とてもわかりやすい表現です。現象に対して素直です。なのでやはり、図-2のような座標系で考えるべきでないでしょうか?。すなわち、
(23)
なる座標変換です。(8)と同様にやると、
(24)
なので、
(25)
となり。望む形が得られました。(25)は、放物型と言われる2階線形偏微分方程式の標準形の一つです。別名は、熱伝導方程式とか拡散方程式とか言われます。
・・・という訳で、有限要素法に持ち込むのは(25)の形で良いですよね?(^^;)。「バーガーズ方程式_2」に続きます。
(執筆:ddt³さん)