第9回 像と逆像 [集合論入門]
第9回 像と逆像
を写像とする。Xの部分集合A⊂Xの要素のfによる像の全体をf(A)で表し、Aのfによる像という。
すなわち、
である。
また、Yの部分集合B⊂Yに対して、Xの部分集合
をfによるBの原像と言い、で表す。
【注意】
写像の逆写像f⁻¹と同一の記号を用いているが、逆写像とは似て非なるもの、異なるものなので注意。
f(x)=x²で定められる写像があり、B=[0,4]⊂Rとすると、
また、∅⊂Rだから、
定理1 とすると、次のことが成り立つ。
【証明】
(1) A₁⊂A₂とする。y=f(x)∈f(A₁)とすると、y=f(x)となるx∈A₁が存在する。
また、A₁⊂A₂だからx∈A₂となり、y=f(x)∈f(A₂)。
よって、
(2) A₁∩A₂⊂A₁、A₂。
(1)より、
(3) A₁、A₂⊂A₁∪A₂だから、
y∈f(A₁∪A₂)とすると、y=f(x)となるx∈A₁∪A₂が存在する。
x∈A₁のときy=f(A₁)だからy∈f(A₁)∪f(A₂)。
x∈A₂のときy=f(A₂)だからy∈f(A₁)∪f(A₂)。
いずれの場合も、y∈f(A₁)∪f(A₂)。
故に、
(4) y∈f(A₁)−f(A₂)とすると、y=f(x)となるx∈f(A₁)が存在し、かつy=f(x)∉f(A₂)である。
仮にx∈A₂とすると、f(x)∈f(A₂)となり、矛盾。よって、x∉A₂。
故に、
(証明終)
例1 f(x)=x²によって写像を定め、Rの部分集合A₁、A₂を閉区間
とすると、
である。
したがって、
また、
となり、定理1の(2)、(4)に関して、一般に等号が成立しないことがわかる。
定理(2)、(4)で等号が成り立つのはfが単射のときである。
定理2 を写像、A⊂X、B⊂Yとすると、次のことが成り立つ。
【証明】
(1) とすると、f(x)∈f(B₁)。仮定よりB₁⊂B₂だから、f(x)∈B₂。
故に、
(証明終)
定理3 を写像、A⊂X、B⊂Yとする。このとき、次のことが成り立つ。
【証明】
(1)
⇒ f(A)⊂Bとする。
x∈Aとすると、f(x)∈f(A)。仮定より、f(x)∈B。よって、x∈f⁻¹(B)。
したがって、A⊂f⁻¹(B)である。
⇐ A⊂f⁻¹(B)であるとする。
y∈f(A)とすると、あるx∈Aが存在してy=f(x)。仮定より、A⊂f⁻¹(B)だからx∈f⁻¹(B)。よって、y=f(x)∈B。
ゆえに、A⊂f⁻¹(B)
(2) x∈Aならばf(x)∈f(A)。
よって、
(3) とすると、y=f(x)となる元x∈f⁻¹(B)が存在する。
よって、
(証明終)
例2 f(x)=x²によってを定め、A=[0,2]、B=[−1,4]とする。
このとき、
定理3の(2)で等号が成立するのは単射のときである。
また、
定理3の(3)で等号が成立するのは全射のときである。
[全射,単射の必要十分条件] [集合論入門]
[全射,単射の必要十分条件]
ブルバキ風です。
[定義1]
X,Yを集合として、X,Y上の恒等写像をIdXとIdYで表す。
(1)
写像f:X→Yに対し、
となるs:Y→Xを、fの左逆写像と呼ぶ。
(2)
写像f:X→Yに対し、
となるr:Y→Xを、fの右逆写像と呼ぶ。
[定理1]
(1) f:X→Yが単射であるための条件は、左逆写像sが存在する事。
(2) f:X→Yが全射であるための条件は、右逆写像rが存在する事。
[証明]
(1)
f:X→Yを単射とする。
Xのfによる像f(X)⊂Yへfを縮小した写像を、f0:X→f(X)で表す。f0は明らかに全射。fは単射だったのでf0も単射。従ってf0は全単射なので、逆写像f0-1:f(X)→Xがある。各x∈Xについてf0-1 (f(x))=xが成り立つ。
写像s:Y→Xを以下のように定める。
1) f(X)⊂Y上で、s=f0-1。
2) y∈Y-f(X)なら、s(x)=z∈X。zはXから任意に一つ選んだ要素。
f(x)∈f(X)は自明なのでsの定義より、
となり、
で、s:Y→Xはfの左逆写像。
逆にfの左逆写像sがあるとする。f(x1),f(x2)∈f(X)かつf(x1)=f(x2)について、
なので、fは単射(sの構成を式にしただけ)。
(2)
f:X→Yを全射とする。
fは全射なので、各y∈Yのfによる逆像f-1(y)⊂Xは空でない。
写像r:Y→Xを以下のように定める。
1) r(y)=x∈f-1(y)。xはf-1(y)から任意に一つ選んだ要素。
2) x∈f-1(y)に対しy=f(x)は自明。
各y∈Yには必ず空でないf-1(y)があるので、rの定義より、
となり、
で、r:Y→Xはfの右逆写像。
逆にfの右逆写像rがあるとする。任意のy∈Yについて、
なので、y=f(r(y))となるr(y)∈Xがあり、fは全射(rの構成を式にしただけ)。
[証明終]
ここで左逆写像,右逆写像について反省。
定理1の構成を見れば明らかなように、これらはfが全単射じゃない真の単射,全射でも成り立つ。しかも恒等写像IdX,IdYは全単射の代表。このへんで、
・gとfの合成写像が全単射でも、gやfが全単射とは限らない.
と気づけよ!(∨∨;)・・・と反省。
[系1]
f:X→Y,g:Y→Zとして、gとfの合成写像をhとする。
(1) hが単射なら、fは単射。
(2) hが全射なら、gは全射。
[証明]
(1)
hが単射ならhの左逆写像sがある。
従って、
はfの左逆写像。fは単射。
(2)
hが全射ならhの右逆写像rがある。
従って、
はgの右逆写像。gは全射。
[証明終]
次の定理は、ほとんど自明です。
[定理2]
f:X→Yとする。
[証明]
y=f(x)とする。f(IdX(x))=f(x)=y,IdY(f(x))=IdY(y)=yだから。
[証明終]
[定理3]
f:X→Y,g:Y→Zとして、gとfの合成写像をhとする。
(1) hが単射でfが全射なら、gは単射。
(2) hが全射でgが単射なら、fは全射。
[証明]
(1)
hが単射ならhの左逆写像s:Z→Xがある。
fが全射なら、fの右逆写像r:Y→Xがある。左右逆写像の定義1と定理2より、
さらに、
となるので、
はgの左逆写像。gは単射。
(2)
hが全射ならhの右逆写像r:Z→Xがある。
gが単射なら、gの左逆写像s:Z→Yがある。左右逆写像の定義1と定理2より、
さらに、
となるので、
はfの右逆写像。fは全射。
[証明終]
[系2]
f:X→Y,g:Y→Zとして、gとfの合成写像をhとする。
(1) hが全単射でfが全射なら、fとgは全単射。
(2) hが全単射でgは単射なら、fとgは全単射。
[証明]
系1より、hが全単射なら、gは全射でfは単射。
(1)
fが全射ならfは全単射。このとき定理3から、gは単射なのでgも全単射。
(2)
gが単射ならgは全単射。このとき定理3から、fは全射なのでfも全単射。
[証明終]
[まとめにかえて]
が全単射であっても、fやgは全単射とは限らないし、f-1やg-1が存在するとは限らない。この事実は確かに忘れがちですよね。
と書けるのは、けっこう幸運なのだと。もしくは工夫するか。
系2の状況を少し吟味してみると、(1)が本質的だとわかります。そこでhが全単射でfが全射でなければ、sの時のようにfとgからそれらの縮小、f0:X→f(X),g0:f(X)→Yへ移ってやれば、系2から、
が存在する事になります。
そして、
で定義されるh0には、hの全情報が詰まっている事になります。h0の実質はhと同じです。
(執筆:ddt³さん)
第8回 単射、全射、逆写像 [集合論入門]
第8回 単射、全射、逆写像
§1 単射と全射
であるとき、fは単射であるという。
単射の定義には、(1)の対偶をとった次のものを使ってもよい。
問 次のことを示せ。
(1) f(x)=x³で定義される写像f:R→Rは単射である。
(2) f(x)=x²で定義されるf:R→Rは単射でない。
【解】
(1) f(x₁)=f(x₂)とすると、
これが成立するのは、
よって、
ゆえに、この写像は単射である。
(2) f(1)=f(−1)=1だから、この写像は単射でない。
(解答終)
任意のy∈Yに対して、f(x)=yを満たすx∈Xが存在するとき、すなわち、
であるとき、fは全射という。
また、fが全射かつ単射であるとき、fは全単射であるという。
問2 次のことを示せ。
(1) f(x)=2x+3で与えられる写像f:R→Rは全射である。
(2) f(x)=x²で与えられる写像f:R→Rは全射でない。
【解】
(1) 任意のy∈Rに対して
よって、この写像は全射である。
(2) y=−1とすると、
を満たす実数xは存在しない。
したがって、この写像は全射ではない。
(解答終)
(1)のf(x)=2x+3で与えられるf:R→Rは単射でもあるので、全単射である。
問3 f(x)=x²で与えられる写像f:X→Yがあるとする。
(1) Xを実数全体の集合Rとし、Y={y∈R|y≧0}とすると、fは全射になることを示せ。
(2) X={x∈R|x≧0}、Y={y∈R|y≧0}とすると、fは全単射になることを示せ。
【解】
(1) 任意のy≧0に対して、とおくと、x∈Xであり、
となるので、fは全射である。
(2)は略
(解答終)
定理1 写像について次のことが成り立つ。
(1) を満たす写像が存在すれば、fは全射である。
(2) を満たす写像が存在すれば、fは単射である。
(3) かつを満たす写像g、hが存在するならばfは全単射である。また、g=hである。
【証明】
(1) 任意のy∈Yに対して、とすれば、
よって、fは全射である。
(2) だから
とすると、
よって、
ゆえに、fは単射である。
(3) (1)、(2)よりfが全単射。
fは全単射だからy=f(x)を満たすx∈Xがただ一つ存在する。
一方、任意のyに対して
が成り立つので、
(証明終)
定理2 X、Y、Zを集合、を写像とする。このとき、次のことが成り立つ。
【証明】
(1) f(x₁)=f(x₂)とすると、
したがって、
よって、fは単射である。
(2) は全射なので、任意のz∈Zに対して、あるx∈Xがあって、
そこで、y=f(x)∈Yとおくと、
よって、gは全射である。
(証明終)
問3 写像であるf、gともに全単射ならば、XからZへの合成写像は全単射であることを示せ。
【解】
仮定より、任意のz∈Zに対してz=g(y)であるy∈Yが存在し、また、y=f(x)であるx∈Xも存在し、
また、とすると、fは単射なので、
また、gも単射なので、
(解答終)
この逆、
は、一般に、成立しないので、注意。
§2 逆写像
写像が全単射ならば、任意のy∈Yに対して、あるx∈Xが存在してy=f(x)である。一方、このようなx∈Xは各yに対してただ一つである。したがって、任意のy∈Yに対して、y=f(x)を満たすx∈Xがただ1つ定まり、写像を定義することができる。この写像gも全単射であり、を満たす。このような写像をfの逆写像といい、f⁻¹で表す。
問4 写像が全単射のならば、次のことが成り立つことを示せ。
【解】
(1) 任意のx∈Xに対して
(2) 任意のy∈Yに対して
定理 とする。このとき、次のことが成り立つ。
【証明】
(1) 任意のx∈Xに対して
とおけば、
よって、
(2)、さらに、とすると、
である。
(証明終)
アルキメデスの公理と単調数列の収束定理 [集合論入門]
アルキメデスの公理と単調数列の収束定理
上限の存在を用いて、次のアルキメデスの公理を証明することにする。
アルキメデスの公理
任意の正数a、b∈Rに対して、適当なn∈Rをとると、
とすることができる。
【証明】
すべてのn∈Nに対して
と仮定すると、すべてのnに対して、
となり、自然数全体の集合Nは上に有界となる。
そこで、
とすると、α−1<αだから、
となるn∈Nが存在する。
よって、
となり、自然数Nに上限αがあることに反する。
したがって、
である。
(証明終)
また、
アルキメデスの公理は、hが正のならば、任意のK>0に対して
となるn∈Nが存在する、
すなわち、
の形であらわすことができる。
問1 aを非負の実数とする。任意の自然数nに対して、
が成立するならば、a=0であることを示せ。
【解】
a≠0とすると、a>0。
すると、任意の自然数nに対して
となり、自然数全体の集合Nは有界となる。(以下、アルキメデスの公理の証明と同様なので、省略)。
したがって、a=0である。
(解答終)
問1の証明で、
よって、ハサミ打ちの定理より、a=0、など答えてはいけない。
いま、やっていることは、数列の極限や数列の極限に関する一連の諸定理の前提となる基礎理論だから、ハサミ打ちの定理を使うと、循環論法になってしまう。
問2 a、b∈R、かつ、a<bならば、a<r<bとなるr∈Qが存在することを示せ。ここで、Qは有理数全体の集合である。
【解】
a<0<bならば、r=0をとればよい。したがって、0≦a<b、a<b≦0の場合を考えればよい。
0≦a<bの場合
b−a>0だから、アルキメデスの公理より
となるn∈Nが存在する。
また、このnに対して
を満たすm∈Nが存在する。
このmのうちの最小のものをとると、
したがって、
このm/nをrに取ればよい。
(解答終)
数列の極限
数列に対し次の条件を満たすα∈Rが存在するとき、はαに収束するという。
任意の正数ε>0に対し、m∈Nが存在し、
このときαをの極限値といい、
などであらわす。
収束しない数列を発散数列という。特に、次の条件を満たすとき、数列は∞に発散するといい、であらわす。
任意のK>0に対して、m∈Nが存在し、
である。
収束する数列については次のことが成り立つ。
定理1 数列の極限はただ1つである。
定理2 とすると、
定理3 (単調数列の収束)
(1) 上に有界な増加数列は収束する。
(2) 下に有界な現象数列は収束する。
【証明】
(1) は上に有界な増加数列なので、
とすると、集合Aは上に有界。
したがって、
が存在し、上限の定義より
である。
は増加数列だから、任意のε>0に対して
となる
ゆえに、n>mである全てのnに対して
したがって、上に有界な増加数列は収束する。
(2) とすると、数列は上に単調な増加数列となり、収束する。
したがって、下に有界な減少数列も収束する。
(証明終)
問3 上の定理を用いて、アルキメデスの公理を証明せよ。
【証明】
h>0、とすると、数列は増加数列。
そこで、
とおく。
Aが上に有界とすると、集合Aには上限αが存在し、
となるが、
となり、h>0に反する。
よって、集合Aは上に有界ではないことになり、アルキメデスの公理は成り立つ。
(証明終)
そして、有界な単調数列の収束の定理とアルキメデスの公理を用いて、次の区間縮小法の原理を証明でき、さらに、区間縮小法の原理とアルキメデスの公理を用いて、デデキントの実数連続性の公理を証明することができる。
定理4 (区間縮小法の原理)
デデキントの切断と上限、下限 [集合論入門]
デデキントの切断と上限、下限
§1 上界と下界
Aを実数全体の集合Rの空でない部分集合とする。
あるα∈Rがあって、任意のx∈Aに対し、α≧xであるとき、αをAの上界という。
すなわち、
である。
あるβ∈Rがあって、任意のx∈Aに対し、β≦xであるとき、βをAの下界という。
すなわち、
Aの上界(下界)が存在するとき、Aは上に有界(下に有界)であるという。Aが上に有界かつ下に下界であるとき、Aは有界であるという。
例1 空でない実数Rの部分集合
があるとする。
α≧1の実数αに対して、任意のx∈Aはα≧xだから、αはAの上界で、1はAの最小の上界である。
β≦0の実数βに対して、任意のx∈Aはβ≦xだから、βはAの下界で、0はAの最大の下界である。
また、Aは上に有界でかつ下に有界だから、Aは有界である。
§2 最大数と最小数
AをRの空でない部分集合とする。
α∈Rが存在し、α∈AかつαがAの上界であるとき、αをAの最大数といい、記号max Aで表す。
β∈Rが存在し、β∈AかつβがAの下界であるとき、βをAの最小数といい、記号min Aで表す。
例2
とする。
このとき、1∈Rは、任意のx∈Aに対して
が成立するので、1はAの最大数。したがって、max A=1である。
また、0∈Rは、任意のx∈Aに対して
が成立するので、0はAの最小数。したがって、min A=1である。
例1の場合、Aの最小の上界1は1∉AだからAの最大数ではなく、Aの最小の下界0は0∉AだからAの最小数ではない。
§3 上限と下限
定理1
Aを実数全体の集合Rの空でない部分集合とする。
(ⅰ) Aが上に有界ならば、Aの上界の全体集合Bには最小数が存在する。
(ⅱ) Aが下に有界ならば、Aの下界の全体集合Bには最大数が存在する。
【証明】
(ⅰ)を証明する。
Aの上界全体の集合をBとし、それ以外の数を全体の集合をCとすれば、
である。
何故ならば、pがAの上界ではない(補足)ので、
だから、
したがって、ここに実数(C,B)の切断ができる。
すると、デデキント切断によって
のいずれかが存在するが、この場合は、(2)である。
(1)であるとすると、α∈Cだから、先ほどのpと同様に
であるxが存在し、ここで
であるα’をとれば、α’<x、x∈Aだから、このα’もAの上界ではなくα’∈C。
故に、
これはα=max Cであることに矛盾する。
(ⅱ)も同様。
(証明終)
(補足)
pがAの上界であるとは、
したがって、pがAの上界でないは、上の否定をとった
すなわち、
任意のp∈Rに対して、
x>p
を満たすx∈Aが存在する
になる。
(補足終)
Aの上界の最小数をAの上限といい、sup Aあるいはであらわす。
Aの下界の最大数をAの下限といい、inf Aあるいはであらわす。
Aが上に有界(下に有界)でないとき、sup A=+∞、inf A=−∞とあらわす。
上限、下限を用いると、定理1は次のように言い換えることができる。
定理2
(1) 上に有界な集合Aには上限sup Aが存在する。
(2) 下に有界な集合Bには下限inf Aが存在する。
定理3
sup A=αである必要十分な条件は、任意のx∈Aに対してx≦α、かつ、任意の正数ε>0に対してα−ε<xを満たすx∈Aが存在することである。
すなわち、
inf A=βである必要十分な条件は、任意のx∈Aに対してβ≦x、かつ、任意の正数ε>0に対してx<β+εを満たすx∈Aが存在することである。
すなわち、
デデキントの公理をもとにしてこれらの定理を導いたが、定理2からデデキントの公理を次のように導くことができる。
(A,B)という切断があるとする。
集合Aは上に有界だから、定理2より上限α=sup Aをもち、α∈Aかα∈Bのいずれか一方である。
もし、α=sup A∈Aならば、αはAの最大数である。
α=sup A∈Bならば、定理3より、任意のε>0に対して、
であり、α−ε∉Bとなって、αは集合Bの最大数になる。
したがって、デデキントの実数の連続性公理と上限・下限の存在の定理2とは同値であり、どちらを実数の連続性の公理として良いことを示している。
実数の連続性の公理 (デデキント)
実数全体の集合Aの切断(A,B)を作ると、Aの最大数かBの最小数かのいずれかの一方だけが存在する。
第7回 写像 [集合論入門]
第7回 写像
§1 写像
XとYを空でない集合(空集合でない)とする。Xの各要素xに対して、Yの要素をただ1つ対応させる規則をXからYへの写像という。
fがXからYへの写像であるとき、
または
などであらわす。
f:X→Yであるする。Xの要素xに対応しているYの要素をf(x)で表し、これを写像fによるxの像という。f(a)=bであるとき、a∈Xをfによるb∈Yの原像という。
また、Xを写像fの始域または定義域、Yをfの終域または値域(註)という。
【註】
実数全体の集合をRとし、その部分集合Aを
とし、f(x)=xでAからRへの写像が定義されるとする。
このとき、f(x)がとりうる値は0≦f(x)≦1だから、
このBを、y=f(x)=xで定義されるAからRへの写像fの値域という場合もあるので注意。
値域という言葉は無用の混乱を招くので、終域という言葉を使用すべきなのでしょうが、終域ではなく値域という言葉を使う場合もあるので、あえて本文中に値域という言葉も記した。
(註終)
問1 A={1, 2}からB={3, 4, 5}への写像をすべて挙げよ。
【解】
AからBへの写像はf₁、f₂、・・・、f₉の9通りある。
a∈Aのfによる像f(a)との関係を(a,f(a))で表すことにすると、
(解答終)
とするとき、AからBへの写像の(個)数は、(個)である。
問2 とするとき、AからBへの写像の数は、であることを示せ。
【解】
それぞれにのm通りの場合があるので、写像の数は
(解答終)
とする。任意のx∈Xに対して、f(x)=g(x)であるとき、fとgは等しいといい、
と表す。
Xを写像、A⊂Xとする(AはXの部分集合)。
XからXへの写像、f:X→Xが、任意のx∈Xに対して、f(x)=xであるとき、恒等写像といい、記号で表す。
また、f:A→Xが、任意のx∈Aに対して、f(x)=xであるとき、包含写像といい、記号で表す。
§2 合成写像
写像に対して、
によって定義される写像を、fとgの合成写像という。
問3 f(x)=x²、g(x)=2x−1で与えられる、RからRへの写像f、gについて、を求め、一般にが成立しないことを確かめよ。
【解】
(解答終)
問4 実数全体で定義された2つの関数
について、次の問に答えよ。
(1) すべてのxに対して
が成り立つとき、直線y=g(x)は常に定点を通ることを示せ。
(2) すべてのxに対して
が成り立つような関数h(x)を全て求めよ。
【解】
(1)
すべてのxに対してf(g(x))=g(f(x))が成り立つので、
よって、y=g(x)は
したがって、aの値にかかわらず、y=g(x)は点(1,1)を通る。
直線y=g(x)は定点(1,1)を常に通る。
(2) 問題の条件より
(解答終)
定理12(結合法則)
写像とすると、
【証明】
任意のx∈Xについて、
(証明終)
高校の写像のおさらい [集合論入門]
高校の写像のおさらい
§1 復習
1 写像と関数
集合Xの各要素に集合Yの要素ただ1つ対応しているとき、この対応fをXからYへの写像といい、記号
で表す。
a∈Xに対応するb∈Yとするとき、bをfによるaの像といいなどであらわす。すなわち
また、このとき、aをfによるbの原像という。
特に、XとYが数の集合の場合、写像fを関数という。
2 合成写像
であるとき、XからZへの写像が考えられる。これをfとgとのXからZへの合成写像という。
x∈X、z∈Zとすると、
3 上への写像と1対1の写像
写像で、fの値域とYが一致するとき、fをXからYの上への写像という。
のとき、fはXからYへの1対1の写像という。
4 逆写像
写像が、XからYの上への1対1の写像、すなわち、fがXからYの上への写像、かつ、XからYへの1対1の写像である場合、逆にYからXへの写像gが考えられ、gをfの逆写像といい、記号で表す。
§2 問題
問題1 とし、とする。
(1) XからYへの写像の数はいくつか。
(2) XからYへの1対1の写像の数はいくつか。
(3) XからYの上への1対1の写像の数はいくつか。
【解】
(1) のそれぞれにn通りの対応があるので、写像の数は
(2) これはn個のからm個取り出し、それを並べる場合の数と等しい。
したがって、m≦nのとき
m>nのときは0。
(3) このとき、集合XとYの要素の数は等しい。つまり、m=n。
したがって、
(解答終)
問題2 2つの関数に対して、次の合成関数を求めよ。
【解】
(解答終)
問題3 次の問に答えよ。
(1) のとき、となる関数g(x)を求めよ。
(2) においてfとf⁻¹が一致するようにa、bの値を求めよ。
【解】
(1)
(2) このとき、が成立するので、
fとf⁻¹が一致するので、
任意のxについて成立するので、
したがって、
a=1のときb=0
a=−1のときbは任意の実数
よって、
(解答終)
問題4 とする。
(1) 合成写像を求めよ。
(2) を求めよ。
(3) の逆写像を求めよ。
【解】
(3) だから、g(x)はg(x)の逆写像g⁻¹(x)。
したがって、
(解答終)
(3)の別解として、
【別解1】
【別解2】
y=g(x)とすると、
xについて解くと、
したがって、
だから、
(別解)
読むと、即死の内容。だから、絶対に読むな!!
死にたい奴は読んでも良い。
第6回 直積 [集合論入門]
平面上に互いに直交する2直線をとり、それぞれをx軸、y軸と名づけ、それをもとに座標平面上の点に座標(a,b)を与えることができる。
この座標においてもっとも重要なことは、(a,b)と(b,a)の区別である。何故ならば、(a,b)が表す点と(b,a)が表す点は、a=bでないかぎり、異なる点であるからである。
一般に、2つのものa、bから作られた(a,b)を、aとbから作られた順序対という。そして、2つの順序対(a,b)と(a',b')とが等しいのは、a=a'かつb=b'と定義する。
(a,b)と(a',b'が等しいことを
と表し、(a,b)と(a',b')が等しくないことを
と表す。
A、Bを集合とする。Aの要素aとBの要素bから作られた順序対(a,b)全体の集合を、AとBの直積といい、記号A×Bで表す。
すなわち、
例 A={1, 2}、B={a, b, c}ならば
である。
Aの要素の数がm、Bの要素の数がnならば、直積A×Bの要素の数はmnである。
AとBのいずれかが空集合であるとすると、Aの要素とBの要素とから作られる順序対は存在しない。したがって、このとき、直積A×Bは空集合である。
すなわち、
さらに、n個の集合について、各から1つずつ要素をとり、組を作る。そして、とが等しいのはの場合に限ると定義する。このような組の全体の集合を、の直積といい、と表す。
特に、であるとき、であらわす。
(補足)
さらに、I={1, 2, 3, ・・・, n}とし、
などと書く場合がある。
そして、いきなり、選択公理!!
選択公理
Λ≠∅かつすべてのλ∈Λに対して、集合であるならば、
である。
(1)からの類推として、選択公理は直観的に明らかだが・・・。
定理11 A、B、Cを任意の集合とするとき、次のことが成り立つ。
【証明】
(証明終)
AからBへの写像をfとすれば、Aの任意の要素aとfによる像f(a)から作られる順序対(a,f(a))の全体の集まりは、直積A×Bの部分集合になる。これをfのグラフといい、記号などで表す。
すなわち、
である。
第5回 冪集合と集合族 [集合論入門]
第5回 冪集合と集合族
集合Aの部分集合の全体を冪集合(べきしゅうごう)といい、記号
などであらわす。
A={1, 2}とすると、Aの部分集合は
∅, {1}, {2}, {1, 2}
の4つであるから、
である。
問1 A={1, 2, 3}の冪集合を求めよ。
【解】
A={1, 2, 3}の部分集合は
∅, {1} , {2}, {3}, {1, 2} , {1,3}, {2, 3}, {1,2,3}
の8つであるから、
である。
(解答終)
一般に、n個の要素をもつ有限集合Aの冪集合の要素の個数はである。
問2 空集合∅の冪集合を求めよ。また∅の冪集合の要素の個数は何個か?
【解】
空集合φの部分集合は、空集合∅のみだから、∅の冪集合は
である。
したがって、空集合∅の冪集合の要素の個数は1個である。
(解答終)
空集合∅の要素の個数は0なので2⁰=1となり、∅の場合にも成り立っていることがわかる。
集合の集まりを集合族という。
空でない、ある集合Λがあり、その要素λ∈Λに対し集合が定まるとき、をΛによって添え字づけられた集合族(Λ上の集合族)といい、集合Λを集合族の添字の集合という。
Λを空でない添字の集合、をΛによって添字づけられた集合族とする。すくなくとも1つのに属する要素の全体をこの集合族の和集合といい、で表す。
また、すべてのに属する要素の全体をの共通部分といい、記号で表す。
添字の集合Λが自然数全体の集合Nであるとき、集合族の和集合、共通部分を
などと表記することもある。
何を書いてあるかわからないと思いますが、
集合族の和集合
となるがかならず存在するということを表しており、
集合族の共通部分は、すべてのλ∈Λに対して
であることを表しています。
添字の集合を{1,2}上の集合族A₁、A₂、集合Bがあるとする。
このとき、
と、交換法則が成立する。
同様に、添字の集合Λ上の集合族に対しても、次の交換法則が成立する。
さらに、ド・モルガンの法則は次のようになる。
問 を次のような集合とするとき、を求めよ。
【解】
(1)
n=1のとき
となるので、A₁=∅。したがって、になる。
(2)
(解答終)
(2)の和集合はわかると思うけれど、となるのはわかりづらいと思う(^^)
すべての自然数nに対して
が成立するので、すべての自然数nに対して
したがって、
が成立する。
もし、1<a∈Rとなるあるaがあり、
であるとすると、全ての自然数nに対して
は有限の値だから、自然数には上限があることになり、自然数に上限(最大数)がないことに矛盾する。
したがって、
1<a∈Rとなるあるaがあり、
となる実数aは存在しない。
だから
である。
集合の問題 [集合論入門]
集合の問題
問題1 有理数a、bを用いてa+b√2と書ける数全体の集合をAとする。次の数がAに属するかどうか判定せよ。
【解】
有理数全体の集合をQとする。
(1) a=−2/3∈Q、b=0∈QだからAに属する。
(2)
a=1∈Q、b=−1/2∈QだからAに属する。
(3) 属さない。√3=a+b√2になるとすると、a=√3−b√2∈Qとなるが、√3−b√2は無理数で矛盾する。
(4)
よって、a=2∈Q、b=−1∈QだからAに属する。
(解答終)
問題2 次の2つの集合A、Bの包含関係を調べよ。
【解】
2つの集合を平面に図示すると、下図の通り(境界を含む)。
したがって、A⊃B。
(解答終)
問題3 次のことを証明せよ。
【解】
(解答終)
問題4 および
とするとき、次の集合を求めよ。
【解】
また、
したがって、
(1) だから、
(2)
(3) C⊂Aだから、C∩A=C。
したがって、
ド・モルガンの法則より
(解答終)
問題5 整数全体の集合をZとする。Zの部分集合Aは次の条件(1)、(2)を満たしている。このとき、A=Zであることを示せ。
【解】
0=1−1∈A、−1=0−1∈A
同様に、
n∈A、−n∈A(n>0)とすると
したがって、A=Zである。
(解答終)