[全射,単射の必要十分条件] [集合論入門]
[全射,単射の必要十分条件]
ブルバキ風です。
[定義1]
X,Yを集合として、X,Y上の恒等写像をIdXとIdYで表す。
(1)
写像f:X→Yに対し、
となるs:Y→Xを、fの左逆写像と呼ぶ。
(2)
写像f:X→Yに対し、
となるr:Y→Xを、fの右逆写像と呼ぶ。
[定理1]
(1) f:X→Yが単射であるための条件は、左逆写像sが存在する事。
(2) f:X→Yが全射であるための条件は、右逆写像rが存在する事。
[証明]
(1)
f:X→Yを単射とする。
Xのfによる像f(X)⊂Yへfを縮小した写像を、f0:X→f(X)で表す。f0は明らかに全射。fは単射だったのでf0も単射。従ってf0は全単射なので、逆写像f0-1:f(X)→Xがある。各x∈Xについてf0-1 (f(x))=xが成り立つ。
写像s:Y→Xを以下のように定める。
1) f(X)⊂Y上で、s=f0-1。
2) y∈Y-f(X)なら、s(x)=z∈X。zはXから任意に一つ選んだ要素。
f(x)∈f(X)は自明なのでsの定義より、
となり、
で、s:Y→Xはfの左逆写像。
逆にfの左逆写像sがあるとする。f(x1),f(x2)∈f(X)かつf(x1)=f(x2)について、
なので、fは単射(sの構成を式にしただけ)。
(2)
f:X→Yを全射とする。
fは全射なので、各y∈Yのfによる逆像f-1(y)⊂Xは空でない。
写像r:Y→Xを以下のように定める。
1) r(y)=x∈f-1(y)。xはf-1(y)から任意に一つ選んだ要素。
2) x∈f-1(y)に対しy=f(x)は自明。
各y∈Yには必ず空でないf-1(y)があるので、rの定義より、
となり、
で、r:Y→Xはfの右逆写像。
逆にfの右逆写像rがあるとする。任意のy∈Yについて、
なので、y=f(r(y))となるr(y)∈Xがあり、fは全射(rの構成を式にしただけ)。
[証明終]
ここで左逆写像,右逆写像について反省。
定理1の構成を見れば明らかなように、これらはfが全単射じゃない真の単射,全射でも成り立つ。しかも恒等写像IdX,IdYは全単射の代表。このへんで、
・gとfの合成写像が全単射でも、gやfが全単射とは限らない.
と気づけよ!(∨∨;)・・・と反省。
[系1]
f:X→Y,g:Y→Zとして、gとfの合成写像をhとする。
(1) hが単射なら、fは単射。
(2) hが全射なら、gは全射。
[証明]
(1)
hが単射ならhの左逆写像sがある。
従って、
はfの左逆写像。fは単射。
(2)
hが全射ならhの右逆写像rがある。
従って、
はgの右逆写像。gは全射。
[証明終]
次の定理は、ほとんど自明です。
[定理2]
f:X→Yとする。
[証明]
y=f(x)とする。f(IdX(x))=f(x)=y,IdY(f(x))=IdY(y)=yだから。
[証明終]
[定理3]
f:X→Y,g:Y→Zとして、gとfの合成写像をhとする。
(1) hが単射でfが全射なら、gは単射。
(2) hが全射でgが単射なら、fは全射。
[証明]
(1)
hが単射ならhの左逆写像s:Z→Xがある。
fが全射なら、fの右逆写像r:Y→Xがある。左右逆写像の定義1と定理2より、
さらに、
となるので、
はgの左逆写像。gは単射。
(2)
hが全射ならhの右逆写像r:Z→Xがある。
gが単射なら、gの左逆写像s:Z→Yがある。左右逆写像の定義1と定理2より、
さらに、
となるので、
はfの右逆写像。fは全射。
[証明終]
[系2]
f:X→Y,g:Y→Zとして、gとfの合成写像をhとする。
(1) hが全単射でfが全射なら、fとgは全単射。
(2) hが全単射でgは単射なら、fとgは全単射。
[証明]
系1より、hが全単射なら、gは全射でfは単射。
(1)
fが全射ならfは全単射。このとき定理3から、gは単射なのでgも全単射。
(2)
gが単射ならgは全単射。このとき定理3から、fは全射なのでfも全単射。
[証明終]
[まとめにかえて]
が全単射であっても、fやgは全単射とは限らないし、f-1やg-1が存在するとは限らない。この事実は確かに忘れがちですよね。
と書けるのは、けっこう幸運なのだと。もしくは工夫するか。
系2の状況を少し吟味してみると、(1)が本質的だとわかります。そこでhが全単射でfが全射でなければ、sの時のようにfとgからそれらの縮小、f0:X→f(X),g0:f(X)→Yへ移ってやれば、系2から、
が存在する事になります。
そして、
で定義されるh0には、hの全情報が詰まっている事になります。h0の実質はhと同じです。
(執筆:ddt³さん)
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