第57回 留数定理の定積分への応用 問題編2 [複素解析]
第57回 留数定理の定積分への応用 問題編2
タイプⅡ
f(z)は複素平面の上半平面(Imz≧0)で有限個の極を除いて正則であり、実軸上に極を持たず、かつとする。このとき、
特に、f(x)が偶関数のとき、
問題1 次の積分の値を求めよ。
【解】
とおくと、これはタイプⅡの条件を満たす。
何故ならば、|z|=Rを十分大きく取ると
で、f(z)の上半平面の極はの3点であるから。
極は1位の極だから、留数は
したがって
(解答終了)
留数の計算には
で、αがg(z)の1位の零点であるとき
を使っている。
この問題の場合、h(z)=z⁴、g(z)=z⁶+1として計算している。
また、|z|>1のとき
を使っている。
ちなみに、
の不定積分は
となるので、この不定積分の結果を利用し
を求めることも可能である。
問題2 次の定積分の値を求めよ。
【解】
(1)
とおくと、これはタイプⅡの条件を満たす。上半平面のf(z)の極はz=iだから、留数は
f(z)は偶関数だから、留数定理より
(別解)
(2) この積分もタイプⅡの条件を満たす。
となるので、f(z)は上半平面にz=iの2位の極を持つ。
したがって、留数は
f(z)は偶関数だから、留数定理より
(解答終了)
なぜ、f(z)に(z−1)²をかけて微分をすると留数が求まるかですがこれはこういう仕組み。
f(z)がz=aの2位の極をもつとすると、この関数のローラント展開の主要部は
になる。
この両辺をzで微分すると
m(m>1)位の極を持つ場合、
第56回 留数定理の定積分への応用の問題編1 [複素解析]
第56回 留数定理の定積分への応用の問題編1
定理(留数定理)
関数f(z)が単一閉曲線Cを境界とする領域に有限個の孤立特異点を持ち、これら以外では境界Cも含めて正則であるとき、
タイプⅠ
ここでf(X,Y)はX,Yの有理関数。
と置くと、
となり、[0,2π]は単位円周|z|=1に移るから、
問題1 次の定積分の値を求めよ。
【解】
とおくと
さらに
よって、
ここで、
とおくと、f(z)は単位円|z|=1の内部にz=1/2を1位の極として持つ。
したがって、留数は
留数定理より
だから、
(解答終了)
問題2 次の定積分を求めよ。
【解】
である。
とおくと
さらに
だから、
ここで、
とおくと、f(z)の極はz=1/a、z=a。
したがって、f(z)の留数は
|a|<1のとき、単位円|z|=1の極はz=aのみだから
留数定理より|a|>1のとき、単位円|z|=1の極はz=1/aのみだから
この2つの結果をまとめて
(解答終了)
問題3 0<r<Rとするとき、
を求めよ。
【解】(解答終了)
問題4
【解】
a=bのときa≠bのとき
三角関数の倍角公式より
したがって、
したがて、
ここで、t=2θとおくと、θ=0のときt=0、θ=πのときt=2π、さらにdt=2dθだから
ここで、a²+b²=α、a²−b²=βとおくと
となり
(解答終了)
は、第53回で求めてあるので、そちらを参照。
問題4は、とおいて解くのが一般的だろうが、こうすれば実積分として積分の値を求めることができる。
補足説明の補足説明 [複素解析]
オイラーの公式より
偏角θに−π<θ≦πや0≦θ<2πという制限を設けないときにはとなる。
という関数は、三角関数のsinθ、cosθと同様に周期2πの周期関数、つまり、
そして、の絶対値
であることは、お忘れなく。
複素積分の補足説明(留数を求める方法) [複素解析]
複素積分の補足説明(留数を求める方法)
複素解析のところで、留数定理の定積分への応用の具体例についてほとんど述べなかったので、これを明日以降、3回ほどやることにして、その序言のかわりとして、復習をかねて、前回取り上げた問題を例に、留数を求める方法について簡単に説明することにする。
z=aが複素関数f(z)の特異点で1位の極のとき、z=aのまわりでのローラン展開は
したがって、留数は
と求めることができる。
また、g(z)がz=aを1位の零点をもつ正則な関数。h(z)をz=aを零点にもたない正則関数とするとき、
の留数は次のように計算することができる。
何故ならば、
g(z)、h(z)をz=aまわりにテーラー展開するとき
となるとすると、
だから。
さらに、補足説明をすると、
なぜ、g(z)にb₀という係数、項が無いかといえば、z=aが1位の零点だから。また、1位の零点だからb₁≠0でもある。
複素関数
とおく。
で、
とおき、この零点、つまり、g(z)=0となる点を求める。
として、2次方程式z²±√2z+1=0を解いてもいいけれど、この方法は少し大変。
そこで、
とおくと、z⁴=−1だから
これからr=1となり
したがって、z⁴+1=0の解は
これでもいいけれど、これでは解が無限に存在するように見えるので、nを非負の整数とし
とすると、n=0,1,2,3の4つに定まる。
この点を複素平面(ガウス平面)上に描くと右の図のようになる。
しかし、この解を次のように求めることも可能。
や、もっと直裁的に
実は、複素関数論的にはこれでもいいんだよね〜。
何故だろうか(^^)
話を、留数の計算に戻す。
g(z)=z⁴+1の零点はどれも1位。
何故ならばとなるから。
そして、複素平面の上側にある点はの2点のみ。
もちろん、2式を使って留数を求めてもいいけれど、計算が大変なので(3)式を使う。だから、
したがって、
第55回 ∫(sinz/z)dzを求めるにゃ [複素解析]
第55回 ∫(sinz/z)dzを求めるにゃ。
さて、いよいよ、
の値を求める時が来た。
その前に、復習をかねて、前回証明した定理を再掲。
ジョルダンの補助定理
f(z)をで連続な関数とし
M(r)を上の|f(z)|の最大値とする。もし、r→+∞のときにM(r)→0ならば
となる。
定理
関数f(z)がを1位の極として持つとき
とすれば、
が成り立つ。
ただし、積分はにそってに関して正方向に行なう。
さて、
だから、
となる。
iは。
まず、図のような積分路に沿って、を積分する。
―――前回、この計算は記憶ものと書いた。何故、この関数を積分するなんて考えちゃ〜いけない(^^ゞ―――
は閉曲線Cの周上とその内部で正則なので
となる。
で、右辺第1項の積分は前回やったジョルダンの補助定理より
となる。
何故ならば、f(z)=1/zとすると、の半円周上でこの関数の値はで、円周上におけるこの関数の絶対値の最大値M(R)=1/Rとなり、R→∞の時M(R)→0になるから。
ε→0の時の右辺第3項の積分の値は、2番目の定理から
となる。
さらに、
よって、
となり、R→∞、r→0とすれば、
こんな技巧的な方法なんて凡人は思いつかないにゃ。
だ・か・ら、凡人は、テスト対策として、これを丸覚えするしかない(^^ゞ
これで長かった複素解析は終わりだケロ。
複素解析は人気がなかったみたい。不評だったみたいだ。理系の人間ですら忌み嫌われる分野だからしょうがない。
第54回 ジョルダンの補助定理 [複素解析]
第54回 ジョルダンの補助定理
複素解析の難しい話をし続けてきたので、ジョルダン(Jordan)の不等式という簡単な不等式を証明する。
ジョルダンの不等式とは次のようなもの。
θの単位はrad(らでぃあん)と呼ばれる角度の単位で、度°とは違うので注意が必要だにゃ。角度の単位が度°だとジョルダンの不等式は成り立たないケロよ(^^)
「らでぃあん」は、扇型の円弧lの長さを円の半径rで割ったものを角度の単位に採用したもの。
微分積分などの解析で出てくる角度は、例外なく「らでぃあん」と呼ばれる単位のものだにゃ。扇型の中心角が360°のは、扇型(?)は円になるので、円弧(円周)の長さl=2πrだから、
という関係がある。だから、180°=π(rad)だにゃ。仮に度で測った角度をx、「らでぃあん」で測った角度をθとすると、
となるにゃ。
ジョルダンの不等式の証明をするにゃ。
【証明】
図より明らか(^^)。こんなことをやりたいわけじゃ〜ない。ジョルダンの補助定理を証明するために、ジョルダンの不等式が必要になる。
ジョルダンの補助定理
f(z)をで連続な関数とし
M(r)を上の|f(z)|の最大値とする。
となる。
【証明】
は定数、r→+∞のときM(r)→0だから、
がr→+∞のとき有界であることを証明すればよい。
ジョルダンの不等式より、
したがって、
は有界で、
である。
(証明終わり)
さらに定理をもう一つ。
定理
関数f(z)がを1位の極として持つとき
とすれば、
が成り立つ。
ただし、積分はにそってに関して正方向に行なう。
【証明】
を中心とするf(z)のローラン展開は
という形になり、g(z)はで正則。
右辺第1項の積分は
また、適当な近傍をとればg(z)は正則なので|g(z)|<kとなり、右辺第2項の積分は
となり、r→0のとき
よって、
となる。
(証明終わり)
何で、こんな定理を紹介したかというと、複素解析の教科書、問題集などには必ず出ているというくらい超有名な積分
の計算をするためだにゃ。
内緒だけれど、上の積分の計算は、なんと、理系の大学院の数学の入試問題によく出題される超頻出問題。そして、この計算は記憶物で、テスト対策として「解答を丸覚えするしかない」というもの。
だ・か・ら、
わからなくても悲観する必要はない。
ジョルダンの補助定理の式変形の補足
第53回 留数定理の実積分への応用2 [複素解析]
第53回 留数定理の実積分への応用2
タイプⅢ
このとき、
である。
これを知っていると、
例題
という積分が簡単に計算できるんだケロ。
この場合、
とおけば、
となり、タイプⅢの条件を満たしている。
の上半平面の極はz=iaのみ。そして、
だから、①より積分の値は
こういうふうに簡単にこの積分の値を求めることができる。
ちなみに、
と計算してもいいし、z=iaは1位の極なので
と計算して求めればいい。
このあたりの計算法は留数の求め方を読み返してほしい。
また、f(x)が偶関数のとき、①式から
f(x)が奇関数のとき
f(x)が偶関数のとき、f(−x)=f(x)となるにゃ。
で、で、x=−tとすると右辺第1項は
ということで、
とかやれば、②式が出るにゃ。
②の時と同じようにやったんじゃ芸がないので、③に関しては少し変えるケロ。となる。右辺の第2項の積分に関してはx=−tとおいて置換積分すると
ということで、
となるにゃ。
問題1 次の値を求めよ。
【解】
は偶関数。
②式と例題の結果を使って
問題2 次の値を求めよ。
【解】
これは奇関数なので③を使うケロ。
答はたぶん
だケロ。
さてさて、①の証明。
十分大きなrを取ってf(z)の上半平面上の極を半円と実軸[−r,r]の間の領域にすべて収めるようにする。
そうすると、留数定理より
となる。
ということで、証明すべき内容は
そして、これは次回のジョルダンの補助定理へと続くのであった。
第52回 留数定理の定積分への応用 [複素解析]
第52回 留数定理の定積分への応用
これまで長々と述べてきた留数と留数定理を使うと、初等的な微分積分で求めることが難しい(実関数の)定積分を比較的簡単に計算できたりする。
数学科を除く理工系の多くは、留数と留数定理を使って定積分の値を求めるために複素解析を勉強すると言ってもいいんじゃないか。このために長々と複素解析を勉強する。そして、多くの大学で、留数(定理の)定積分への応用で複素解析(の講義・授業)が終了する(^^)
留数とは、孤立特異点αを中心とする関数f(z)のローラン展開が
であるととき、−1次の項の係数のことであり、
となる。
そして、留数定理とは、次のようなもの。
定理(留数定理)
関数f(z)が単一閉曲線Cを境界とする領域に有限個の孤立特異点を持ち、これら以外では境界Cも含めて正則であるとき、
とおさらいしたところで、今回の本題に入りますにゃ。
定積分の計算への応用
留数定理の定積分への応用には幾つかタイプがありまして、その代表的なものを幾つか紹介するにゃ。
タイプⅠ
ここでf(X,Y)はX,Yの有理関数。
と置くと、
となり、[0,2π]は単位円周|z|=1に移るから、
となる。だから、この定積分は|z|<1にある極の留数を計算して求めることができる。
このタイプの定積分の実例は前回出し、計算したのだけれど、改めて一つ問題を解いてみるにゃ。
問題 次の値を求めよ。
【解】
とすると、
になるにゃ。
とするにゃ。
f(z)の極を求めるために
を解くにゃ。この2次方程式の解をα、βとし、
とすると、|z|<1の内部にある極はαのみとなる。そして、これは1位の極。
z=αにおけるf(z)の留数を求めると、
となるので、留数定理より
これを①に代入すると、
となる。
この結果を使うと、すぐに
も出てくるにゃ。
―――何故、だろうか(^^)―――
タイプⅡ
f(z)は複素平面の上半平面(Imz≧0)で有限個の極を除いて正則であり、実軸上に極を持たず、かつとする。
原点を中心とする十分大きなをとり、半円をかき、それと線分で囲まれた領域にがすべて入るようにする。線分を、半円周をとし、これを合わせたものをCとすると、留数定理より
仮定より、であるから、任意の正数εに対して十分大きなをとると、
となる。で、Rをより大きな値にとると、
よって、
となる。だから、
特に、f(x)が偶関数のとき、
このタイプの積分として、次の問題を解いてみるにゃ。
問題 次の積分の値を求めよ。
【解】
被積分関数
はタイプⅡの条件を満たしている。
留数定理から
となる。
この問題に関しては、
となるので、
と計算することもできる。第51回 第50回のやり残し [複素解析]
第51回 やり残し
前回、50回の②の証明をするにゃ。
αをg(z)の1位の零点とする。ただし、h(α)≠0とするにゃ。
そして、このz=αを中心として、h(z)とg(z)をテーラー展開すると、
よって、
となる。
となるからだにゃ。
で、
の解だけれど、
となる。
で、留数定理が実積分と具体的にどう関係するか、ちょっとやってみるにゃ。
問題 次の積分を求めよ。
【解】
この積分をIとする。
で、
となる。
こうすると、θ=0〜2πは原点を中心とする単位円|z|=1になるよ。
ということで、
となる。
の極はz=a,1/a。よって留数は、51回の②式より―――つまり、分母だけzで微分する―――
となるにゃ。
ここで、気をつけないといけないのが原点を中心とする半径1の円|z|=1にどちらの留数が含まれているか。
|a|>1のときは、z=aは円の外、z=1/aは円の中にあるので、留数定理より、
|a|<1のときは、z=aが円の中にあるので
となる。
2つ合わせて書くと、
となる。
(問題終わり)
この積分は、普通の微分積分の知識を使って求めようとしても簡単には求まらないにゃ。
第50回 留数を求める方法 [複素解析]
第50回 留数を求める方法
留数とは、孤立特異点αを中心とする関数f(z)のローラン展開を
とした時の−1次の係数のことで
のことですにゃ。また、αにおける留数をRes(α)と簡単にあらわす。
と、前回の内容を復習し、今回は留数を求める方法を紹介しますにゃ。
最もオーソドックスな方法としては、実際に関数f(z)を孤立特異点αのまわりでローラン展開するというものがある。たとえば、次のような関数の場合を考えてみるにゃ。
この関数の特異点はz=0だにゃ。
この関数の分子であるは複素平面全体で正則だから、z=0で次のようにテーラー展開(マクローリン展開)ができる。
だから、f(z)のローラン展開は次のようになる。
よって、z=0における留数は
となる。
で、前回、1位の極αにおける留数の求め方を紹介したにゃ。その方法とは、
というものだにゃ。
上の関数の場合だと、z=0は1位の極だから、この方法を使うことができる。
当然の話だけれど、同じ値になる。
1位の極αにおける留数を求める方法は次のようなものがある。
g(z)をαを1位の零点とする正則関数、h(z)をαを零点としない正則関数とするとき、z=αにおけるh(z)/g(z)の留数は
である。
この証明は次回に回すことにするケロ。
この方法を使うと、次のように計算できるケロ。
とすると、g(z)は正則であり、零点はα=0である。h(z)は正則でz=0でh(0)=0にならないのでz=0は零点ではいので②を使うことができる。
となるにゃ。
当然のことながら、求めた値は同じになる。
また、この方法を使うと、前回やった
の特異点での留数は次のように簡単に求めることができる。計算を簡単にするために、特異点をαとするにゃ。
α=±iaだから、これを上の結果に代入すれば良い。
この場合くらいならば、①の方法でも②の方法でも大差はない。だけど、
となると、計算量が全く違ってくるにゃ。
計算を簡単にするために、a=1とするけれど、②を使うならば、
となるにゃ。そして、あとは
を解いて、代入すればいい。
ここで改めて言うけれど、①と②が使えるのは、αがf(z)の1位の極の場合だけだにゃ。1位の極以外では使えないので注意するケロ。
で、より一般のn位の極の場合は、
αをn位の極とすると、そのまわりのローラン展開は
となるので、
これを(n–1)回微分し、z→αという極限をとると、生き残るのはだけなので
となるにゃ。
問題 次の関数の特異点における留数を求めよ。
【解】
なので、z=0は2位の極、z=1は1位の極である。
z=1における留数Res(1)は、①より
z=0における留数は、③より
となる。