第49回 留数と留数定理 [複素解析]
第49回 留数と留数定理
今まで長々と話してきた複素解析は、今回お話する「留数定理のためにあると言っても過言ではない」ほど重要な定理。
留数
αを関数f(z)の孤立特異点とし、αを中心とするローラン展開を
とするとき、この整級数の–1次の係数を留数という。
これを
またはRes f(z)とあらわす。
ローラン展開の定義より
となる。ここで、Γはその周上および点αを除いた内部でf(z)が正則である閉曲線である。
①式を留数の定義に使ってもいいにゃ。
①式を見ればすぐにわかるけれど、
だと言っているんだケロよ。f(z)が孤立特異点αをグルッと取り囲む閉曲線Γの内部で正則であれば、Γに沿っての周回積分は留数に2πiを掛けたものだと言っているんだケロよ。どんな方法でもいいから留数を求めさえすれば、積分なんて面倒な計算をしなくていいってことだにゃ。スゴイと思わない。
ずっと前に
のとき、αを中心として半径r>0の円Cに沿ってf(z)を積分すると、
という話をしたにゃ。
f(z)=1/(z–α)の–1次の係数の係数は1だから留数は1だにゃ。だから、これに2πiを掛けたものが積分の値になっている。n=2,3,…のときは0だから、0になっている。
なお、この時、αが孤立特異点になっているのはわかるよな?
しかし、積分路である閉曲線Γの内部にf(z)の孤立特異点が一つでなく、複数個ある場合もあるにゃ。
ということで留数定理。
留数定理
定理(留数定理)
関数f(z)が単一閉曲線Cを境界とする領域に有限個の孤立特異点を持ち、これら以外ではCを含めて正則であるとき、
【証明】
図のように、各のまわりに互いに交わらないような円をかく。
この各について
が成立する。
また、コーシーの積分定理の系1より
が成り立つので、
となる。
(証明終わり)
では、どうやって留数を求めるか。これには幾つか方法がある。
f(z)の孤立特異点αを中心とするローラン展開を求め、その係数を求めるというのがもっともオーソドックスな方法だろうけれど、これは一般的にかなり大変。
ということで、今回はもっとも簡単な方法を紹介するにゃ。
αがf(z)が1位の極の場合、αにおけるローラン展開は
という形になっている。
だから、上の市の両辺にz–αを掛ける。そうすると、
となるので、z→αという極限をとると
となる。
では、1位の極における留数を求める簡単な問題を解いてみるにゃ。
問題 次の関数の特異点における留数を求めよ。
【解】
となるので、z=±iaは1位の極である。
よって、
となる。
ちなみに、極というのは、1/f(z)が0になる点だにゃ。第47回の系を見てほしいニャ。
コーシーの積分定理の系1
Cは領域Dの中にある閉曲線であり、はCの内部にあって、かつ互いに他の外部であるような閉曲線である。さらに、Cとで囲まれた領域およびその境界はDに含まれている。f(z)が領域Dで正則であるとき、次の等式が成り立つ。
「第47回特異点」の系
孤立特異点αがf(z)の極であるための必要十分な条件は、αが1/f(z)のn位の零点であることである。第48回 解析接続 [複素解析]
第48回 解析接続
一致の定理
まずは、第46回で出てきた「一致の定理」を再掲します。
定理A(一致の定理)
f(z)を領域Dで正則とする。D内の点αで
ならば、D全体で恒等的にf(z)=0である。
そして、上の定理Aを元に新たな「一致の定理」が導かれるにゃ。
定理B(一致の定理)
関数f(z)が領域Dで正則であり、D内の点αに収束する点列上でならば、f(z)はD内で恒等的に0である。
定理Bは何を書いているかわからないと思うケロ。
複素平面全体で正則な関数f(z)があるとするにゃ。で、α=0という点に収束する点列、たとえば、
というものがあるとする。
このとき、飛び飛びの点のすべてで
となれば、f(z)は恒等的に0だと言っているんだケロ。
ということで、この定理を証明するにゃ。
【証明】
f(z)はD内の1点で0でないとする。すると、
となる正の整数lが存在する。
そうすると、
となるDで正則な関数g(z)(g(α)≠0)が存在する。
だ・か・ら、十分小さな正数ρ>0をとると、0<|z–α|<ρにf(z)が零点を持たないようにできる。
これは仮定に矛盾する(※)。
よって、f(z)はD上で恒等的に0である。
(証明終わり)
(※)を付けたけれど、何で「矛盾する」となるかわかるケロか?
数列の極限値はαだにゃ。ということは、任意の正数ε>0に対して、十分に大きな正の整数Nをとれば、
となるにゃ。εは任意の正数だからε=ρとできて、
となるは、かならず存在する。
だから、
となり、は零点となる。
0<|z–α|<ρにはf(z)の零点がないはずなのに、この中に零点が存在する。
それで〜、何でこの定理が「一致の定理」と呼ばるかというと、次のような理由による。
領域D内で定義されるという2つの正則な関数があるとするケロ。
で、とする。すると、f(z)はD上で正則な関数だにゃ。そして、f(z)がD上で恒等的に0であれば、となるというわけ。
当たり前のことだにゃ。
だけれども、定理Bの主張は、Dの点αのごくごく近い部分や曲線のほんの僅かな切れ端の所だけで一致していれば、とは同じものと言っているんだにゃ。そして、これは次の解析接続の話につながってゆく。
解析接続
2つの異なる領域、がどちらも領域Dを含み、はで正則、はで正則であり、かつ、Dにおいてであるとする。
このとき、をのへの解析接続という。逆にをのへの解析接続という。
のへの解析接続はただ1つしかない。
何故ならば、のへの解析接続をg(z)とすると、Dにおいて恒等的に
が成り立ち、一致の定理よりでになるからである。
同様に、のへの解析接続もただ一つである。
ということで、f(z)をでは、ではと一致する関数とすると、f(z)はとで合わせた領域で正則となる。
このことは、で定義されたの定義域を、正則性を変えずにとで合わせた領域に拡張したことになる。
このように正則性を保ちながら関数の定義域を拡張していく操作のことも解析接続という。これまでに何度も出てきた関数だけれども、
とする。
1/(1–z)をz=i/2のまわりでテーラー展開することにする。
|z−i/2|<1/2で正則なので、この範囲でテーラー展開できるにゃ。n階の導関数を求めると、
となるので、
となり、テーラー展開はi/2を中心とするテーラー展開は
となる。
この右辺の整級数は|z–i/2|<|1–i/2|=√5/2の時に収束するので、
と定義すると、この関数は|z–i/2|<√5/2で正則。
もともと|z|<1で定義されていた関数が|z|<1と|z–i/2|<√5/2と合わせた領域に解析接続されたことになる。
こういうふうに関数をドンドンとつなげていけるといった話だにゃ。そして、繋げに繋げていって、最終的に得られた関数のことを解析関数という。
第47回 特異点 [複素解析]
第47回 特異点
関数f(z)が点z=αで正則でないとき、αをf(z)の特異点という。
f(z)が0<|z–α|<ρ(ρ>0)で正則であり、点z=αで関数f(z)が定義されていないか、定義されていてもz=αで正則でないとき、αを孤立特異点という。また、孤立点の集積点となっている点を集積特異点という。
たとえば、
という関数があるとすると、この関数はz=1、z=2以外では正則。だから、z=1、z=2は孤立特異点。
また、次のような関数
の場合、特異点はz=0、±π、±2π、…で、これ以外の点では正則なので、孤立特異点ということになる。
集積特異点の例としては、
この場合、z=1/n(n=±1,±2,±3,…)は孤立特異点。しかし、z=0は集積特異点となる。
点αがf(z)の孤立特異点であるとする。十分小さな正数ρをとると、f(z)は0<|z–α|<ρで正則だから、次のようにローラン展開が可能。
右辺、第2項は0<|z–α|<ρで収束する。
そして、第1項
をローラン展開の主部、もしくは、主要部という。
ということで、ローラン展開の主要部で特異点が3つの場合に分類できるんだにゃ。
(ⅰ)除去可能な特異点:ローラン展開の主要部がない場合、
(ⅱ)極:主要部が有限の場合
このとき、正整数nを極αの位数といい、αをf(z)の極という。
(ⅲ)真性特異点:主要部が無限級数の場合
除去可能な特異点の例としては、たとえば
という関数の特異点z=0。
sin(z)は複素平面全体で正則だから、z=0まわりで次のようにテーラー展開ができる。
だから、z≠0で
f(z)はz≠0では定義ないけれど―――z=0だとsin(0)/0で0/0になる!!―――、
なので、これを用いて、
と定義すれば、z=0という特異点を除去することができる。
実関数の微分のところでやったけれど、
の証明になっているにゃ。
話を元に戻して、除去可能な特異点の場合、
になるケロ。
―――何故、こうなるか分からない人はz=αとするにゃ。そうすると、z–α=0となり、以外は0になる―――
だ・か・ら、
と定義すると、f(z)は点αのまわりでテーラー展開できることになり、αにおいても正則になって特異性が除去できる。
定理
点αがf(z)のn位の極であるための必要十分条件は、f(z)が
とあらわされることである。ただし、φ(z)はαで正則、φ(α)≠0とする。
必要条件
αはn位の極だから
となる。
とすると、
となる。これは収束する整級数であるから、φ(z)は正則であり、
であり、①式のように表せる。
十分条件
φ(α)は正則なので、αまわりでテーラー展開が可能。これを①に代入すると、
とローラン展開されることになり、αはn位の極である。
(証明終わり)
①から
だにゃ。αがf(z)の極だからφ(α)≠0なので、αは1/f(z)のn位の極になっているにゃ。
系
孤立特異点αがf(z)の曲であるための必要十分な条件は、αが1/f(z)のn位の零点であることである。
一番最初に出た
の場合、
となる。z=1は③の1位の零点、z=2は2位の零点だから、z=1はf(z)の1位の極、z=2は2位の極となる。
また、
となるので、これから極αの位数を求めることもできる。
これを使うと、②の場合、z=2が2位の極であることは
から分かる。
第46回 零点 [複素解析]
第46回 零点
零点とは、関数f(z)に対して、f(α)=0となる点αを零点という。
例えば、
f(z)=z(z–1)
という関数があるとすると、z=0とz=1が零点になる。
そして、いきなり、一致の定理を提出する。
定理(一致の定理)
f(z)を領域Dで正則とする。D内の点αで
であるならば、Dで恒等的にf(z)=0である。
証明は、結構、長いので感覚的に理解してもらうことにするにゃ。
f(z)はDで正則なので、α∈Dのαの近傍で次のようにテーラー展開できるにゃ。
そして、
だから、αの近傍|z–α|<ρのすべての点zでf(z)=0となる。
なのだけれど、そうは簡単にいかない。例えば、次のような領域Dだと塩梅が悪い。面倒な議論をしなければならない。
ということで、これは天下り的に証明抜きでいただくことにするにゃ。
f(z)が領域Dで正則な関数であり、D内で恒等的にf(z)=0でない、つまり、D内でf(z)≠0の点が少なくとも1つあるとする。このとき、αをD内におけるf(z)の零点とすると、上の定理より
となる正の整数nが定まる(※)。このnを零点αにおける位数という。またαはf(z)のn位の零点であるという。
(※) 存在しないならば、となり、D内で恒等的にf(z)=0になってしまうにゃ。
f(z)をαの近傍でテイラー展開すると
ここで、
とおくと、
となり、は正則であり、
となる。
よって、十分小さなρ>0をとると、|z–α|<ρで点α以外でf(z)は0にならない(※)。
(※)は正則なので連続。よって、も連続となり、任意の正数εに対して
となるρ>0が存在する。
とすると、
となるにゃ。だから、十分小さなρをとると、z=α以外では
だにゃ。
ということで次の定理が得られたにゃ。
定理
関数f(z)が領域Dで正則であるとき、D内で恒等的にf(z)=0でないならば、D内にあるf(z)の零点はすべて孤立している。すなわち、αをf(z)の零点とするとαの十分近くにはα以外に零点は存在しない。
なんか難しいことを書いてあるように見えるかもしれないけれど、そんなに難しく考えることはないにゃ。
だったら、αはn位の零点だし、βはm位の零点だにゃ。
だから、最初に書いたf(z)=z(z–1)の場合、z=0、z=1ともに1位の零点となる。
また、sin(z)の場合、たとえば、z=0のとき、sin(z)=0になる。で、f(z)=sin(z)を微分すると、
となるケロ。
よって、零点0はsin(z)の1位の零点ということになる。
第45回 ローラン展開するにゃ [複素解析]
第45回 ローラン展開するにゃ
次のような関数があるとしますにゃ。
この関数はz≠3で正則な関数。
で、これをz=1を中心として展開することにしますにゃ。
|z–1|<2ならば
となるにゃ。
|z–1|>2ならば
と展開できるにゃ。そして、これは2<|z–1|<+∞でf(z)=1/(z–3)に一様収束する。
こういう展開が前回やったローラン(Laurent)展開と呼ばれるもの。
ちなみに、|z–1|<2の場合はテーラー展開と同じになっており、ローラン展開の主部は存在しない。
2<|z–1|<+∞の場合は、ローラン展開の主部のみになっている。
では、もう一つ。
問題 次の関数をz=1を中心にローラン展開せよ。
【解】
ということで、
を考えるにゃ。
|z–1|<2のときは、
になる。
そして、2<|z–1|のときは、
となるにゃ。
この計算には、
を使っているにゃ。
ということで、
ローラン展開は、
|z–1|<2に対しては
この時は、ローラン展開の主要部は
だけだにゃ。
2<|z–1|<+∞に対しては
になるんじゃなかろうか。
こちらは、ローラン展開の主部だけで構成されている。
第44回 ローラン展開 [複素解析]
第44回 ローラン展開
点aの近傍で、aを除き、f(z)を正則とする。その領域内にaを中心とするの円を書けば、f(z)はに挟まれた円環との周上で正則となる。
この円環内に点zをとり
を考える。
そうすると、
となり、
となる。
コーシーの積分公式より、
なので、
となる。
①の右辺第1項は、テーラー展開でやったように
となり、これはzがの内部にあるとき収束する。
①の第2項は|ζ–a|<|z–a|、つまり
だから
となり、①の右辺の第2項の積分は項別積分が可能で
よって、
となる。
また、被積分関数が正則な範囲で積分路を変更しても積分の値は変わらないので、次の定理が成立することが分かる。
定理
関数f(z)が円環領域で正則であるとき、この領域においてf(z)は次のような形に一意的に展開できる。
上の定理で得られたf(z)の展開を、aを中心とする(aのまわりの)円環領域におけるf(z)のローラン展開といい、②であらわされた級数をローラン級数という。
をローラン級数の主部という。
上の定理ではに分けたけれども、これは次のように書くこともできる。
②と③は、まったく同じ式です。そして、③式の形式の場合、ローラン級数の主部は
となる。
ちなみに、関数をローラン展開するとき、②や③を使って係数を求めるなんて恐ろしいことはしないにゃ。この積分の計算は、まず、出来ない(「不定積分を初等関数で表せない」などの意味)と考えた方がいいにゃ(^^ゞ
では、簡単な問題を一つやってみるケロ。
問題 原点を中心としてをローラン展開せよ。
【解】
で、指数関数のテーラー展開を利用するにゃ。
さらに、ζ=1/zを上の式に代入すると、
第43回 関数をテーラー展開するにゃ [複素解析]
第43回 関数をテーラー展開するにゃ
テーラー級数の定理を知ってても、実際に、関数をテーラー展開できないことには話にならない。ということで、テーラー級数を求めてみることにします。
a点まわりの関数f(z)のテーラー級数とは以下のとおり。
問題1 次の関数をa点まわりでテーラー展開せよ。
【解】
f(z)=1/zは|z–a|<|a|で正則。
そして、
となる。
ということで、
ずるい計算法としては、
として、ζ=(z–a)/aとする。
そうすると、|ζ|<1のとき、
よって、
だから、
となるにゃ。
前回、
という式は、よく使うと言ったけれど、この式は便利。いろいろなところで大活躍します。
問題2 次の等式が成り立つことを証明せよ。
【解】
上の3つの関数は複素平面の全領域で正則だにゃ。
で、a=0点まわりでテーラー展開する、つまり、マクローリン展開するにゃ。
だから、
よって、
となる。
ちなみに、この級数の収束半径Rは
だにゃ。
f(z)=coszとすると、
で、z=0を上の式に代入すると、sin(0)=0だから、nが奇数のところはになるにゃ。残るのはnが偶数のところだけだから、n=2mとすると、
だから、
で、mをnにすり替えると、問題にある等式が出てくる。
sinくらいは、自分でやるべきだにゃ。
だけど、ここでずるをするにゃ。
だから、当然、
coszの定義から、次のようになるケロ。
nが奇数とき、
だから、
だにゃ。
nが偶数のとき、これをn=2mと書くと
ということで、
となる。
上の式の右辺の級数の収束半径R=∞だから、複素平面の全ての点でcoszに一様収束するので、項別微分が可能。よって、
となるにゃ。
Σのところの2m–1が2k+1に変わっているところは、こういうカラクリ。
これはm=k+1とおくと、2m–1=2(k+1)–1=2k+1となるにゃ。そうすると、k=m–1だから、m=1のとき、k=0となる。だから、Σの下がm=1からk=0に変わっている。
あと、
だから、これを微分すると、
だから、Σの下のm=0がm=1に変わっている。これを0にしたかったら、m=k+1とすれば、
では、もう一つ。
問題3 log(1+z)を0のまわりでテーラー展開せよ。
【解】
だケロ。これを積分すれば、もとのlog(1+z)に戻るにゃ。
ここから先は好き好きだね。
としてもよい。
もちろん、テーラー展開の級数の定義に従って、log(1+z)のn階の導関数をまじめに求めて計算してもよい。
多分、このn階の導関数は
ですが、真面目に計算しないのが普通。
たとえば、
のマクローリン展開は、定義に従って真面目に計算せずに、
と計算する。
一意性が保証されているから、どんな方法で求めても構わない。
おまけとして、
前回やった結果と同じになっている。
二重括弧の中は、偶数の時は2で、奇数の時は0であることに注意する。
第42回 テーラー展開 [複素解析]
第42回 テーラー展開
テーラー展開は実関数の微分のところで出てきたにゃ。
関数f(x)が何度でも微分できるとき、f(x)をaの近傍で
と展開できるという奴だにゃ。
特にa=0のときの
をマクローリン展開と呼ぶ。
複素関数でも正則な関数ならば、このテーラー展開やマクローリン展開が成り立つという話だにゃ。
定理
f(z)がz=αを中心とする半径ρの円の内部で正則であるとき、|z–α|<ρである任意のzについて次の等式が成り立つ。
【証明】
コーシーの積分の公式より
が成り立つ。
C上の|ζ–α|>|z–α|であるから、
と展開できる。
f(ζ)はC上で正則だから、有界であって、C上で常に|f(ζ)|≦MとなるようなMが存在し、
となり、関数項級数
はC上でに一様収束する。
よって、項別積分が可能になり、
(証明終わり)
①の右辺の級数を、αを中心とする、あるいは、αまわりのf(z)のテーラー級数といい、①のようにあらわすことを、αを中心として、、あるいは、αまわりでテーラー展開するという。特に、α=0のときのテーラー級数、テーラー展開を、マクローリン級数、マクローリン展開と呼ぶ。
さらに、この定理の系。
系
領域Dで正則な関数f(z)は、Dの任意の点を中心として0でない収束叛旗をもつテーラー級数に展開される。
定理(整級数展開の一意性)
f(z)が0でない収束半径を(z–α)の整級数であるならば、これはαを中心とするテーラー級数である。
【証明】
収束半径R>0で
とあらわされるとする。
αを中心としRより小さな半径の円Cを描くと、C上でこの級数は一様収束するから、
(証明終わり)
ずっと前に、中心α、半径の円をCとするとき、
というのをやったにゃ。
だから、となり、
まっ、そういうことだにゃ。
で、代表的なテーラー級数を紹介し、今回は終わりにゃ。
一番上の
これはよく使うよ。今回紹介した最初の定理でも使っているし、これは色んな所で出てくる。そして、これは便利なんだにゃ。
⑨のzのところ「−z」にする、zのところをにすれば出てくるにゃ。
テーラー級数の一意性は証明されているので、こういうことができるんだにゃ。第41回 ちょっと演習 [複素解析]
第41回 ちょっと演習
整級数と整級数であらわされる関数のおさらいをかねて、ちょっと問題を解きますにゃ。
まず、整級数の収束半径を求める問題だケロ。収束半径というのは、整級数が
|z|<Rならば収束し、|z|>Rならば発散する実数のこと。
この収束半径Rを求める方法として、
と、コーシー・アダマールの公式と呼ばれる
とがある。
limの上に線がついているのは上極限―――これは「じょうきょくげん」と読むらしい。今の今まで知らなかった(^^ゞ―――と呼ばれるもの。
という数列があったとき、
と定義されるのだけれど、これでは、何のことかわからないと思うにゃ(^^ゞ
例えば、
であらわされる数列があったとする。
すると、これは
k=0とすると、
k=1とすると、
だから、
supというのは、最大値みたいなものだからね。
こういう具合にkの値を大きくしてゆくと、この値はどんどん減って小さくなってゆく。kを大きくしてゆけば、この値は、限りな〜く0に近づいてゆく。
こういうふうにして得られた極限を上極限という。そして、この数列の場合は
この他に下極限と呼ばれるものもあるのだけれど、このへんの詳しい話はそのうちに。
今は先を急ごう。
問題1 次の級数の収束半径を求めよ。
【解】
(1)はなので
よって、収束半径R=1
(2)はなので、
よって、収束半径R=∞
最初に上げたどちらの公式を使って収束半径を求めてもいいのだけれど、コーシー・アダマールの公式は一般に計算が面倒になるので、①で求められない場合に使うといいにゃ。
でだ、(1)は
となるケロ。
で、|z|<1のとき、項別微分が可能なので
だにゃ。
そして、
となるので、
問題2 次の微分方程式を整級数を用いて解け。
【解(もどき)】
項別微分(できると)すれば、
よって、
nが奇数のときは、
だから、全部、0。
nが偶数のとき、
となる。
奇数次の係数は全部0だから、となるにゃ。
ちょと見てくれが悪いので、とするとオシャレだにゃ。
で、この右辺の収束半径Rは無限大だにゃ。見ただけで、無限大だって分かるケロ。
したがって、この右辺の級数は、複素数全域で絶対収束し、項別微分が可能になる。だから、この微分方程式の解はこれ以外にないにゃ。
ちなみに、何も考えずに機械的に
と計算し、
さらに、何も考えずに機械的に計算すると、
となり、一致するケロ。
何故ならば、
だから、
とすれば・・・。第40回 整級数(べき級数)であらわされた関数 [複素解析]
第40回 整級数(べき級数)であらわされた関数
整級数が収束半径R>0を持つならば、収束円|z|<Rにおいてある関数f(z)に収束し、0<r<Rであるすべてのrに対して、|z|≦rにおいてf(z)に一様に収束する。つまり、|z|<Rは広義一様収束する。
ということで、
整級数であらわされた関数でも、前回にやった関数項からなる級数に関しての項別積分、項別微分の定理などが成立する。
とすればいいんだにゃ。
定理16
整級数が収束半径R>0をもつならば、は収束円|z|<Rにおいて連続な関数をもつ。
定理17(項別積分)
整級数が収束半径R>0をもち、Cを収束円内の2点を結ぶ曲線で集束円の内部にあるとき、
【証明】
定理18(項別微分)
整級数の収束半径Rが0でないならば、関数
は|z|<Rで正則であり、その導関数は
で与えられる。
この式の右辺の収束半径もまたRに等しい。
【証明】
①はただ項別に微分したものだからいいケロ。
収束半径については、パスだにゃ(^^ゞ
そして、いきなり、関係のない話をする。
微分のところで、
になるという話をしたのを覚えているかにゃ。
となるので、f(x)はx=1で極小値をもつ。
だから、
ということで、x≧1とすると、
が成り立つ。
で、
になるので、ハサミ打ちの定理から
となる。
この結果を使うと、
となるにゃ。
ということで、
で、コーシー・アダマールから収束半径を求めるにゃ。
よって、収束半径はRである。
「ちょっと待て、⑨ネコ!!」
「何だにゃ。」
「求めるべき収束半径は⑨じゃなく
になるんじゃないか。」
「そうだよ。それがどうしたにゃ。」
「だったら、値が違うかもしれないじゃないか。」
「nはとんどもなく大きい数だから、nもn+1でも値はほとんど変わりはしないにゃ。」
「まるで、ネムネコのように細かい野郎だにゃ。だったら、こうすればいいだよ。」
ということで、めでたく証明できた。
いま、どのような話をしているかというと、
になるという話ですにゃ。
だから、コーシー・アダマールの式で収束半径を求める場合、zのn乗の係数をつかっているから、だという指摘だケロ。
で、最後に、さり気なく、もうひとつ定理を付け足す(^^ゞ
定理19(整級数に関する一致の定理)
2つの整級数がある正の数rについて|z|<rにおいて同じ関数に収束するならば、すべてのnに対して、である。
この定理の主張は、f(z)の整級数による表現法は一つしかないということ。
なので、z=0のとき、
になる。
1回微分すると、
となるので、z=0のとき、
同様に次々と微分してz=0を入れば・・・。