第16回 テンソルの微分 [テンソル入門]
第16回 テンソルの微分
テンソルの各成分がスカラーtの関数であるとする。
直角座標の変換によって
となるから、この両辺をtで微分すると、
したがって、はテンソルである。これをテンソルの微分係数という。
をテンソル、をベクトルとすれば、
などが成り立つ。
テンソルの成分が座標xの関数であるときテンソル場といい、記号、などであらわす。をで偏微分した
は3次のテンソルであり、これをテンソル場の偏微分係数という。
を縮約すると、
が得られる。
(1)をテンソル場の右発散、(2)をテンソル場の左発散といい、記号、
などであらわす。
また、テンソルが対称テンソルのとき、すなわち、
であるとき、
となり、右発散と左発散は一致する。
このとき、
などであらわすことがある。
φをスカラー、Tをテンソル場とするとき、
したがって、(縮約すると)
また、テンソルが対称テンソルのとき、
と形式的にあらわすことができる。
を閉曲面Sで囲まれた領域Vにおけるテンソル場とする。
ガウスの発散定理(※)から
これらの和をとれば
曲面Sの内部から外部へ向かう単位法線ベクトルnの成分をとすれば、上式は
よって、が対称テンソルのとき、
が成り立つ。
これを対称テンソル場のガウスの積分公式ということがある。
(※)
ガウスの(発散)定理
閉曲面Sで囲まれたVにおいて、A(x,y,z)をベクトル関数とすれば
ただし、nは閉曲面Sの内部から外部に向かう単位ベクトルである。
第15回 ベクトル場の微分 [テンソル入門]
第15回 ベクトル場の微分
ベクトル場をとし、x¹、x²、x³で偏微分して得られる9個の関数
はテンソルの成分である。これをベクトル場の偏微分係数という。
【2次のテンソルであることの証明】
直角座標の変換
によって
になるとする。
(2)の両辺をで偏微分すると、
ここで、
だから、
したがって、はテンソルである。
(証明終)
をスカラー関数とすれば、はベクトルである。したがって、は2次のテンソルである(※)。
また、φが2回連続微分、すなわち、C²級であるとき、
が成立するので、は対称テンソルである。
例 ベクトルの発散
は、2次のテンソルを縮約したものだから、2−2=0次のテンソル、すなわち、スカラーである。
また、テンソルの対称成分は、
の反対称成分は
だから、はベクトルの成分。
よって、
とおき、ベクトルをv、wで表せば、
である。
(※)
だから、
となり、はベクトル(1次のテンソル)。
ここで、
とおけば、
が2次のテンソルであることが示される。
問 をスカラー関数とするとき、
がスカラーであることを示せ。
【解】
(4)は、i=jとして、これを縮約したものだから、2−2=0次のテンソル、すなわち、スカラーである。
(解答終)
第14回 高次のテンソル [テンソル入門]
第14回 高次のテンソル
これまで取り扱っていたテンソルは2次(2階)のテンソルであるが、ベクトルから2次のテンソルを得たようにより高次のテンソルを定義することができる。
たとえば、3つのベクトルをとし、
とおけば、直角座標の変換によって、
すなわち、
となる。
を27個の数の組とする。
直角座標の変換
によってが
に変換されるとき、この27個の数の組をテンソルといい、の各々をその成分という。
同様に、4次、5次のテンソルを定義することができる。
を3次のテンソルとするとき、
よって、
とおくと、
となるので、
は3次のテンソルである。これをテンソルとの和という。
同様に、
をテンソルとの差という。
また、αをスカラー、をテンソルとすれば、
はテンソルである。
そして、を3次のテンソル、を2次のテンソルとすれば、
は5次のテンソルである。これをテンソルとの積という。
テンソルの同じ指標について、1から3まで加えることを縮約という。
縮約の例
一般に、1つの文字について縮約すると、テンソルの次数は2次下がる。
問 をベクトル、を2次のテンソルとするとき、
は何次のテンソルか。
【解】
とすると、
したがって、これはスカラー(直交座標の変換によって値が変わらないもの)だから、0次のテンソルである。
このように解くのが正式な解き方だけれど、こんなことをしていたら死んでしまうので、1つの文字について縮約すると、テンソルの次数は2次下がるを利用すことにする(^^ゞ
はベクトルなのだから、は2次のテンソル。そして、
は、j=iとしてを縮約したものだから、このテンソルの次数は2−2=0次になる。
は3次のテンソル。そして、
は、k=jとして3次のテンソルを縮約したものだから、このテンソルの次数は3−2=1次。
は4次のテンソル。
は、k=i、l=jとして4次のテンソルを縮約したものだから、このテンソルの次数は4−2−2=0次。
は2次のテンソル。
は、j=iとして2次のテンソルを縮約したものだから、2−2=0次のテンソル。
最後くらい、真面目にやろうか。
つまり、これは直交座標の変換によって変わらないのでスカラー、つまり、0次のテンソルである。
(解答終)
k=1のとき、
だから、
同様に、
したがって、
である。
テンソルの問題というよりも行列の問題(10月13日)の答かも [テンソル入門]
問題1
行列Aの成分をとする。
すると、
となるので、
とおくと、
したがって
とおけば、行列Sは対称行列、行列Tは反対称行列となり、
と、行列Aは対称行列Sと反対称行列Tに分解することができる。
では、お前らに聞くにゃ。
(1)式、(2)式を用いた分解法以外に、行列を対称行列と反対称行列に分解し、その和としてあらわす方法はあるでしょうか?
【答(?)】
正方行列Tが、次のように、対称行列Sと反対称行列(交代行列)Tの和で表せるとする。
すると、
ここで、は行列Aの転置行列。
すなわち、行列Aの(i,j)成分を、転置行列の(i,j)成分をとすると、
である。
仮定より、Sは対称行列、Tは反対称行列だから
したがって、②式は
①と③を連立して、SとTについて解くと、
したがって、正方行列Tが対称行列Sと反対称行列(交代)Tの和で表せるならば、
でなければならない。
(解答終)
つ・ま・り、
正方行列Aが対称行列Sと反対称行列(交代)Tの和で表せるための必要な条件は、
であり、この逆も成立するので、(3)は必要十分な条件というわけ。
そして、このことは、正方行列は必ず対称行列と反対称行列の和に分解できるということを示している。
問題2 次の行列を対称行列と反対称行列の和で表わせ。
【解】
とおくと、
したがって、
このとき、
となり、Sは対称行列、Tは反対称行列である。
よって、
と、対称行列と反対称行列の和で表せる。
(解答終)
テンソルのコーヒーブレイク [テンソル入門]
テンソルのコーヒーブレイク
直交座標系O-x¹x²に関するテンソルTの成分が
であるとする。
このテンソルの固有値をλ、固有ベクトルを、
そして、単位テンソルをIとすると、
となり、固有ベクトルvが零ベクトル以外であるためには
よって、テンソルTの固有値はλ₁=1、λ₂=3である。
また、(1)より、λ₁=1のとき、v²=−v¹となるので、固有ベクトルv¹は
λ₂=3のとき、(1)より、v²=v¹となるので、固有ベクトルv²は
である。
Tは対称テンソルだから、固有ベクトルv¹とv²は直交する。
実際、内積v¹・v²を計算すると、
となるので、この2つのベクトルが直交していることが確かめられる。
ところで、このテンソルTは対称テンソルだから、この成分を係数に持つテンソル2次曲線は
である。
この2次曲線は、固有値λ₁=1とλ₂=3にそれぞれ対応する固有ベクトルv¹とv²の方向にx'¹軸、x'²軸をとると、
となり、テンソル2次曲線がx'¹を長軸、x'²を短軸に持つ楕円であることが分かる。
上のことを踏まえて、ここで問題。
問題
直交座標系O-x¹x²に関するテンソルTの成分が
であるとき、直交座標系O-x'¹x'²に関するTの成分を求めよ。
この問題で、ここまでのテンソルに関する話をどこまで理解しているかが分かる!!
【答】
固有値λ₁、λ₂に対応する固有ベクトルの方向にx'¹軸、x'²軸をとると、この座標変換によって、対称テンソルTの成分は
となるので、
(解答終)
ところで、
の単位ベクトルを基本ベクトルe'₁、e'₂にとると、
となる。
したがって、e'₁、e'₂の方向余弦は
である。
ここで、
とすると、直交座標系O-x¹x²からO-x'¹x'²への変換によって、テンソルTの成分は
と変換される。
当然のことながら、問題の答と一致する。
テンソル成分の変換式
を用いてもいいけれど、上のように
と行列を用いて計算した方が、計算は楽だと思う。
ここで、
とするとき、転置行列は
また、
で、トレースと行列式も変化していない。
ここで、
とすると、
である。
テンソルというよりも行列の問題(10月13日) [テンソル入門]
お前らに質問するにゃ。
問題1
正方行列Aの成分をとする。
すると、
となるので、
とおくと、
したがって
とおけば、行列Sは対称行列、行列Tは反対称行列となり、
と、行列Aは対称行列Sと反対称行列Tとの和に分解することができる。
では、お前らに聞くにゃ。
(1)式、(2)式を用いた分解法以外に、行列を対称行列と反対称行列に分解し、その和としてあらわす方法はあるでしょうか?
一般の場合が難しいヒトは、Aを2×2の行列
としてこの問題を解いてみるにゃ。
オマケとして、次の問題も上げておこう。
問題2 次の行列を対称行列と反対称行列の和で表わせ。
第13回 テンソルの特性方程式、内積など [テンソル入門]
第13回 テンソルの特性方程式、内積など
§1 テンソルの特性方程式
空間内に設定された直交座標系O-x₁x₂x₃に関するテンソルTの成分をとする。Eを単位行列とすると、行列式
はλについての3次の多項式になる。
他の座標系O-x'₁x'₂x'₃に関するテンソルTの成分をとし、
とおく。
すると、
だから、これを上式に代入すると、
したがって、テンソルTの成分の成分で作ったF(λ)は使用する直交座標系には無関係で、テンソルTによってのみ定まる。そして、このF(λ)をテンソルTの特性方程式という。したがって、次の3次方程式
の3つの解をλ₁、λ₂、λ₃とすれば、これらは直交座標系には無関係で、テンソルTによってのみ定まる。このλ₁、λ₂、λ₃をテンソルTの固有値、F(λ)=0をテンソルTの特性方程式(固有方程式)という。
F(λ)=0を展開すると、
3次方程式の解と係数の関係より、
特性方程式F(λ)=0の3つの解λ₁、λ₂、λ₃は使用する直交座標系とは無関係でテンソルTのみによって決定されるので、上の3つの式の左辺は使用する直交座標系とは無関係でテンソルTのみによって決まる不変量である。
この3つの内、
は、それぞれ、テンソルTのトレース、行列式と呼ばれる。
§2 テンソルの内積
2つのテンソルS、Tの直交座表系O-x₁x₂x₃における成分をそれぞれとするとき、
をテンソルSとTの内積といい、記号S・Tであらわす。
すなわち、
である。
ただ、テンソルの内積S・Tに意味を持たせるには、直交座標系によってこの値が変わらないことを示す必要がある。
そこで、O-x'₁x'₂x'₃に関するテンソルS、Tの成分をとすると、テンソルの成分の変換硬式から
したがって、
ここで、
だから、
よって、
つまり、
は、使用する直角座標系に無関係でテンソルSとTによってのみ決定される。
ここで、
である。
特に、S=Tのとき、
よって、テンソルTの長さを
と定義することができる。
テンソルの長さの定義より、
となるテンソルTは零テンソルのみである。
第12回 テンソルを行列で表すと2 [テンソル入門]
第12回 テンソルを行列で表すと2
O-x₁x₂x₃からO-x'₁x'₂x'₃への成分の変換式が
であるとする。
行列で表現すると、
である。
テンソルTの直交座標系O-x₁x₂x₃とO-x'₁x'₂x'₃に関する成分を
とし、この変換式を考えることにする。
任意のベクトルxに対して
とする。
xの直交座標系O-x₁x₂x₃とO-x'₁x'₂x'₃に関する成分を
yの直交座標系O-x₁x₂x₃とO-x'₁x'₂x'₃に関する成分を
とすれば、このとき、
となる。
また、
だから、
この両辺にAの逆行列A⁻¹をかけると、
よって、
これが任意のベクトルxについて成り立つので、
よって、
したがって、
これが座標変換にともなうテンソルの成分の変換式である。
また、Aは直交行列だから、
が成立すので、次のように変換式を書き換えることができる。
これを行列のそれぞれの成分について書くと、
である。
また、
だから、
となり、「第6回 テンソルの新たな定義」で提示したテンソルの変換式が得られる。
また、この両辺にをかけて、iとjについて和をとると、
したがって、
ここで、
という関係を使うと、
と変換式(5)を得ることができる。
第11回 行列を用いてテンソルを表現すると1 [テンソル入門]
第11回 行列を用いてテンソルを表現すると1
任意の点Pの直交座標軸x¹、x²、x³軸に関する座標をx¹、x²、x³、また、直交座表示x'¹、x'²、x'³軸に関する座標をx'¹、x'²、x'³とすれば、
とあらわすことができる。
x¹、x²、x³軸の基本ベクトルe₁,e₂、e₃、x'¹、x'²、x'³軸の基本ベクトルe'₁,e'₂,e'₃との間には
という関係がある。
(1)式の左辺にこれを代入すると、
(3)式を行列を用いて表現すると、
となる。
問 直交軸の変換(2)によって
となることを示せ。
【解】
(3)より
第1式、第2式、第3式にそれぞれを掛け、辺々を加えれば、
よって、
(解答終)
なお上の計算では、
などが使われている。
ここで、
すなわち、クロネッカーのデルタである。
(5)式を行列を用いて表現すると、
となる。
ここで、(4)の行列を
とおくと、行列Aの成分とすると、
という関係がある。
そして、この行列Aの行と列を入れ替えた行列、すなわち、転置行列は
となり、(6)式に現れる行列になる。
したがって、(4)式は、この行列Aを用いると、
さらに、(6)式は
である。
(8)式に(9)式を代入すると、
となり、Aは直交行列である。
なお、ここでIは単位行列
そして、行列Aの逆行列をA⁻¹とすると、
である。
問の解は、クロネッカーのデルタなどを使っていて非常にわかりづらいと思うけれど、実は、
と同じ計算を行っているのであった。
そして、この結果を成分について書くと、
となるのであった。
テンソルの実例 [テンソル入門]
テンソルの実例
慣性テンソル
剛体が原点Oのまわりを一定の角速度ωで回転しているとする。剛体内の点Pの速度をv、とすると、
である。
剛体の密度をρとすると、微小部分dVの角運動量dLは
したがって、剛体全体の角運動量は
である。
ここで、
とおけば、
ゆえに、
ここで、
さらに、
とおけば、
となる。
任意の角速度ωに対して、常に、Lはベクトルであるから、はテンソルの成分である。
クロネッカーのデルタ
を用いれば、慣性テンソルの成分は
とあらわすことができる。
慣性テンソルの対角成分
は、それぞれ、x¹、x²、x³軸のまわりの慣性モーメントと呼ばれ、
は相乗モーメントと呼ばれる。
また、慣性テンソルの不変量
を慣性モーメントと呼ぶ。
剛体の運動エネルギーKは
よって、
で与えられる。