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梁の微分方程式にいたる長い道程 その1 [ddt³さんの部屋]

梁の微分方程式にいたる長い道程 その1

 

 d2y/dx2=M/(EI)のEIを移項した、

  h1-001.png    (1)


を、梁の曲げの微分方程式と言います。ネコ先生の定義、

 

  https://nekodamashi-math.blog.so-net.ne.jp/2019-06-11-9

 

とは符号が違いますが、符号は座標系yの取り方や、Mの正方向の決め方に依存しますので、ここではこれで通します。でも梁の曲げの微分方程式とは、けっこう長い名前ですよね?。「の」が2回も出てくるし。

 



 土木の命名規則って、けっこうモロでマンマなんですよ。例えば図-1は落石防護擁壁といわれる工法で、落石から道路上の人や車を守るのが目的なんですが、「待ち受け工」と呼ばれる工法の一種です。落石をまさに待ち受けてる訳です。「待ち受け」の文字を見たとき、経験的には冗談と思うか爆笑する人さえいました(^^;)

 ところで梁の曲げの微分方程式にいたる道程は、けっこう長いんです。いくつかの別系統の概念や考えを総合しないといけないからです。

 

 

1.微小変形理論と弾性学

 

 構造はある材料で造られます。経験的にいうと構造が目に見えるくらい変形したら、構造を構成する材料はぶっ壊れてるのが普通です。設計計算の目的は、材料がぶっ壊れない事の確認ですから、基本は目に見えない程度の微小な変形範囲の材料挙動という事になります。

 材料にある変形が生じれば、変形に応じて材料内部には材料にストレスをかける力が生じます。これを応力といいますが、変形量から応力への関数を漠然と想像して下さい。変形量が入力で応力が関数の出力です。全ての物理現象には、暗黙の前提が潜んでいます。

 

  ・微小な入力に対しては、出力は微小入力に比例する。

 

 これが微分可能という事の本当の意味です(個人的見解では(^^;))。全ての物理現象は微分可能なんです。

 微分可能であれば当然連続です。全ての物理現象は連続でもあると思って、間違いないと思います。そうでない時には、必ず人為的な人間の手が加わっています。

 物理現象が微分可能であれば、どんな材料についてもフックの法則のタイプが、微小変形には成立するはずです。

 

  h1-002.png  (2)

 

 kは材料のバネ定数、uは材料の伸び(縮み)、Fはその時に材料に作用する力です。(2)の事を一般には材料構成則といい、(2)のタイプの材料構成則を扱う分野を、弾性学と言います。要するに弾性学とは、物体をバネの塊とみなす分野です。微小変形理論という用語は、弾性とは別の概念を表すために出来たものなのですが、実際上、微小変形理論と弾性学の成立範囲はほとんど重なります。

 

 

2.弾性係数,応力,歪み

 

 材料構成則があれば材料挙動がわかるので、ある材料でつくられた任意の物体の状態は、原理的には計算可能なはずです。ところがフックの法則(2)には大きな問題があります。じつは(2)は、材料構成則ではないのです。

 フックの法則はフックさんが、最も単純な構造部材として棒の伸び(縮み)をとりあげ定式化したものです。



zu-002.png




 図-3のような棒は、フックの法則が成り立つ図-2に示したバネの集まりであると。(2)が材料構成則であるなら、図-2に対しても図-3に対しても同じ(2)が成立する必要があります。何故なら材料構成則は、材質だけで決まらなければならないから。ここで直列バネと並列バネを思い出して下さい。

 図-3は、図-2のバネを長さがLになるようにm本連結し、断面積がAになるようにn本束ねたものだとみなせます。直列バネ,並列バネの関係より、このときバネ定数はk/mに変化します。まずバネ定数は材料定数ではなかったのです。材料定数は材質だけで決まるべきものですが、バネ定数は長さと断面積という物体寸法の影響を受けてます。これでは駄目です。これでは同じ材料、同じuFであったとしても、物体形状ごとに材料状態が違うので、物体ごとに違った材料構成則が必要になります。そんなの、材料構成則ではありません。

 フックに続いてヤングさんが現れます。ヤングさんは、自分では意識せずに人を小ばかにした態度をとってしまう、非常に腹立つタイプの天才だったらしいのですが、天才らしくコロンブスの卵に気づきます。

 m本直列に連結すればバネ定数は1/m倍になり、n本並列に束ねればn倍になるなら、「単位長さ,単位断面積のバネ」でバネ定数を定義すれば良いと。それを弾性係数といい、記号Eで表します。

 「単位長さ,単位断面積のバネ」の事をここでは「標準試験体」と呼んでおきます。長さLのバネは標準試験体をL本連結したものであり、断面積Aのバネは標準試験体をA本束ねたものですから、図-2が標準試験体でk=Eなら、図-3の棒のバネ定数は、

 

  h1-003.png  (3)

 

とすぐにわかります。図-3の棒に関するフックの法則は(2)より、



  h1-004.png  (4)

 

です。(4)をみると、長さLと断面積Aが明示されるので、物体寸法(物体形状)を後付けで考慮できる形になっており、Eは材質だけで決まる定数です。すなわちEは材料定数です。

 しかし欲しいのは材料構成則です。図-3の棒のフックの法則を(4)のように表しても、内容はなんら(2)と変わりません。AもLuFも、物体寸法の影響をモロ受けだからです。要するに欲しいのは「標準試験体」に関するフックの法則なんですよ。手掛かりは、長さや断面積がどうあろうとバネはバネ。それと、直列バネ/並列バネの結果です。

 バネはバネなので、標準試験体には(2)kをEとした形が成り立つはずです。直列バネの結果より、標準試験体の伸びは長さLのバネの伸びの1/Lです。並列バネの結果より、標準試験体が分担する力は断面積Aのバネに作用する力の1/Aです。よって、(4)から簡単に誘導できる次の形が重要なのだと気づきます。

 

  h1-005.png  (5)


 (5)(2)kをEに変えた形をしています。u/Lは長さLのバネの伸びを長さに応じて修正した、標準試験体の伸びです。F/Aは断面積Aのバネへの作用力を断面積に応じて修正した、標準試験体の分担力です。これって図-3に示した、棒の中にある標準試験体の状態を表してるのは明らかですよね?。これらは材質だけで決まります。

 (5)が材質だけで決まる材料構成則である事を明示するために、u/Lεで表し歪みと呼びます。F/Aもσで表し応力と呼びます。(5)から物体寸法に関する表示を追放できました。



  h1-006.png  (6)


 (6)は、材料構成則である事を強調して特に応力-歪み関係と呼ばれます。歪みεの単位は、それが単位長さ当たりの伸びなので、[ε]m/m1、すなわち無単位です。応力σは単位断面積当たりの力なので、単位は[σ]N/m2となり圧力といっしょです。よって弾性係数Eの単位も、[]N/m2になります。

 (6)は図-3のような理想化された一様引張(圧縮)のモデルで得られたものです。現実の材料では一様な状態ではなく、場所ごとにεσは違うでしょう。しかしEが材料定数であるために、歪みは変形勾配として、応力は力の密度として扱えば良いことになります。これらは物体形状とは無関係に定義可能な量です。

 

 ちなみにコロンブスの卵に気づいたヤングさんを記念して、弾性係数をヤング率とも呼びます。弾性係数は、単位長さ,単位断面積当たりのバネ定数なので、まさに「率」なんですよ(^^)。応力と歪みを最初に実質的に導入したのもヤングさんです。

 

3.構造力学

 

 構造力学は設計計算の実用理論です。主に設計計算を手計算で行う際に広く用いられます。構造力学の手順は以下です。

 

  1) 荷重情報を用い、全体系の釣り合い条件から支点反力を算定する。

  2) 荷重情報と算出した支点反力を用い、部分系の釣り合い条件から断面力を算定する。

  3) 算出した断面力から断面に作用する断面応力を算定する。

  4) 算出した断面応力を材料強度と比較する。

 

 材料強度を測定するのが、いわゆる標準試験体に対する材料試験です。強度はもちろん応力で表されます(材質のみで決まるから)。ただ材料強度は設計基準といった人為的な「決め」の側面も大きいので、ここでは省略します。もちろん構造力学はこれだけではありませんが、最も多用されるのは、1)2)3)4)です。

 

 全体系の例は、図-4です。

 


 図-4は、両端に支点を持つ橋長Lの橋の模式図です。荷重P1P3は、例えば橋を走行する車両重量で設計条件として与えられます。本当はこれに橋の自重が加わるのですが、面倒くさいので省略します(^^;)。橋の自重も、橋梁形式やコンクリート橋だとか鋼橋だとかは事前に決まっているのが普通なので、設計条件の一部です。R1R2は支点反力と呼ばれ、荷重を支えるために支点で発生した力ですが、これらは未知数です。支点反力を算定するために、全体系の釣り合い条件を使います。

 なぜ支点反力を算定するかというと、物体(橋)に作用する力を全て決定できなければ、内部の応力状態なんてわかりっこないからです。なぜ釣り合いかというと、構造物は静止してるからです。うろうろ歩く橋なんて見た事ないですよね?。間違ってそうなってたら、危険で近寄る事すらできません(^^;)

 作用力の合力が0と、回転力の合力が0となる条件は、明らかに以下です。

 

  h1-007.png  (7)

 

 ただし鉛直上向きの力を正とし、回転力は左回りを正として左端の支点を回転中心としました。静止物体で回転力の釣り合いを考える際には、回転中心はどこにとっても良いので計算に便利なように選べます。また(7)下段の[]×[回転中心からの距離]という量が、回転力だというのはご存じと思います。機械系ではトルクと言われますが、旧態然とした土木では「力のモーメント」と呼ばれます。L1L2L3は荷重P1P3の載荷位置で、左端から測った距離であり、これらも設計条件の一部です。(7)を連立方程式として解けば、

 

  h1-008.png  


が得られ、支点反力が算定されます。以後、支点反力は算定されたものとして、R1R2を直接使用します。

 

 断面力を算定します。そのために左端から距離xで構造を2つに分割して考え、部分系の釣り合いをとります。全体系が静止してる以上、部分系も当然静止してなけりゃいけません。

 



 位置xの断面には、断面力M(x),S(x),N(x)が作用している必要があります(図-5左側)。もしこれらがないとします。支点反力R1R2とともに、鉛直荷重の合力P1P2P3を分担して負担してるので、P1R1でしょう。そうすると図-5の左部分系の右端(位置x)には支点がないので、断面xでその差を埋めるようにS(x)が働かなければ、左部分系は力が釣り合わず静止できません。

 回転力M(x)も同様です。さっきと同じ理由でM(x)がなければP1の作用により、左部分系は左端の支点を回転中心として右回りに回転するはずですが、静止する必要があります。回転しないように回転力M(x)が働きます。断面に回転力が働くというのには、違和感を持つ人もいると思いますが、物体の釣り合い条件からの論理的な帰結です。なぜなら他に、回転力を働かせる場所がないからです。

 N(x)については全体系に水平荷重は働いていないので、N(x)0です。ただし一般的にはN(x)も無視できません。

 M(x),S(x),N(x)を、曲げモーメント,せんだん力,軸力と言います。力のモーメントであるM(x)に、なぜ「曲げ」という冠がつくかは後でわかります。これらの力の由来は、もちろん図-5の右部分系です。左部分系は右部分系に支えられている訳です。一方右部分系には、左部分系と逆向きの大きさの等しい断面力が作用します。作用・反作用の法則です。つまり左部分系と右部分系は互いに支えあっています。これらの事実は、断面力が物体内部の内力であり、作用・反作用の法則は内力の伝達を表している事を示します。

 

 やる事はいっしょです。左部分系の釣り合い条件は、

 

 

  h1-009.png   (8)

  h1-010.png

 

と、位置xでの断面力が得られます。いまxP1P2の中間にとっていますが、xP2P3の中間にとったとすると、(8)P2の効果も含めて同じことをするだけです。支点反力さえ算定できれば、任意の位置xでの断面力を算出できるのは明らかと思います。以後、断面力は算定されたものとし、M,S,Nを直接使用します。

 

(執筆:ddt³さん)


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