上限と下限 (復習) [複素解析]
上限と下限
「整級数(べき級数)をやったので、関数列の一様収束を説明し、一気に・・・」とも考えたのですが、さすがにそれは飛ばし過ぎだろう、乱暴だろうということで、関数列の一様収束を説明する前に、復習をかねて、あらためて上限と下限について説明しますにゃ。
例えば、次のような有限な集合Aがあるとしますにゃ。
A={1, 2, 3}
このような、集合の要素が有限個の集合、つまり、有限集合ならば、最大値(最大数)、最小値(最小数)がかならず存在するにゃ。この集合Mの場合、最大値は3で、最小値は1。このことをmax A=3、min A=1といった記号であらわす。
A={1, 2, 3}なので、max {1,2,3}=3、min {1,2,3}=1と書いてもよい。
集合の要素が無限個の場合、たとえば、
A={x∈R|0≦x≦1} (斜体の太字Rは実数)
のような集合ならば、最大値や最小値が存在する。max A = 1、min A = 0だにゃ。
だけど、
A={x∈R|0<x<1}
には、最大値、最小値は存在しない。
最大値αの定義は、すべてのx∈Aに対してx≦α、かつ、α∈A。
もし、最大値αが存在するとすると、α∈Aなので、0<α<1でなければならない。
そうすると、
となる。
αが集合Aの最大値ならば、(α+1)/2≦αだから、これはαが集合Aの最大値であることと矛盾する。
よって、最大値は存在しない。
集合の要素の数が無限になると、最大値、最小値があるとは限らないよ。
と、前振りをしたところで、いよいよ本題の上限と下限の話。
上限と下限
上界・下界 AをRの空でない部分集合とする。
α∈Rが、すべてのx∈Aに対して、α≦xであるとき、αをAの下界(かかい)という。
Aの上界(下界)が存在するとき、Aは上に有界(下に有界)であるという。Aが上に有界かつ下に有界であるとき、Aは有界であるという。上限・下限 Aが上に有界(下に有界)、Aの上界(下界)全体の集合Bには最大数(最小数)が存在する(実数の連続性)。Aの上界の最小数をAの上限といい、
とあらわす。
Aの下界の最大数をAの下限といい、
とあらわす。
Aが上に有界でない(下に有界でない)とき、sup A = ∞(infA = −∞)とあらわす。
実数の空でない部分集合Aが上に有界(下に有界)ならば、Aの上界(下界)全体の集合Bには最大数(最小数)が存在する(実数の連続性)。
これは数学の公理であって、証明できないにゃ。
そして、ねこ騙し数学の微分積分などは、この上限・下限についての公理を暗黙のうちに認めて話を進めてきたにゃ。
で、これを難しい数学語で書くと、次のようになるにゃ。
sup A=αであるための必要十分な条件は、次の(ⅰ)(ⅱ)が成り立つことである。
(ⅰ)すべてのx∈A、x≦α
(ⅱ)すべてのε>0に対してα–ε<xを満たすx∈Aが存在する。
Inf A=βであるための必要十分な条件は、次の(ⅰ)(ⅱ)が成り立つことである。
(ⅰ)すべてのx∈A、β≦x
(ⅱ)すべてのε>0に対してβ+ε>xを満たすx∈Aが存在する。
なお、
sup A=αの(ⅰ)はαが集合Aの上界であることを意味し、(ⅱ)はαが上界の最小数であることをあらわしている。
inf A=βの(ⅰ)はβが集合Aの下界であることを意味し、(ⅱ)はその最大数であることをあらわしている。
例えば、先にあげた実数Rの部分集合A
A={x∈R|0<x<1}
の場合、sup A = 1、inf A = 0になるのだけれど、(ⅰ)の条件だけでは駄目なんだにゃ。
例えば、α=2とすると、すべてのx∈Aに対して,x<1<α=2が成り立つにゃ。だから、2は集合Aの上界の一つではあるけれど、最小数ではないケロ。よって、2はAの上限ではない。
となり、この条件を満たすx∈Aが存在する。だから、この(ⅰ)と(ⅱ)の2個の条件が必要となる。
では、
A={x∈R|0<x<1}
の上限αが1であることの証明。
α<1でないことは明らかだから、α>1とするにゃ。正数εにはどんな正の数を選んでもいいので、ε=(α–1)/2とするケロ。そうすると、
となるので、
を満たすxは集合Aに存在しない。
だから、集合Aの上限α=1でなければならない。
0が下限であることの証明は、次のようにやればいいにゃ。β>0でないことは明らかなので、β<0とする。で、ε=−β/2(βは負の数なので−1をかけると正の数になる)とすると、
こんなxはAに存在しないにゃ。だから、下限βは0でなければならないにゃ。
でも、この集合Aの上限が1であり、下限が0であるこであることは明らかなので、こんな面倒くさい議論をする必要はないにゃ。
ちなみに、集合Aに最大数があればそれが上限になるし、最小数があれば下限になる。
では、ちょっとだけ発展問題を。
問題 次の集合の上限と下限を求めよ。
【解(?)】
この集合の上限、下限を記号で書けば、
とかになるんだろうけれど、そんなことはどうでもいいや。
となるから、sup A = 2なのは明らか。
そして、この・・・の部分は限りなく1に近づくので、inf A=1だにゃ。
inf A=1の証明ですかい。
は明らかでしょう。つまり、条件(ⅰ)はクリアーする。
で、どんな正数εをとっても、
となるnは存在するにゃ。存在しないとすると、自然数Nには上に有界になってしまう!!(※)
であるからして、
となるが存在するにゃ。
(※)
「どんな正数εをとっても、
となるnは存在がする」の否定は、ある正数εがあって、すべてのn∈Nに対して
となり、自然数は上に有界になってしまう。
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