第4回 過剰和と不足和、ダルブーの定理 [定積分]
第4回 過剰和と不足和、ダルブーの定理
リーマン和はに基づき定積分を定義する場合、有界閉区間I=[a,b]のすべての分割
の任意のについて
が、|Δ|→0のときに1つの値に収束することを示さないといけない。これは大変なので、あらたに次の不足和、過剰和を定義することにする。
fを有界閉区間[a,b]で定義された有界関数とする。[a,b]の分割、とおく。分割Δに対してとおくとき、
を、それぞれ、f(x)のΔに関する不足和、過剰和という。
だから
であり、したがって
が成立する。
Iの分割にあらたな分点cを1つ追加した分割をΔ'とすると、このとき、となる区間が存在する。
分割の分割点を増やすと、過剰和は減少する。つまり、特に
である。
同様に、不足和は、分割の分割点を増やすと、増加する。つまり
で、特に
である。
ΔとΔ’を合せて得られる分割をΔ’’とすると、
よって、s(Δ)は上に有界、S(Δ)は下に有界である。
ここで、あらたに上積分、下積分を定義する。
定義
関数fが有界閉区間I=[a,b]で有界であるとする。過剰和S(Δ)について、すべての分割に関する下限
をf(x)のI上の上積分という。
不足和s(Δ)について、すべての分割に関する上限
をf(x)のI上の下積分という。
任意のΔ、Δ’について
が成り立つから、
である。
定理4 (ダルブーの定理)
有界閉区間I=[a,b]上の有界な関数f(x)に対して、f(x)の不足和s(Δ)、過剰和S(Δ)は|Δ|→0で収束して、である。
【証明】を証明する。
だから任意の正数ε>0に対して
となる分割Δ₀が存在する。分割Δ₀の分点の数をnとする。
f(x)はI=[a,b]で有界だから
とおく。
分割Δの小区間に対してとなる分点を1つ加えた分割をΔ₁とすると、
より
である。
分割Δと分割Δ₀を合わせた分割をΔ’とすると、分割Δに高々n個の分点が追加されるだけだから、そこで、
とおくと、|Δ|<δとなるIの分割に対して、
また、
より、
したがって、
が成り立つ。
についても同様。
(証明終)第3回 定積分の性質1 [定積分]
第3回 定積分の性質1
リーマン和をもとに(定)積分を定義すると、高校で習った定積分の次の定理を証明することができる。
定理1
f(x)、g(x)が有界閉区間[a,b]で積分可能、λ、μが定数であるとき、λf(x)+μg(x)は[a,b]上で積分可能で、である。
【証明】分割とを任意にとると、リーマン和は
となり、λf(x)+μg(x)は[a,b]上で積分可能で、
である。
(証明終了)
定理2
f(x)、g(x)は有界閉区間[a,b]で積分可能であるとする。このとき、ならば、
である。
【証明】
分割とを任意にとると、仮定より
であるから、
f(x)、g(x)は[a,b]上で積分可能だから、|Δ|→0のとき
(証明終)
関数f、gが有界閉区間[a,b]上で連続であるとき、f=g、つまり、x∈[a,b]のすべてのxについてf(x)=g(x)でなく、
であるとき、
になるけれど、単に積分可能であるときは、等号は外せないことに注意。
たとえば、[0,1]で定義されたf(x)=0と
の積分を考えればよい。
このとき、f≠gで、f(x)≦g(x)という条件を満たしているが、
前回の問題2で示したように、gは[0,1]で積分可能でその値は
だから、
である。
また、fは[a,b]上で積分可能で、x∈[a,b]のすべてのxについてf(x)≧0のとき、
ならば、x∈[a,b]でf(x)=0も言えない。
定理3
有界な関数f、gが有界閉区間[a,b]の有限個の点を除き、f(x)=g(x)であるとする。このとき、fが[a,b]上で積分可能ならば、gも[a,b]上で積分可能で、が成り立つ。
【証明】
x=dを除いてf(x)=g(x)である関数g(x)を考え、とすると、φ(x)は[a,b]上で積分可能で、
したがって、定理1より
も[a,b]上で積分可能で、
になる。
次に、を除いてf(x)=g(x)である関数g(x)を考える。
とおき、
とおくと、は[a,b]上で積分可能で、
である。
とおくと、
(証明終)
定理3より、たとえば、[0,3]で定義される
という関数f(x)は[0,3]で積分可能であり
である。
定積分の第2回のおまけの補足 [定積分]
定積分の第2回のおまけの補足
「定積分の第2回のおまけ」の一様連続で取り上げて不等式
を平均値の定理を用いて導出することにする。
平均値の定理
f(x)が[a,b]で連続、(a,b)で微分可能のとき、が成立するcが少なくとも1つ存在する。
この平均値の定理を用いると、上記の2つの不等式は次のように証明される。
x₂>x₁とすると、f(x)=sinxは[x₁,x₂]で連続、(x₁,x₂)で微分可能だから、平均値の定理より
となるcが存在する。f'(x)=cosxだから、
x₁>x₂のときは、⑨のx₁、x₂を入れ替えて
x₁=x₂のとき、sinx₁=sinx₂だから、
となり、不等式は成立する。
よって、
もう一つの不等式の証明は、
0≦x₁<x₂≦1のとき、f(x)=x²は[x₁,x₂]で連続、(x₁,x₂)で微分可能だから、平均値の定理よりであるcが存在する。
f'(x)=2xだから、
0≦x₂<x₁≦1のときは、上の不等式のx₁とx₂を入れ替えて
x₁=x₂のときは
以上のことより、
この不等式は、次のようにさらに一般化できる。
f(x)が[a,b]で連続、(a,b)で微分可能で、
である定数Mが存在するとき、
何故ならば、
x₁≠x₂のとき、平均値の定理から
x₁=x₂のときは
したがって、
だから。
そして、このとき、任意のε>0に対して、
とおくと、
となるので、f(x)は[a,b]上で一様連続である!!
今は[a,b]と有界な閉区間、そして、f(x)が(a,b)で微分可能なものに対して証明したけれど、関数の定義域を実数Rに拡張し、
ある正の定数が存在しであるならば、f(x)は実数Rで一様連続である
ということになる。
(1)式が成り立つたつとき、リプシッツ連続といい、定数Mをリプシッツ定数という。定積分の第2回のおまけ [定積分]
定積分の第2回のおまけ
問題 b>aのとき、定積分の定義にしたがって
であることを示せ。
【解】有界閉区間I=[a,b]、Iの任意の分割をとし、
に対して・において平均値の定理を適用すると
このを選んで、リーマン和を求めると
次に、任意のをとり
はI上で単調増加で、かつ、だから
また、だから、
(解答終了)
上記の解答では
はI上で単調増加で、かつ、だから
と関数f(x)の単調増加性を使っているが、f(x)の一様連続性を用いた証明も可能だろう。
f(x)は有界閉区間I上で連続だからI上で一様連続である
つまり、任意の正数εとである任意のx₁とx₂について
であるδ>0が存在する。
そこで、|Δ|<δである任意の分割Δについて考えると、f(x)はI上で一様連続だから、任意のε>0に対して
したがって、である任意のについて
一様連続
fを区間Iで定義された関数とする。任意の正数ε>0に対してが成立する正数δ>0が存在するとき、fはIで一様連続であるという。
たとえば、実数Rで定義されたf(x)=sin xという関数について考えると、
したがって、δ=ε>0とすると
が成立し、f(x)=sin xは実数Rで一様連続ということになる。
例 有界閉区間I=[0,1]で定義された関数f(x)=x²はIで一様連続。しかし、I=[0,∞)で定義された関数g(x)=x²はIで一様連続ではない。
f(x)が一様連続であることは、次のように示せばよい。任意の正数εに対して
となるので、δ=ε/2とすれば、
g(x)が[0,∞)で一様連続でないことは、たとえば、次のように示せばよい。
のようにx₁とx₂をとると、
また、
だから、正数δをどんなに小さくとっても
で、2より小さくならない。
よって、g(x)は一様連続ではない。
一様連続の定義は
だから、一様連続でないことの定義は、上の否定をとり
これを人間の言葉に訳すと
「ある正数ε>0と、あるx₁,x₂∈Iがあって、どんなにδ>0を小さくしても、である。
定理
fが有界閉区間Iで連続ならば、fはIで一様連続である。上の定理の証明にはハイネ・ボレルの被覆定理などを必要とするので、ここでは証明はしない。
例2
は、(0,1]で一様連続でない。
とすると、x₁∈(0,1]、x₂∈[0,1]。
しかし、
だから、
にならない。
つまり、f(x)=1/xは有界な半閉区間(0,1]で一様連続でない。
上の定理で、有界な閉区間という条件が重要であることがわかってもらえたのではないか。
第2回 定積分の定義に基づいた計算例 [定積分]
第2回 定積分の定義に基づいた計算例
定積分(リーマン積分)の定義を最初に示す。
(リーマン)積分の定義
関数f(x)は有界閉区間[a,b]で有界とする。任意の分割Δとそのそれぞれのの任意のに対して
であるとき、関数f(x)は[a,b]で積分可能といい、
とあらわす。
なお、ここでいう分割とは
のことで、以降
と略記することにする。
問1 定数関数f(x)=cは、任意の有界閉区間[a,b]で積分可能で
であることを示せ。
【解】
分割とを任意にとると
となり、分割やのとり方にかかわらない定数である。
したがって、となり、f(x)は[a,b]で積分可能で、
である。
(解答終)
問2(ジャンプする関数)
関数f(x)を[a,b]で定義された関数、さらに、c>0で、a<d<bとする。このとき、
は[a,b]上で積分可能で
であることを示せ。
【解】
分割とを任意にとると
中のが0でないのは、最も多くて、でのときに、とした場合。
したがって、|Δ|→0のとき2c|Δ|→0だから、ハサミ打ちの定理より
となり、[a,b]でf(x)は積分可能で、
である。
(解答終了)
前回、x∈[0,1]で定義される次の関数
が(リーマン)積分可能でないことを示したが、問2のように不連続な関数であっても積分可能な場合がある。
問3 0≧a<bとする。このとき、[a,b]上の関数f(x)=x²は[a,b]で積分可能で、
となることを示せ。
【解】
分割とを任意にとると
[a,b]で定義された関数g(x)=x²/3とすると、g(x)はで連続、で微分可能だから、平均値の定理より
となる、が存在する。
このという特別な点を選び、このリーマン和を求めると
となる。
f(x)=x²はで単調増加だから
また、だから、
で、|Δ|→0のとき(b²−a²)|Δ|→0だから、
となり、 f(x)=x²は[a,b]で積分可能、そして、
である。
(解答終)
第1回 定積分(リーマン積分)の定義 [定積分]
第1回 定積分(リーマン積分)の定義
リーマン和の定義
有界閉区間[a,b]の分割
に対し、を選んで
をリーマン和と呼び、
を分割の幅という。
(リーマン)積分の定義
関数f(x)は有界閉区間[a,b]で有界とする。任意の分割Δとそのそれぞれののなかの任意のに対して
であるとき、関数f(x)は[a,b]で積分可能といい、
とあらわす。
たとえば、閉区間[0,1]で定義される関数f(x)=xがあるとする。[0,1]を次のように
をn等分し、その小区間の
をとると、このリーマン和は
となり、
である。
しかし、このことをもって、
としてはいけない。
この結果は、確かに、
と一致する。
しかし、①は[0,1]をn等分するという特定の分割のものであって、さらにその特定の
という点をとったリーマン和に過ぎず、分割によって、また、のとり方によって値が変わってくるかもしれないからだ。
そこで、次の問題。
問題 x∈[0,1]で定義される次の関数
が(リーマン)積分可能でないことを示せ。
【解】
[0,1]をn等分、すなわち、と分割する。
そして、をとると、これは有理数だから、
内の無理数ををとると
よって、積分可能でない。
(解答終)
高校の数学では、定積分を区分求積法
で定義したが、この定積分の定義を問題1に用いると、
と、積分可能になってしまう(^^)
この積分の定義⑨のままでは都合が悪いことがわかってもらえたと思う。
さてさて、
の証明。
f(x)=x、[0,1]の分割を
とする。
の中点をに選ぶと、
また、すべての分割Δのそれぞれのの任意のに対して
したがって、
である。
高校数学の定積分 [定積分]
高校数学の定積分
高校数学の定積分の定義は、以下のようなものである。
関数f(x)は有界閉区間[a,b]において連続で、[a,b]を
とn等分とし、
とおくと、
例えば、[0,1]で定義されたf(x)=x²の定積分
は、定義(1)にしたがって次のように求めることができる。
(1)を使うと、次のような問題を解くことができる。
問題1 次の極限値を求めよ。
【解】
(1)[0,1]をn等分し、
とし、
とおくと、
(別解)
[1,2]をn等分しとし、
とおけば、
(2)
[1,0]をn等分し
とし、
とおくと、
(別解)
[1,2]をn等分しとし、
とおけば、
(解答終了)
(3)
[0,1]をn等分し、
とし、
とおけば、
ここで、
とおくt、x=0のときt=1、x=1のときt=2、dx=dtだから
(解答終了)
問題2 f(x)=x⁴のとき、次の極限を求めよ。
を真面目に計算しろというのでしょうが、そんな面倒なことはやってられないケロ(^^ゞ
【解】
[0,1]をn等分しとし、
という区間を考えると、を
となるので、は点を1:2に内分する点で、また、f(x)=x⁴は[0,1]で単調増加。
したがって、また、
さらに、
となるから、はを2:1に内分する点。したがって、
となり、同様に
よって、
(解答終了)
(1)は、
のやとしたものだが、問題2はのとり方によらず積分の値は一定で
になるということを主張しているのであった。
関数の振幅 [定積分]
関数の振幅
定義
有界閉区間I=[a,b]上の有界な関数f(x)に対して
区間I上の関数f(x)がある実数Mがあり、すべてのx∈Iに対して
であるとき、関数f(x)は有界であるという。
論理記号で書くと、
ちなみに、有界でない関数は、(2)の否定をとると、
となるので、任意の実数Mに対して、
となるx∈Iが存在する関数のことである。
有界な関数の例としては、たとえば、I=[0、1]で定義されたf(x)=x²。このとき、0≦f(x)≦1だから有界である。
一方、有界でない関数の例としては、たとえば、I=(0,1]で定義されたf(x)=1/x。この関数の値域は1≦f(x)<∞だから、有界ではない。現に、どのような実数M≧1を与えても
となるので、この有界でないことを定義にそって証明することができる。
例1 I=[0,1]、f(x)=x²とすると、
だから、f(x)のI上の振幅ω(f,I)は
例2 I=[−π,π]、f(x)=sin とすると。
例3 I=[−1,1]、
とすると、
−1≦x<0のとき
x=0のときf(x)=0
0≦x≦1のとき
上限と下限の問題 Part2 [定積分]
上限と下限の問題 Part2
問題1
とするとき、sup A、inf A、max A、min Aを求めよ。
【解】
nのときの集合Aの要素をとおく。
nが偶数、n=2k(k=1,2,…)のとき
は単調増加列で
nが奇数、n=2k−1(k=1,2,…)のとき
は単調減少列で
したがって、sup A = 1/2、inf A = −1/2、max AとminAは存在しない。
(解答終了)
問題2 数列に関して次のことを証明せよ。
【解】
(1) すべてのn∈Nに対して
したがって、は数列の上界。
よって、
(2) すべてのn∈Nに対して
よって、は数列の下界。
したがって、(解答終)
等号が成立しない例として、一般項が
である数列があげられる。
このとき、だから、
一方、
この場合、
である。
(解答終)
問題3
A、Bを実数Rの空でなく有界な部分集合としてとおく。次を証明せよ。
sup C = sup A + sup B
【解】sup A=α、sup =βとおく。
任意のx∈Aに対してx≦α、任意のy∈Bに対してy≦β。したがって、任意のx+y∈Cに対して、
よって、α+βは集合Cの上界
また、αはAの上限だから任意の正数ε>0に対して
となるx∈Aが存在する。
βはBの上限だから任意の正数ε>0に対して
となるy∈Bが存在する。
よって、任意の正数ε>0に対して
となるx+y∈Cが存在し、α+βはCの最小の上界。
よって、
sup C = sup A + sup Bである。
(解答終)上限・下限の問題 [定積分]
上限・下限の問題
問題を解く前に、最大数、最小数の定義を与える。
最大数・最小数の定義
Aを空でない実数Rの集合とする。α∈Rが、α∈AかつAの上界であるとき、αをAの最大数といい、max Aであらわす。
β∈Rが、β∈AかつAの下界であるとき、βをAの最小数といい、min Aであらわす。問題1
とする。sup A、inf A、min A、max Aを求めよ。
【解】
sup A = 1、inf A=−1、max A = 1。min Aは存在しない。
(解答終了)
問題2
Aを空でない実数Rの集合とする。max A(min A)が存在するための必要十分条件は、Aが上に有界(下に有界)であって、かつsup A∈A(inf A∈A)であることをを示せ。
【解】max A=αとする。αはAの上界だから任意のx∈Aに対してx≦αで、任意の正数ε>0に対してα−ε<α∈A。したがって、α=sup Aで、sup A∈Aである。
β=sup Aとすると、任意のx∈Aに対してx≦βでβ∈Aだから、β=max Aである。
min A=αとする。αはAの下界だから任意のx∈Aに対してx≦αで、任意の正数ε>0に対してα+ε>α∈A。したがって、α=inf Aで、inf A∈Aである。
(解答終了)
問題3 次の集合の上限と下限を求めよ。
【解】
だから、t=π/nとおくと
n=1のときt=π、n→∞のときt→0。
t∈(0,π]として、
とおくと、f(t)のグラフは右図になり、単調減少となる。
したがって、f(t)の上限は
下限(最小数)は
以上のことより、sup A =π、inf A = 0である。
(解答終了)
問題4 空でない実数Rの部分集合Aに対して
とおく。
このとき、
を証明せよ。
ただし、−(−∞)=∞、−(∞)=−∞とする。
【証明】−Aが上に有界であるとする。
α=sup (−A)とおくと、すべての−x∈−Aに対してα≧−x。したがって、すべてのx∈Aに対してx≧−αとなり、−sup(−A)=−αはAの下界になる。inf AはAの下界の最大数だから、inf A=βとすると、すべてのx∈Aに対してx≧β。したがって、すべての−x∈−Aに対して−x≦−βとなり、−inf A=−βは−Aの上界である。sup (−A)は−Aの上界の最小数だから、
(1)と(2)から、
−Aが上に有界でないとすると、Aは下に有界でない。
すなわち、sup (-A)=∞、inf A=−∞。よって、
である、
−(−A)=Aだから、(3)より
(解答終了)