物理的な微分方程式の大学入試問題 [高校の微分積分]
物理的な微分方程式の大学入試問題
ねこ騙し数学では、物理学の力学の話題で盛り上がっているので、大昔の大学入試で出題された、微分方程式の力学的な問題を紹介することにする。
問題 x軸上を運動している点があって、時刻tにおける店の座標zが
(1) 運動の速度をとすると、v²+ω²x²は一定であることを示せ。
(2) 微分方程式①の解をx=f(t)とするとき、f(0)=a、f'(0)=bとなるような関数f(t)があるとすれば、それはただ1つであることを示せ。
(3) 任意の実数A、Bに対して
が①の解となるように、定数kの値を定めよ。また、それを利用して、f(0)=a、f'(0)=bとなるような運動の式x=f(t)を定めよ。
【解答例】
(1)
これを①式に代入すると、
よって、v²+ω²x²は一定である。
(2) x₁=f₁(t)、x₂=f₂(t)を①の解とすると、
となるので、も微分方程式①の解となり、
(1)より、x²+ω²x²は一定だから、
f(t)=f₁(t)−f₂(t)=0だから、f₁(t)=f₂(t)となり、解は1つである。
(3) とすると、
だから、k=ωとすれば、
を満足する。
そこで、とおくと、
問題の条件より、だから、
よって、ω≠0のとき
ω=0のとき、微分方程式①は
となり、f(0)=a、f'(0)=bとなるようにC₁、C₂を定めると、C₁=b、C₂=a。
よって、
(解答終)
この問題の(1)は、物理では次のように解くのが主流派。
【(1)の別解】
運動方程式
の両辺にvをかけると、
(別解終)
運動方程式の両辺に速度vをかけて、その積分を求める操作を、物理のほうではエネルギー積分と呼んだりする。
――数学的にいうと、は、運動方程式①の積分因子――
そして、(1)は、(力学的)エネルギー保存則を表している。
というのは、⑨の両辺にm/2(mは質点の質量)をかけると、
となるからだにゃ。
上の式の第1項のは運動エネルギー、第2項のは(1次元の)調和振動子の位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)を表していて、上の式は運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和は一定、時刻tによらず不変であること、つまり、(力学的)エネルギーが保存されることを表している。
そして、(2)は、エネルギー保存則を用いて、微分方程式①の初期値問題の解が1つに定まることを示している。
この大学入試問題は、範囲逸脱の感が強くて、大学入試問題としてはどうかという気がするけれど、奥深い内容を含んだ問題である。
また、バネ定数kのバネに質量mの物体がつけられ、単振動するとき、運動方程式は
となるので、
この方程式と①を比較することにより、
であることがわかる。このωを角速度、角振動数という。
問題の(3)より、初期条件x(0)=a、x'(0)=bを満たす解は
であり、これは2π/ωを周期にもつ周期関数。
したがって、微分方程式②の解、すなわち、バネ定数kのバネの単振動(ばね振り子)の周期Tは
であることがわかる。
力学的エネルギーの保存則を用いて、振り子の運動方程式を導くことにする。
右図に示すような、長さlのひもの先に質量mのおもりを付けた単振り子があるとする。
このとき、点Oを基準にした質量mのおもりの位置エネルギーは、
になる。
ここで、gは重力加速度。
そして、振り子のおもりの速度をvとすると、
なので、振り子のおもりの運動エネルギーは
となり、力学的なエネルギーの総和Eは
になる。
(力学的)エネルギー保存則より、Eは一定なので、これを時刻tで微分すると、
したがって、
dθ/dtは恒等的に0ではないので、
でなければならない。
そして、(1)式は、この振り子の運動を表す運動方程式になる。
(1)の両辺をml²で割ると、
|θ|が1に比べて小さいとき、
と近似できるので、(2)式は
となる。
さらに、
とおくと、
よって、この微分方程式の一般解は
であり、初期条件
を満たす解は、
ここで、v₀は点Oにおけるおもりの速さ。
そして、この振り子の周期Tは、
である。
位置エネルギーの計算、すなわち、
で重力mg(正確には−mg)を使っているので、(重)力をまったく使っていないわけではないけれど、エネルギー保存則を用いた運動方程式(1)の導出において、表面的には(重)力の出番はない。
それどころか、位置エネルギーはポテンシャル(エネルギー)なので、(6)を根拠に、ポテンシャルから
と重力−mgを導き出すこともできる。
――重力から重力ポテンシャルが生まれるのか、重力ポテンシャルから重力が生まれるのかは、「ニワトリが先か、卵が先か」と同じ、不毛で無意味な議論!!――
少なくとも、この単振り子の運動は、力なんてよくわからないもの、野暮で無粋なものを駆逐し、エネルギーという概念だけを用いてすべて語ることができる。
エネルギーはスカラー、つまり、大きさだけを持ち、方向を持たない量だから、座標変換しても値は変わらないし、エネルギーは方向を持っていないから、そもそも座標変換によって方向が変わることもない。そして、このことは、運動方程式の書き換えや導出において、とんでもない強みになるのであった。
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