冪(べき)集合って何だ? [数学基礎]
冪(べき)集合って何だ?
最近、ネムネコはよく「冪(べき)集合」という数学用語をよく使用している。
理工系の学生で、集合論や位相(トポロジー)を習ったヒトは、冪集合という言葉、そして、その意味を知っていると思うけれど、集合論なんて「我々の研究分野では集合論なんてまったく使わない。そんな机上の空論を教える時間余裕があるのならば、もっと役に立つ、研究に使える、実用的な数学を教えろ」との学生、数学科を除く理工系の先生たちの熱い要望を受け、集合論をまったく教えない大学も多数あるので、理工系の学生、理工系の学部を卒業したヒトの中でも冪集合という言葉を初めて聞いたヒトも少なくないのではないかと思う。
たしかに、(多変数の)微分積分、複素関数の微分積分、線形代数、ベクトル解析、微分方程式(の解き方)、そして、数値計算という枠内で考えるならば、数学の集合論なんて不要だ。
実数全体の集合の要素の個数(アレフと読む)は、有理数全体の集合要素の要素の数よりずっと多い。
こんなことは我々の知ったことじゃない。
我々は∞(無限大)だけあれば十分だ。
もっともな主張である。物理や工学の圧倒的大多数の分野で⑨の公式なんて使うことはない。
実数全体の集合の要素の個数と有理数全体の集合の要素の個数は等しく∞個であるとしても、実際、困ることはほとんどないと言っていいだろう。
だって、カントールが無限集合なんて唱える以前は、誰もが、無限は一種類であるとが信じ疑わなかった――無限はキリスト教の神を象徴するものであり、唯一でなければならない――。様々な学問がこの考えに従って展開された。限りなく0に近い微小、無限大を扱う微分積分にしたって同様。そして、これで誰も困らなかったのだ。
それはそれとしまして、冪集合なるものをやる前に、集合のおさらい。
いま、かりに、AとBという2つの集合があるとする。
集合Bのすべての要素bが集合Aの要素であるとき、
すなわち、
であるとき、BはAの部分集合であるといい、記号、
で表す。
である。
(2)式は、集合の相等の定義と考えてもいい。
ところで、
a∈A⇒a∈Aは成り立つので、AはAの部分集合。
したがって、
変な話に思えるだろうけれど、部分集合の定義から(3)になる(^^ゞ
そして、ここ謎にして不可思議な空集合∅というものが登場する。
空集合∅とは、要素をもたない集合のことで、
のことだ。
書きよう、表しようがないから(4)でお茶を濁す。
そして、Aが集合であるとき
と定義する。
(5)は定義、約束、取り決めだから、「何でこうなるのだ」と疑問に思ってはいけない。
まして、(5)が成立することの証明をネムネコに求めてはいけない。
さてさて、本題の冪集合である。
Aを集合とする。
そして、かりに、
とすると、Aの部分集合は
の8種類。
また、Aを有限集合(要素・元の個数が有限個である集合)、Aの要素の数をn個とすると、Aの部分集合の数は個である。
A={1,2,3}、つまり、Aの集合の個数が3個のとき、Aの部分集合の数は2³=8個になっているだろう。
{1,2,3}の中から0個要素を取り出す組み合わせの数は₃C₀=1通り、1個取り出す組み合わせの数は₃C₁=3通り、2個取り出す組み合わせの数は₃C₂=3通り、3個取り出す組み合わせの数は₃C₃=1通りだから、計8個。
同様に、集合Aの要素の数がn個の場合は、
である。
また、これは、集合
から
への写像の個数と考えることができる。
集合Aの各々の要素に0か1の2通りの場合があるので、写像の個数は
となる(補足)。
さてさて、本題の、冪集合。
Aを集合とする。Aの部分集合をすべて要素に持つ集合をAの冪集合(Power Set)といい、記号で表す。
Aの冪集合を表すという記号はどこから出てきたかというと、Aの集合の要素・元の数がn個であるとき、部分集合の数は個だったでしょう。そこからきているんだケロよ。
A={1, 2, 3}のときは、
となる。
「一々、{}を書くのは面倒だから省略しちゃえ」なんてことはしてはいけないケロよ。
そんなことをすると、集合の意味が変わってしまうから。
そして、
1∈Aだから、
や、
なんてことはしてはいけない。
Aはの要素・元であって、Aはの部分集合ではないからだ。
こんなことをすると、ネムネコから⑨未満と呼ばれるので要注意。
ただしくは、
だにゃ。
十分に気をつける。
なお、
もし、自然数全体の集合Nの冪集合の要素をすべて数え上げることができたなら、これが実数全体の集合の要素の個数と同じであることを確かめることができるはずである。
――どうやって、自然数全体の集合Nの冪集合の要素の数を数えるかという数学的な問題はある。仕方がないので、自然数の冪集合の要素と実数全体の集合の要素と1対1に対応させ、どちらも過不足なくすべてを1対1に対応させることができたら、同数と見なすしかないんだろうね〜――
そして、このことから、自然数、整数、有理数の個数よりも実数の個数の方がはるかに多いことを直接体感することができる(^^)
だって、
集合Aの冪集合の要素(Aの部分集合)の個数はAの個数よりも必ず大きい。(カントールの定理)
Aが有限集合で、Aの要素の個数がnのとき、Aの冪集合の要素の個数は個だから、かならず、集合Aよりその冪集合の要素の個数のほうが多い。
Aが無限集合のとき、これはそのまま適用できないけれど、無限集合のときも、
集合Aの冪集合の要素(Aの部分集合)の個数はAの個数より多い
が成り立つと考えることはごくごく自然なことだろう。
カントールの定理については、ddt³さんがなにか記事を投稿してくれると思うにゃ。
きっと、カントールの対角線論法についても話してくれると思うにゃ。みんな、楽しみにして待つにゃ。(^^ゞ
(補足)
写像の方は、読んでも、何が書かれているかわからないという確信があるので、少しだけ説明。
A={1,2,3}、B={0,1}とし、AからBへの写像をf:A→Bとする。
そして、
となったとする。
このとき、f(1)=f(2)=0になった、a=1、2は除き、f(3)=1になったa=3をもとに集合{3}を作れば、これはAの部分集合になる。
つまり、AからBへの、ある写像fに対して
という集合をつくる。
このような操作をAからBへの写像fのすべてに施せば、次のようになる。
この対応関係を見れば、この写像fとAの部分集合が1対1に対応していることがわかる。
f(1)、f(2)、f(3)には、それぞれ0か1の2通りの場合があるので、(f(1),f(2),f(3))の(写像fの)個数は2×2×2=2³個であり、これに1対1対応しているAの部分集合の個数も8個になる。
この説明でお分かりいただけましたでしょうか。
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