[線形代数ってなにさ?_5] [線形代数の基礎]
[線形代数ってなにさ?_5]
5.線形写像の標準分解
準備段階が済んだので、ここから具体的な話を始められます。内容はかなりブルバキの影響を受けてます。写像の標準分解がそれです。線形写像の標準分解を使うと、線形代数の構成への見通しが格段に良くなるが、持論です。ここが線形代数前半の山です!。
線形写像fを行列っぽく見せるためにAで表します。Axはf(x)の事です。また以後の話はn次元ベクトル空間VからVへの線形写像A:V→Vに限定します。このようなAは線形変換と呼ばれます。手始めに核空間です。
[定義-12]
Ax=0を満たすx∈Vの全体をAの核と言い、ker(A)で表す。ker(A)は部分空間になる。
Ax=0かつAy=0とします。
A(x+y)=Ax+Ay=0+0=0だからx+y∈ker(A)。
A(λx)=λAx=λ・0=0だからλx∈ker(A)。
従ってker(A)は部分空間。
そして像空間。
[定義-13]
任意のx∈Vに対するAx∈Vの全体をAの像と言い、Image(A)で表す。Image(A)は部分空間になる。
Ax∈Image(A)かつAy∈Image(A)とします。
Ax+Ay=A(x+y)=でx+y∈Vは自明だから、Ax+Ay∈Image(A)。
λAx=A(λx)でλx∈Vは自明だから、λAx∈Image(A)。
従ってImage(A)は部分空間。
写像の一般論として、1対1写像の事をここでは単射,上への写像の事を全射といいます。全単射(1対1かつ上への写像)なら逆写像(逆関数)がある事、およびその逆は当然とします。
[定理-2]
Aが単射である条件は、ker(A)={0}。
[証明]
Aが単射である条件は、Ax=Ayならx=yを示す事。
Ax=AyならA(x-y)=0。従ってx-y∈ker(A)。よってker(A)={0}ならx-y=0でAは単射。
逆にAが単射なら、A0=0は自明なのでker(A)={0}。
[証明終]
[定義-14]
ker(A)={0}となるAは、正則と呼ぶ。従って、Aが正則⇔Aが単射。
[定理-3]
Aが単射なら、独立なベクトル集合を独立なベクトル集合へ移す。
[証明]
{v1,v2,・・・,vn}を独立とする。Aの線形性から、
とすると、{Av1,Av2,・・・,Avn}が従属ならどれかのλjが0でなくてよいが、Aは単射なので、
がどれかのλjが0でなくても成り立つ事になり、{v1,v2,・・・,vn}が独立でなくなる。これは不可。
従って{Av1,Av2,・・・,Avn}が独立になる事が必要。
[証明終]
[定理-4]
Aが単射なら全射。
[証明]
{v1,v2,・・・,vn}をVの基底とする。
[定理-3]から{Av1,Av2,・・・,Avn}は独立であるが、A:V→Vなので{Av1,Av2,・・・,Avn}はVから作れる最大本数の独立なベクトル集合となりVの基底である。
Aが全射である条件は、任意のy∈Vに対してAx=yとなるx∈Vがある事。
{Av1,Av2,・・・,Avn}はVの基底なので、任意のy∈Vについて、
となる基底表現が存在する。Aの線形性から、
は自明なので、Ax=yとなる、
x∈Vが存在することになりAは全射。
[証明終]
[定理-5]
Aが全単射なら、A-1A=AA-1=EとなるA-1がある。ここにEは恒等写像。
逆に上記を満たすA-1があれば、Aは全単射。
[証明]
当然。
[証明終]
ここまでの結果をまとめます。
[系-1]
以下は線形変換A:V→Vにおいて同値。
Aが正則 ⇔ ker(A)={0} ⇔ Aは単射 ⇔ Aは独立なベクトルを独立に移す ⇔ Aは全射 ⇔ A-1あり。
[証明]
[定義-14]と[定理-2~5]による。
[証明終]
次の定理が線形変換の標準分解になりますが、必要な用語を写像の一般論からもう一個持ってきます。
写像f:X→Yの定義域XをD⊂Xに制限した写像g:D→Yを、fのDへの制限(縮小)と呼び、g=f|Dで表します。D上では明らかにf(x)=f|D(x)。
[定理-6]
Aの核ker(A)には直和補空間R(A)が存在する。A|R(A):R(A)→Image(A)は正則で全単射。
従って(A|R(A))-1が存在する。
Aが正則である条件は明らかにker(A)={0}で、このとき(A|R(A))-1=A-1かつImage(A)=V(図-1)。
[証明]
R(A)の存在は、前回の[定理-1]による。
A|R(A)が正則は、ker(A)とR(A)とA|R(A)の定義から、ker(A|R(A))=R(A)∩ker(A)={0}だから。
A|R(A)が全単射は、Image(A)に対して[定理-4]と同じ状況。(A|R(A))-1の存在は[系-1]。
最後に繰り返しになるが、ker(A)={0}ならR(A)=VだからVでAは正則。このとき(A|R(A))-1の定義より(A|R(A))-1=A-1は自明。Image(A)=Vなのは[系-1]による。
[証明終]
図-1 線形変換の標準分解
自分の意見では、図-1が線形写像の全てです。この図は、定義域の中で核空間を除外すれば任意の線形写像は、全単射で逆行列を持つと言ってます。核空間は{0}に写像するだけですから、実質的に使いたいのはそうでない部分ですよね?。そこが常に全単射で逆行列を持つという、素晴らしい性質です。
次の定理は勝手に次元定理と呼んでますが、[系-1][定理-6]と同等です。
[定理-7]
[証明]
Vの次元は明らかにdim(ker(A))+dim(R(A))。A|R(A):R(A)→Image(A)は全単射だから、[系-1]よりR(A)の基底をImage(A)の基底に移すので、dim(R(A))=dim(Image(A))。よって、
[証明終]
これでベクトル空間の固有空間による直和分解に進む事ができます。
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