境界要素法入門3 [境界要素法]
境界要素法入門3
[境界要素法-1]
線形問題に限って言えば、境界要素法は恐らく最強です。精度に優れ計算量も少なく、任意点の結果を取りやすい。計算プログラムの構成も明解でシンプル。
難点は特異積分(広義積分)を扱う必要のある点ですが、今では解析的積分公式やさまざまな計算テクニックも開発されてるので、やりゃ~何とかなります。
境界要素法(Boundary Element Method, BEM)の原理は有限要素法という計算スタイルより先行し、グリーン関数法です。
http://nekodamashi-math.blog.so-net.ne.jp/archive/c2305704962-1 (a)
の[コーシーの積分公式の周辺-1]
グリーン関数法は条件さえ合えば確かに便利な手段でしたが、簡単な境界条件でしか便利にならないという計算法としては致命的な所がありました。それでいかなる境界条件にも理論上は簡単に適用可能な、変分原理に基づいた有限要素法(Finite Element Method, FEM)が先に発展します。そしてFEMがそろそろ常識化しかけた頃、という事は「解析領域を要素に区切って数値計算」という計算スタイルに大抵の人が慣れてきた頃、一部のFEM人がラプラス方程式などをそういう目で見直し、それらも「要素に区切ってやっつけられる」事に気づきます(恐らくブレビア(※)あたり)。1970~80年代の出来事です。で事後検証してみると、「要素に区切ってやっつける定式化」は、グリーン関数法の現代風アレンジになっていたぁ~、という次第です(^^)。
(※) ブレビア 境界要素法入門(培風館)
変分原理から導けるのはラプラス方程式だけではありません。ポアソン方程式も導けます。
としてJを最小化すれば(やり方はこの前といっしょ)、ポアソン方程式、
が得られます。
(2)は湧き出し密度分布g(x,y)を持つ、非圧縮性渦なし完全流体の支配方程式で、g(x,y)は既知関数です。Jの意味は、流体の運動エネルギーと湧き出しのポテンシャルエネルギーも考慮した、流体全体のエネルギーを表します。
φが静電ポテンシャルなら、g(x,y)は与えられた電荷密度分布。Jは電荷のエネルギーも考慮した静電場エネルギーです。
グリーンの定理に戻ります。グリーンの定理はグリーンさんが特にグリーン関数法のために、ストークスさん供に導いたものです。
(3)を=0とおけばラプラス方程式(やポアソン方程式)が得られるのでした。従って(3)とともにラプラスやポアソン方程式を与えれば、変分を取ったのと同等になります(本当は要証明ですが(^^;))。
ところで変分δφは実質、連続関数であれば何でもOKでした。それでδφとして、φと同じタイプの方程式を満たすものを考えます。問題としては、偏微分方程式(2)を解きたいとします。
変分δφは、(2)のタイプとして特に次の条件を満たすとします。
δ(ξ,η)は点(ξ,η)に特異点を持つデルタ関数で、をラプラス方程式の基本解と呼ぶ事が多いです。ここでが(x,y)だけでなく(ξ,η)の関数にもなってるのは、(4)からはδ(ξ,η)で決定されるので、はきっとその特異点(ξ,η)もパラメータとして含むよね、という意味です。
形式的にを(3)に代入します。
で、はポアソン方程式を満たすのでした。という事は今度はに対してφを、その変分だと考える事も可能です。次式は直接計算しても出せます。
は明らかです(・は内積)。
(5)と(6)の辺々引くと、
を得ます。
ここでφは(2)を満たし、は(4)を満たします。
いま(ξ,η)が積分領域Rの内点なら、デルタ関数の性質から、
です。従って先の関係式から、
という事になります。
ここで、もう少し表現を簡単にします。
は、Rの境界Cの線素をdcとした時、方向微分の公式から
になるのがわかります。∂φ/∂nは、C上でのφの外法線方向微分値です。これをqで表しますが、についても同様です。は、境界上の流速値とか外法線微分とか呼ばれる事が多いです。
(ξ,η)は解析領域Rの内点であれば、どこでもOKでした。よってφ(ξ,η)は、Rの任意の内点(ξ,η)における解関数φ(x,y)の値です。それで(7)を、境界要素法の内点方程式と呼びます。
(7)の関係式自体は、グリーン関数法の開発過程で相反定理の名のもとに知られていました。当時はデルタ関数の方法がなかったので、こんなに簡単には導けませんでしたが。
じっさい基本解がφと同じ境界条件を満たすとすれば、これはRの境界C上でという事なので、(7)のC上の境界積分項は打ち消しあって0となり、参考URL(a)にあげたオリジナルなグリーン関数法の計算式と同等なものになります(グリーン関数の対称性)。
しかし(4)を満たし、その上φと同じ境界条件を満たすをみつける計算の方が、(2)を解くよりよっぽど難しいという事態はよく起こります。そこがグリーン関数法の実用上の問題でした。
(7)は、変分関係式(3)に支配方程式(2)を持ちこんだものです。もし変分δφが任意であれば、それは変分を取ったのと同等であり、(7)から陰的に解関数φを計算できる可能性が開けます。しかし(7)では、(4)を満たすという特定の変分しか用いていません。ところが条件(4)があればは十分に任意化されていると、FEMになれた一部の計算技術者や理論家達は気づいたのでした。
(執筆:ddt³)
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