[線形代数ってなにさ?_4] [線形代数の基礎]
[線形代数ってなにさ?_4]
4.部分空間は直和のためにある
今後、線形写像と行列は区別なく用います。どっちの事を言ってるのかは、文脈で判断して下さい。
最後の準備段階です。準備段階なので「後で役に立つからやるんだ」と定理と定義を受け入れて下さい(心苦しいですが)。
[定義-6]
ベクトル空間V(それは集合でもありました)の部分集合W⊂Vで、Wがベクトル空間になるものをベクトル空間Vの部分空間と言う。
部分空間Wの特徴づけは簡単です。要するにベクトル空間の[定義-1]を満たせばいいんですよ。念のため再記すると、
[定義-1]
ベクトル空間(線形空間)Vとは、集合Vと体Kのペアがあり、次の公理を満たすもの。
(V1) a,b∈Vなら、a+b∈V。
(V2) a,b,c∈Vとして、(a+b)+c=a+(b+c)。
(V3) 0∈Vがあり、任意のa∈Vについて0+a=a+0=a。
(V4) 任意のa∈Vについて、-a∈Vがあり(-a)+a=a+(-a)=0。
(V5) a+b=b+a。
(V6) 任意のα∈Kとa∈Vについて、αa∈V。
(V7) α,β∈K、a∈Vとして、(αβ)a=α(βa)。
(V8) α,β∈K、a∈Vとして、(α+β)a=αa+βa。
(V9) α∈K、a,b∈Vとして、α(a+b)=αa+αb。
(V10) 1をKの単位元として、1a=a。
ですが、W⊂Vですからね。Wのメンバーはみんなベクトルです。そうすると(V2)~(V5),(V7)~(V10)は自明じゃないですか。残るのは(V1)と(V6)のみです。こればっかりは、やってみなけりゃわかりません。よって、
aとb∈W,α∈Kとして、a+b∈Wかつαa∈Wならば、Wは部分空間である。
証明終わり!(^^)。
次は完全なる用語の定義です。
[定義-7]
0∈VのみからなるVの部分集合{0}は部分空間である。これを{0}空間と呼ぶ。
エッ、証明しろ?。0+0=0∈{0},α0=0∈{0}だから・・・。
こっから本題です。Vの基底B={v1,v2,・・・,vn}を考えます。BはVの任意のベクトルを表現できる能力があります。例えばVの二つの部分空間W1とW2があった場合、w1∈W1とw2∈W2について、
(1)
という基底表現があります。ここで添え字k1,k2,・・・,kpとL1,L2,・・・,Lqは、W1とW2を表すのに必要なBのメンバーの一部を取り出したという意味です。W1とW2はVの部分集合でもある訳ですから、普通に考えたら{v1,v2,・・・,vn}の全部を使う訳ないですよね?。それから(1)で表されるw1やw2をいくら足しても、またスカラー倍しても(1)の形になるので、部分空間の[定義-6]と矛盾しないのもわかりますよね?。
ここにもう部分空間の意図が見えています。基底とは抽象化された座標軸でした。要するに部分空間とは、部分座標軸による表現です。3次元空間で(x,y,z)座標じゃなく、xy平面で考えたい場合もあるよねぇ~、という話に対応するものです。
添え字k1,k2,・・・,kpに対応する基底を集めたベクトル集合をB1,L1,L2,・・・,Lqに関するものをB2とします。B1とB2はBの部分集合(部分基底)で、もちろん基底の定義から独立なベクトル集合です。
部分空間Wが部分基底Cで(1)のように表現される時、WはCで張られると言います(本当はもう少し広い意味で使われますが)。
W1を張るB1と、W2を張るB2の共通メンバー(B1∩B2)は、あるかないかのどちらかです(B1∩B2≠φかB1∩B2=φのどちらか)。
B1∩B2≠φの場合、共通メンバーだけ取り出してまた(1)の形を作ってやれば、それらはW1とW2の両方に含まれるのは明らかなので、W1∩W2≠φです。
B1∩B2=φの場合、W1∩W2=φになるのかと思いきや、W1∩W2≠φです。それは0ベクトルが任意の部分空間Wに含まれるからです。定義からα=0かつa∈Wとして、αa=0・a=0∈Wだからです。これは(1)で全ての係数を0としたケースです。しかしW1∩W2={0}にはなります。
証明します。v∈W1∩W2は0になる事を示します。(1)の左辺のw1とw2をvとした式を想像します。等しいので等置し移項すれば、B1∩B2=φなので独立・従属のところでしつこくやった線形和の形です。そしてB1∪B2⊂Bです。基底の定義より(1)の係数は全て0。従ってv=0。W1∩W2={0}。
[定義-8]
W1,W2⊂Vを部分空間として、W1∩W2={0}となるものを互いに独立な部分空間と呼ぶ。
証明はしませんが、W1の任意のベクトルとW2の任意のベクトルが独立なのは明らかですよね?。3次元空間でz方向の任意のベクトルとxy平面の任意のベクトルが独立なのは明らかですよね?。z軸とxy平面が、R3の部分空間である事も。W1とW2の共通分に自明でない(0でない)ベクトルがあるって事は、張る基底の一部がダブッテルって事です(^^)。
一般には互いに素な部分空間と言うようですが、自分は[定義-8]の呼び方がぴったりきます。
[定義-9]
W1とW2を部分空間、w1∈W1,w2∈W2として、w1+w2全体の集合Wを、部分空間W1とW2の和空間と呼び、W=W1+W2で表す。和空間は部分空間である。
あくまで基底ベースで考えましょう。W1を張る基底とW2を張る基底の全部を使って、Wを張ったと言ってるだけです。ところで部分空間のスカラー倍はなんでないんでしょう?。部分空間の任意ベクトルのスカラー倍は、定義から元の部分空間に戻っちゃうからです(^^;)。
[定義-10]
WがW1とW2の和空間であり、W1とW2が互いに独立なとき、WはW1とW2の直和であるといい、
で表す。これを「Wは、W1とW2へ直和分解された」とも言う。
WがW1とW2の直和でない場合、W1とW2のベクトルには重複するものも沢山ある訳ですから、W=W1やW=W2やW=W1=W2もありえます。
[定義-11]
ベクトル空間をVとして、
であるとき、W1はW2の(W2はW1)の直和補空間であると言う。
ただの補空間なる用語もありますが、わかりますよね?。基底概念は座標軸の一般化でした。部分空間はそれを束ねたものです。なので「ベクトル空間の部分空間による直和分解」は、基底概念の一般化と思えませんか(^^)。ベクトル空間を適当な部分空間で直和分解し、線形写像(行列)の作用を自明にする事、それが固有空間への直和分解であり線形代数前半の最終目標です。部分空間は、直和を定義するためにあります。
以下の定理に特殊ケースを作りたくないので、次の約束を行います。0ベクトルは任意の部分空間Wに含まれるのでW∩{0}={0}です。またW=W+{0}も明らかです。[定義-8]に従い、これも直和だとみなします。すなわち直和分解、
はいつでも成り立つとします。
[定理-1]
ベクトル空間Vの任意の部分空間Wには、{0}空間も含めれば直和補空間Uが必ず存在する。
[証明]
Vの基底をBとし、Wを張る部分基底をB1⊂Bとする。BにおけるB1の補集合B2=CBB1(ブルバキ式の記法です(^^;))でUを張れば良い。B2=φならU={0}。
[証明終]
[定理-1]はVがベクトル空間であればどこでもOKの定理です。VがVの部分空間Wであっても。部分空間Wの中の部分空間が可能なのはもう明らかだと思います。その部分空間はVでの部分空間と同じです。部分空間Wの中でS⊂Wの直和補空間を考えたい時は、WでのSの直和補空間Uという言い方をします。
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