[線形代数ってなにさ?_7


 


7.固有ベクトル基底


 基底変換するのは、最も便利な座標系に移りたいからでした。その中でもとりわけ汎用性があり、実用的にも最も有用なのが、固有ベクトル基底への変換です。


 


[定義-15


 Aをn次元ベクトル空間V上の線形変換として、Axλxを満たすスカラーλ0でないx∈Vを、線形変換Aの固有値、および固有値λに属する固有ベクトルと言う。


 


 最初に線形変換Aを数ベクトルに作用する行列として状況説明します。行列式も行列演算も連立一次方程式の整備も全部すっ飛ばしてやってるので申し訳ないですが、固有値と固有ベクトルの計算は以下のようになります。Axλxを移項するとEを単位行列として、


  


になりますが、上記がx0以外の解を持つ条件は、


  


です。行列式の計算法を読むとAがn×n行列の場合、det(A-λ)λn次多項式になるのがわかります。


  


 上式の右辺を行列Aの特性多項式といい、φ(λ)で表す事が多いです。従って固有値λn次方程式、


  


を解く事で得られます。一般にはλは複素数です。固有ベクトルは得られたλ(1)に代入して、実際に(1)を解けば得られます。原理的にはですが(非常に悪効率)。実用的には(数値計算では)効率を重視して反復解法を用います。


 


 次の事実はけっこう簡単に証明できます。


 


  ・異なる固有値に属する固有ベクトルは独立である。


 


 λn次方程式(2)の解です。よってλにはn個の値λλ1λ2,・・・,λnがある事になり、λ1λnが全部異なれば、互いに独立な固有ベクトル{x1x2,・・・,xn}を得ます。Vの次元はnだったので、これは基底です。


 線形変換の定義に戻って、固有ベクトル基底{x1x2,・・・,xn}に関する線形変換の挙動を調べてみます。行列Aに対応する線形変換をfとします。という事は{x1x2,・・・,xn}は数ベクトルとは限りません。


  


ですよね?。diagは対角行列です。だって(1)に対応したf(x)λxが成り立つ{x1x2,・・・,xn}なんですから!。


 


  ・固有ベクトル基底に移ると表現行列は対角行列です(^^)


 


 そうすると線形変換fによる任意のベクトルxの変換は、



で済んじゃいますから、ほとんど計算する必要も考える必要もなくなります。これが固有ベクトル基底が好まれる理由です。


 


 具体的に固有ベクトル基底に移る手順は以下です。前回の基底変換の表現ベクトルの変換を思い出します。


  


 Sは基底変換行列。j)fの行列表現が(対角でない)Aとなる現在の基底(vj)での表現ベクトル,変換後の基底(xj)での表現ベクトルがj)です。いま(5)は、どれかの固有ベクトルxjの表現ベクトルだとします。(5)の右辺は基底(xj)での表現ベクトルなので、xjの表現は当然、


  


 


と第j成分だけが1の自然基底の単位ベクトルになります。左辺の添え字jは、j番目の固有ベクトルの表現という意味です。左辺はどのように決まるでしょう?。


  


から、


  


なので、移項して転置して(vj)の独立性を使えばいつものように、


  


が得られます。λjrjij)は、普通に数ベクトル空間に作用する行列Aの固有値と固有ベクトルである事がわかります。j1nrjejを全部集めて、(6)を横に並べた姿を想像すると、



ですよね?(^^)。つまり固有ベクトル基底への基底変換行列Sは、普通に計算した固有ベクトルを縦ベクトルとして横に並べて作った行列なのです。Sをそうやって作った基底変換行列だとすると、前回の相似変換により、


  


と変換できます!。


 基底の選択により姿は変われども、表現行列を与えればとにかく線形変換は決まるので、けっきょくは表現行列が線形変換の全ての情報を握っていたという、考えてみれば当然の話でした(^^;)


 


 固有ベクトル基底に関する概念上の含みはこうです。前回とある基底に関する線形変換fの表現行列をAとした時、fの実体とは、Sを任意の正則行列としてS-1AS全体であると言いました。今回Aとして対角行列Dを選択するのが可能なのがわかりました。Dで表現されたfの作用は自明です。またDをfの特徴付けに選ぶ事も可能です。S-1DSとDは、任意の正則行列Sによって互いに移るからです。従ってDさえわかれば、線形変換fの全てを、原理上は知ったと言える事になります。


 


 さぁ~もうやる事は決まりました!。


 


 ネコ先生の記事を読んで(^^)


 


任意の行列Aの固有値と固有ベクトルをバリバリ計算し、どんなAだってカッチョ良く扱うだけです!(^^)


 


 ところがその前に、しなければならない事があります。以上の話は全て、固有値λλ1λ2,・・・,λnが全部異なれば、という制約付きでした(^^;)。特性多項式(2)は一般に、



と因数分解されるので、重根を持ちます。k1k2+・・・+kmnですが、重根があった場合もはたして独立なn本の固有ベクトルは存在するのか?、という問題があります。結論から言うと、固有ベクトル基底が存在しないケースもありますが、ほぼ望み通りのものが手に入ります(^^)


 


(執筆:ddt³さん)