第60回 ルーシェの定理の応用


 


前回紹介したルーシェの定理



定理(Rouchéの定理)


f(z)g(z)が単一閉曲線Cで囲まれた閉領域Dで正則であり、C上で


  


ならば、f(z)g(z)Cの内部で同一個数の零点をもつ。ただしここでl位の零点はl個と数える。



は、たぶん、問題を解くときには、使いづらいと思うので、別表現のルーシェの定理を紹介する。


 



定理(Rouchéの定理)


f(z)g(z)が単一閉曲線で囲まれた閉領域Dで正則であり、C上で



ならば、f(z)f(z)+g(z)Cの内部で同一個数の零点をもつ。



 


z³+3z+1=0の|z<2の解の個数について考えることにする。


f(z)=z³g(z)=3z+1とすると、閉曲線|z=2(原点を中心とする半径2の円)上で


  


したがって、ルーシェの定理より、f(z)+g(z)=z³+3z+1f(z)=z³は|z<2で同じ個数の零点をもつ。


z<2におけるf(z)=z³の零点、つまり、f(z)=z³=0となる点はz=0でこれは3位の零点である。だから、


z<2におけるf(z)+g(z)=z³+3z+1の零点は3個、つまり、z³+3z+1=0の解の個数は3娘である。


また、|z<1のとき、|z=1上で


  


したがって、f(z)+g(z)=z³+3z+1g(z)=3z+1は|z<1で同じ個数の零点をもつ。g(z)=3z+1の零点、つまり、g(z)=3z+1=0の点はで、これは1位の零点。よって、|z<1におけるz³+3z+1=0の解の個数は1個である。


 


ちなみに、の実数解は、カルダノの公式から


  


複素数解を含めると


  


ここで、ω


  


 


問題 5次方程式の複素数解は2未満であることを証明せよ。


【解】


とおくと、これは閉曲線|z=2上で


  


したがって、ルーシェの定理より、|z<2におけるの零点の個数は等しい。|z<2におけるf(z)=z⁵の零点はz=0でこれは5位の零点。したがって、|z<2におけるの零点は5個。の解は5つしかないから、|z<2にすべて存在することになるケロ。


よって、


の複素数解は2未満である。


(解答終)