【特別寄稿】 コーシーの積分公式の周辺-1


 


 コーシーの積分定理と積分公式から、以下を導けます。複素平面をzxiyで表すとして、


  (1) z0を外点とする任意の領域Rで、


   


  ただし∫dzRの境界C上の複素積分。


  (2) z0を内点とする任意の領域Rで、


  


  (3) z0で形式的に、1/z=∞。


 


 これを見た時「デルタ関数の積分だ!」と思ったものでした(係数2πi)。というのは、複素関数を実と虚部の成分関数でf(z)u(xy)iv(xy)と書けば、複素(線)積分はガウスの発散定理で、実質は実の領域積分に直せるからです。


 数値計算を(間違って?(^^))仕事にし、物理数学と渋々直面した人は、必ず1回はグリーン関数法を経験します。グリーン関数法は、グリーンさんがグリーンの公式を使って線形偏微分方程式の便利解法として開発したものです。


 領域Rで定義される線形偏微分方程式を表す線形作用素をLとし、Lf(xy)g(xy)Rの境界Cで境界条件Bを満たすとします。ここでf(xy)は未知関数,g(xy)は既知関数です。C上でBを満たし、Rで、


  


を満たすG(xyξη)がグリーン関数です。δ(ξη)η)に特異点を持つデルタ関数。Gが見つかれば、線形作用素Lには解の重ね合わせが効くので、


  


f(xy)を計算できます。∫dξdηRで行います。


 ところが境界条件Bを満たすグリーン関数をみつける計算の方が、Lfgを解くよりよっぽど難しいなんて事態は、よく起こります。そこで出来るだけ簡単なグリーン関数を使用して、境界条件のずれは数値的に合わせようとグリーン関数法を現代っぽくアレンジしたのが、境界要素法です。


 Lとして一番普及してるのは、非圧縮性渦無し完全流体と静電場の支配方程式に現れるラプラシアン


  


です。Δに対するグリーン関数は、


  


と書けます。とりあえずδは原点に特異点を持つとしますが、任意の位置に特異点を持つ場合は、上式の解を平行移動するだけです。境界要素法では出来るだけ簡単なグリーン関数を使いたいので、普通はφを等方的とし境界条件は付けません。この条件を付けたグリーン関数を、ラプラス方程式の基本解と呼びます。


 等方的なφとすれば極座標に移った方が便利なので、Δで書き変えます。


  


   ※等方的なのでの項は0になる。


 δ(0)r0以外では0です。従って実質的には、r≠0で、


  


 


を解けば良い事になります。これは線形常微分方程式です。解の公式を適用し、


  


を得ます。ABは積分定数。非圧縮性渦無し完全流体でも静電場でもφはポテンシャルですので、B0に選べます。Aの決定にはデルタ関数の性質を使います。


  


 ∫dxdyは、原点を内点として含む任意の領域Rで行います。再びδの性質から、r≠0ではδ(0)0なので、Rとして半径εの円が可能です。∫Δφdxdyはそのままでは積分できないのでガウスの発散定理を使い、円周上の線積分ε∫dθに直します。θ0です。そうするとφ(r)の具体的形から、


  


が得られて、2πA1よりA1/(2π)になります。


 すなわちラプラス方程式の基本解は、


  


です。δη)に特異点を持つ場合は、とします。


 (1)(3)はデルタ関数の実用的な定義と言えますが、(1)(3)のかわりに、基本解φがラプラス方程式、


  


を満たす事を、デルタ関数の定義にも出来るはずです。


(執筆 ddt³)




以上は、ネムネコ・ファミリーのddt²さんの「ねこ騙し数学」への投稿記事です。


見やすいように若干数式に手を入れました。


 


なお、δ関数とは


  


という特殊関数のこと。


物理学者のディラックが提案した関数。