第19回 選択公理と整列可能定理


 


§1 選択公理


 


Λを添字の集合とする集合系が与えられたとき、Λからへの関数fのうちで、Λのどの元λに対して


  


となるようなものの全体を集合系直積といい、


  


で表し、各直積因子という。


特に、とすれば、集合系の直積は、であるような組全体となり、これまでの直積の定義、つまり、


  


と一致する。


Nを自然数全体の集合とし、Λ=Nのとき、


  


で表すことがある。


 


集合系においてとなるものが少なくとも1つあるとき、その直積になる。この裏にあたる命題


Λ≠∅、かつ、すべてのλ∈Λに対して、


  


が成り立つ


選択公理という。


このとき、直積の元を集合系選択関数という。


 


直積において、すべてのが同一の集合Aであるとき、で表す。また、は、ΛからAへの写像全体の集合に一致する。


 


Aを任意の空でない集合とする。とおくと、X∈ΛならばX≠∅だから、選択公理により、Λによって定まる集合系の直積は空でない。いま、この元を1つとって、それをfとすれば、fからAへの写像であり、すべてのに対してf(X)=Xとなる。このようなfAの上の選択関数という。


 


先に、任意の無限集合Aは可算な部分集合をもつことを示した。


その際、Aから元a₁を選び、次にA−a₁}から元a₂を選び、さらにA−a₁,a₂}から元a₃を選び、以下の操作を繰り返すことによって可算集合を得たのだが、実は、この証明において、選択公理を暗黙のうちに使用している。


このことが明確になるように示すと次のようになる。


 


定理 任意の無限集合は可算部分集合をもつ。


【証明】


集合Aが無限集合であるとし、fを集合Aの上の1つの選択関数とする。


まず、とおく。次に、とおく。


同様に、一般に


  


とおく。


すると、Aの可算部分集合である。


(証明終)


 


定理(濃度の大小)


A,Bを集合とする。AからBへの全射が存在すれば、|B|≦|A|である。


【証明】


を全射とする。


b∈Bに対して、


  


とおくと、fは全射であるので、である。


よって、選択公理より、


  


は空でない。


をその元とすれば、fが写像であることより、は単射。


したがって、


  


(証明終)


 


§2 整列可能定理


 


空でない任意の集合Aに順序を定め、整列集合にできるか、という問題がある。


選択公理を仮定すると、この問いに肯定的に答えることができる。しかし、この証明は難しいので、ここでは整列可能定理のみを紹介し、整列可能定理から選択公理を証明することにする。


 


整列可能定理


任意の集合は、その上にある順序を定義して整列集合にすることができる。


 


問題 整列可能定理を用いて、選択公理を証明せよ。


【証明】


であるような集合系とする。


  


とし、整列可能定理によりAを整列する。この整列順序に関するの最小元をとすれば、はの元である。


よって、


  


(証明終)


 


また、整列可能定理を用い、次の定理を証明することもできる。


 


定理 (濃度の比較定理)


αβを任意の濃度とすると、



のうちの1つだけが成立する。


【証明】


A、|Bである集合ABをとり、整列可能定理により、ABのそれぞれの上に整列順序を与えることができる。


すると、


 


のうちのいずれか1つだけが成立する。


ゆえに、


(1)の場合は|A=B|、(2)の場合は、(3)の場合は


すなわち、α=βまたはα≦βまたはα≧β


したがって、α<βα=ββ>αのいずれか1つが成立する。


(証明終)


 


§3 Zornの補題


 


Aを空でない順序集合とする。Aの任意の空でない全順序部分集合Xに対して上限が存在するとき、A帰納的な順序集合という。


 


Zornの補題


Aが帰納的な順序集合ならば、Aは極大元を持つ。


 


証明はしないが、次のことが知られている。


 


定理


次の(1)〜(3)は同値である。


(1) 選択公理


(2) Zornの補題


(3) 整列可能定理


 


集合論の教科書などでは、選択公理→Zornの補題→整列可能定理の順に証明し、そして、整列可能定理から選択公理を証明し、選択公理、Zornの補題、整列可能定理の3つが同値であることが示されるのが一般的であるが、選択公理から整列可能定理を直接証明することもできる。


そして、この3つは同値なので、どれを出発点、つまり、公理に採用して、理論を展開してもよいのであった。