第13回 濃度の大小


 


§1 濃度の大小関係


 


ABを有限集合とする。Aの濃度がBより小さいことは、Bの中にAと対等な真部分集合があることに他ならない。


すなわち、


  


であるB₁が存在するとき、


  


が成立する。


しかし、無限集合のとき、


  


は一般に成立しない。


たとえば、Aを自然数全体の集合、Bを偶数全体の集合とするとき、BAの真部分集合でBBが成立するが、ABで、ABの濃度はともに可算濃度であって、


  


は成り立たないからである。


このように矛盾した事態が発生しないように、濃度の大小関係を次のように定義する。


 


濃度の大小の定義


集合ABについて


  


であるB₁があるならば、|A|は|B|よりも大きくない、あるいは、|B|は|A|より小さくないといい、


  


と記される。


さらに、|A|≦|B|かつ|A|≠|B|のとき、|A|は|B|より小さい、あるいは、|B|は|A|より大きいといい、


  


と書く。


 


なお、(2)と「AからBへの単射が存在する」と同じことなので、これを濃度の大小の定義としてもよい。


選択公理を認めると、


BからAの全射が存在するとき


  


であることが証明できる。


 


 


例 自然数全体の集合Nは、実数全体の集合Rの部分集合であり、かつ、NRは対等でないので、である。したがって、


  


また、実数全体の集合RからRへの関数全体の集合Fとすると、Fの中にRと対等な部分集合があり、かつ、RFは対等でないので、関数の濃度をfで表すと、


  


である。


 


定理1 |A|≦|B|、|B|≦|C|ならば|A|≦|C|である。


【証明】


A|≦|B|、|B|≦|C|だから


  


であるB₁C₁がある。


BからC₁への全単射をfB₁fによる像をf(B₁)とすると、


  


よって、


  


ゆえに、


  


(証明終)


 


定理2 (ベルンシュタインの定理)


  


 


ベルンシュタインの定理の証明は大変なので、ここでは定理だけを紹介する。


 


以上のことをまとめると、次のようになる。


 


 


 


§2 冪集合の濃度(カントールの定理)


 


集合Aの部分集合の全体からなる集合をAの冪集合(べきしゅうごう)といい、記号



で表す。


 


例 A=1, 2, 3}とすると、Aの部分集合は



の8個で、Aの冪集合



である。


 


有限集合Aの要素の数がn、すなわち、Aの濃度|A=nであるとき、の要素の数はで、その濃度はである。


したがって、有限集合Aの場合、次の関係が成立する。


  


【証明】


n=0あるいはn=1ならば、0<1=2⁰1<2=2¹だから、


  


n=kのとき


  


が成り立つと仮定する。


n=k+1のとき


  


数学的帰納法により、


  


ゆえに、


  


(証明終)


 


Aが有限集合のとき、Aの濃度はAの冪集合の濃度より小さい。


Aが無限集合の場合も、が成り立つというのが、次のカントールの定理である。


 


定理3 (カントールの定理)


任意の集合Aに対して


  


【証明】


Aの部分集合のうちで、要素を一つしか含まない集合全体をA₁とすれば、


  


である。


Aの任意の要素aに{a}∈A₁を対応させれば、これはAからA₁への全単射になる。


よって、


  


次に、であることを示す。


  


を全単射と仮定し、


  


とおく。


であるから、f(a)=Xとなるa∈Aが存在する。


しかし、


Xの定義から


  


となり矛盾が生じる。


よって、Aからの全単射は存在しない。


ゆえに、


  


(証明終)