4.基線補正の検証と周波数特性


 


 図-13に、基線補正後の加速度波形のEWNSUDを示します。これと原波形の図-1を比較しても、どこが変化したのか、ほとんどわからないと思います。


 







 もしぱっと見で違いがわかったら、明らかに補正の(データ加工の)やり過ぎです。違いが見えないと思いますので、周波数領域で比較します(図-14)

 図-14では、補正前の加速度の振幅スペクトルを黄色いラインで示していますが、補正後の青ラインと重なってほとんど見えません。基線補正が地震波の特性に大きな影響を及ぼしていない事がわ


 


 海溝型の地震の主要周波数は110 Hzと言われています。この地震の周波数特性ですが、まず第1ピークが510 Hzにあり、高周波の地震です。また第1ピークとあまり違わない大きさの第2ピークが1011 Hzの範囲にあり、直下型の地震にかなり似ています。この前の北海道胆振東部地震(直下型)でも、同じようなスペクトル分布が得られました。今回の新潟山形県沖地震と、海溝型の典型である東北地方太平洋沖地震(3.11)を、パワースペクトル(振幅2乗値)で比較したのが、図-15です。







 3.11はM9.0という超巨大地震ですので10 Hz以上のパワーもすごいですが、無視できないパワーを持つ周波帯が、1 Hz以下まで満遍なく広がっているのが特徴です。そういう意味では3.11は、低周波な地震です。総出力は概ねパワースペクトルの面積に比例すると考えられるので、3.11のパワーは圧倒的です。ちなみに牡鹿は3.11の震央から最も近い地点で121 kmです(^^;)


 


 新潟山形県沖地震は、直下型に近いなぁ~という印象です。ただし3.11の深さはこの規模の地震では非常に浅いと考えられる24 kmですから、直下型の性質も持ってるようです。


 


 


5.変位軌道


 


 図-12の変位結果から、変位軌道を描いたのが図-16です。こんな風に揺れました?・・・ってわかるわけないか(^^)


 





5.距離減衰


 


 震源(震央距離)と加速度振幅の2乗値(1乗値)の両対数は、良好な線形相関を持つと言われています。その相関を表す回帰直線が、距離減衰式です。ここでは震源距離dと振幅2乗値pを用います。振幅2乗値は意味として、波動のパワーに対応するので。図-17です。図中の黒点線が、距離減衰式を表します。少々データ処理は行いましたが、どちらの直線も相関係数のR2値は0.6以上あります。回帰直線は、


 


  log10 p-1.6546log10 d1.2586d ≦ 100 km


  log10 p-5.1687log10 d8.2348100 k m≦ d


 



 


 回帰直線が2つに折れるのは、直下型の特徴だと自分は思っています。一方、海溝型の典型である東北地方太平洋沖地震では、


 





という風に、一つの回帰直線で表せるケースが多いです。


 


 距離減衰からみても、今回の地震は直下型に近いのではなかろうか?というのが、自分の意見です。実際に冒頭のgoogle earthからも明らかなように、陸地から非常に近く非常に浅い所で起こった、海底地震です


 


6.まとめ


 


 なんか四川省の直下型地震と規模も深さも変わらないくせに、どうして日本の方が被害が小さいんだ?などと、中国がうらやんでるみたいな記事も見たのですが、自分の意見では偶然ですよ。本当の直下型でなかった、というだけの偶然。


 


 加速度振幅の2乗値の対数と計測震度の間には、じつは非常に良好な相関があるのです。どちらも地震のパワーを表す代表値だからです。


 



 


 加速度の振幅2乗値と計測震度には、R20.9294の相関があります。計測震度の計算法は、上手くできてるなぁ~と自分は思います。


 図-19の回帰直線は、sを計測震度として、


 


  s0.8569log10 p5.5601


(5)


です。


 


 もし新潟市が震央だったらと仮定してみます。要するに震源の直上です。その時の震源距離は、深さ10 kmです。これは(4)で、log10 dlog10 101という事です。よってlog10 p=-0.396(5)よりs5.22。震源距離14 kmの温海の実測震度は5.2ですから、この値は妥当そうですが、回帰直線はあくまで統計量です。


 図-17を見ればわかるように、実測データは距離減衰式のまわりでばらついています。なので青ラインで示したように、実測データを包絡させた方が安全なのです。青ラインは(3)で表される回帰直線を上へ1だけシフトさせたものです。でも対数目盛ですからね。上へ1という事は10倍の差です。振幅2乗値で10倍ならば、振幅値では3.2倍の差になります。温海の最大加速度振幅は653 galですから、653×3.22065 gal2.1 gにもなります。この値は日本に残っている強震観測記録の最大値の約2倍です。


 このように距離減衰式は、対数目盛マジックにおんぶにだっこの方法なのです(^^;)。さらに図-19にも±1程度のばらつきがあります。これも青ライン側へシフトさせて考えるのが安全です。そうすると最悪の事態では、log10 p=-0.39610.604s0.8586×0.6045.560117.0797.1。でもまだ甘いかも知れない。


 


 20141023日に起きた新潟県中越地震は、M6.8,深さ13 kmで今回の地震に似ています。ただしこれは完全な直下型。最大計測震度は7を記録しました。震源の直上にいなかった幸運に感謝すべきだと、自分は思います。もしいたら、こうなっていてもおかしくなかったと思う。


 



 




-20 北海道胆振東部地震の斜面崩壊,厚真町

 


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E6%B5%B7%E9%81%93%E8%83%86%E6%8C%AF%E6%9D%B1%E9%83%A8%E5%9C%B0%E9%9C%87#/media/ファイル:Ground_surface_in_northern_Atsuma_Town_after_2018_earthquake.jpg


 


 こういう斜面崩壊が何10 kmの長さで、延々と起こった。


 


 19951月の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の少し前、198910月にサンフランシスコ地震(ロマ・プリータ地震、M7.1,深さ18.5 kmの直下型)が起き、倒壊する高速道路から落下する車両という衝撃の動画が報道されたものでした。


 



 


 


 この時、日本の耐震業界の大御所は言いました。


 


  「日本の耐震技術はアメリカより進んでるので、わが国でこんな事は起こらない」


 


・・・と。


 




 



 


-21 兵庫県南部地震 名神高速道路(大阪灘区)

 


 


 


 一般国民を安心させるための方便だったのかも知れませんが、特殊民である我々は、


 


  「あ~言っちゃったよ、この先生」


 


と思ったものでした。ほどなくして兵庫県南部地震(M7.3,深さ16 kmの直下型)が起こり、高速道路の丸ピアが次々と根こそぎ倒れたのは記憶に新しいです(私には)。


 その後、ものすごい速さで復旧仕様が出され、耐震基準はほぼ年単位で改訂されて行きました。その時の中心メンバーの一人は、先の大先生でした。


 


 直下型の現場にはいたくないですね。