仮想仕事の原理の補足説明


 


 ダランベールの原理で拘束力による仮想仕事が0になる代表的条件は、概ね3つになります。


 1つは拘束軌道による抗力が法線方向のみに働き(摩擦なし)、仮想変位と抗力が直交するケース。


 2つ目は相対距離一定(剛体運動)のケースで、この時は相対距離一定になる仮想変位ペアと、作用・反作用の法則で互いに逆向きになる内力のペアのつくるベクトルが直交します。この時T₁T₂0の条件はもちろん必要なんですが、仮想変位ペアは必ずしもイコールにはならない訳で、それと相対距離一定の条件から、内力と仮想変位が直交するというところがミソです。


 3つ目は滑車のケース。このケースでは逆に滑車の糸の張力(内力)は同じ向きにイコールで、仮想変位が逆向きになります。結果としてはやはり、内力と仮想変位は直交します。


 


 以上を一般化すると、n個の質点に対する幾何学的拘束条件、


   


があった場合、その仮想変位には、


  


という関係が入ります。ここでは質点の位置ベクトル,∇は勾配,を一列に並べたベクトルの微小変位です。・は内積。


 後の式は、最初の式が定義する3n次元空間の中の超曲面の接平面上に、仮想変位がある事を意味します。


 


 で。これは仮定なんですが、幾何学的拘束条件による抗力は必ず∇f方向にあるよと。もしくはそういう系だけを考えましょうと。


 この前提のもとに、幾何学的拘束条件による抗力の仮想仕事は常に0となり、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーとだけからラグランジュ方程式を導けるというストーリーが成り立つ事になります。接面方向に働く抗力がもしあったとすれば、それは一般化された摩擦です。


 


 上記仮定の背景ですが、例の(?)活力論争だと思います。当時すでに「摩擦がなければ」、力学的エネルギーは保存する事が、少なくとも薄々はわかっていた。摩擦は常に、具体的な拘束条件の接平面方向に働き、それは原理的なものではないので0として良いと。


 先の抽象的条件は、この状況の一般化です。よって抗力は∇f方向にしかなく、抗力の仮想仕事は0になると。


 仮想仕事の原理自体はマッハによれば、梃子の原理や単純滑車・動滑車の挙動の考察から導かれたもので、そこでも当然摩擦はありません(静力学)。


 それを配位空間という言葉は使わなかったものの、3n次元の超曲面という形で捉え、ダランベールの原理を通じて動力学に 結びつけたのはラグランジュの功績です。


 


 山本ボンのラグランジュの章によれば、じっさいにラグランジュはラグランジュ方程式の性質だけから、運動量保存則,角運動量保存則,エネルギー保存則をあらためて導きます。そのやり方は、記法さえあらためれば、完全に現在のものといっしょです。


 さらに、ラグランジュ方程式に従う運動は(実際の運動は)、ラグラジアンの時間積分(作用積分)を最小にする事まで確認しています。活力論争の影響は大きかったと思います。


 


(執筆:ddt³さん)